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期待のホープと呼ばれた男が無能と嘲られる。俺の人生はそんなことの繰り返しだったと思う。結局のところ、俺は観測者でしかなく、主人公にはなれない。俺の記憶は全て、俺という視点によって描かれる他人の人生だ。そこに俺の感情の入り得る余地はなく、彼らに映る観測者が描かれることもない。
俺は俺の世界にいて、取り巻く環境を言語化することで俺の痕跡を他人に刻もうと何度も試みてきた。しかし他人も俺の世界の登場人物なのだから全て無為だった。彼らは俺の言葉に触れ、眉をしかめる。しかし彼らはキャラクターに過ぎないのだから、それ以上何も生まない。彼らに世界は存在しない。
しかし、それでもやはり俺は主人公になれない。数十億の登場人物のひとりを主人公と据えて、その人生を観測し続けるのが俺の役割だからだ。その人生が俺であり、俺の視点の及ばぬところを文章とするのが俺の小説だ。しかし現在までのところ、主人公は現れない。俺の歩んだ人生は、これまでのところ風景画と相違ない。
産むも産まぬも生きるも死ぬも自由なオープンワールドに投げ入れられ、身に余る自由をただ傍観する人生。そこに生きる人物をただ描き続ける人生。しかし俺が描くことで、俺はそこに居ぬとも、彼に命が吹き込まれる。
訪れる明日に自ら赴くことができぬ世界で、息を切らしながらひた走る人生。愛に焦がれた記憶を曖昧にする人生。茫漠たる未来に覚えた不安を奥歯で噛み締める人生。過ぎ去った日々に未だ焦がれ心臓を早くする人生。全て許さねばならぬ人生。
息切れ・嘔吐感




