5、招かれざる、転校生②
「二人とも、おはようございまーす。事前に告知しておいた通り、新しいお友達を紹介しますね」
くだけた話し方で、広い教室へ向け挨拶したのは、担任の呉林 鈴香だった。
名字からだいたい分かる通り、正真正銘、のの香の実姉である。
ただし、血は半分しか繋がっていない。
この姉妹、父親は同じだけれど、母が違う。
そして、二人とも両親と、既に死別している。
加えて、年齢が一回り以上も離れており、姉妹だが接点が余りなかった。
唯一。教師と生徒、という関係性を除き。
外見も、ほとんど似ていない。
姉の鈴香は、一言でいえば童顔。
ただし、幼い雰囲気とはアンバランスに、胸が大きい。髪色は黒で、肩に付くくらいの長さで整えられている。
瞳が大きいため、切れ長で涼しげな目元の妹とは、印象がだいぶ違った。
「どうぞー、入って来てください」
いらっしゃーい。なんて、どっかの新婚さん番組よろしく、がらりと教室のドアを開け、担任が転校生を招き入れる。
来訪者が、すたすた大股歩きでセーラー服のスカートをなびかせた。
余りにも豪快な足取りだったので、美羽は思わず、ぎょっとする。
だって、みうたちの学校、お嬢様しかいないから。
教卓の前に立った人物と、黒縁眼鏡のレンズ越しに、目が合った。
転校生なんて、1ミリも興味などなかった。
なかった、んだけれども。
その姿に唖然として、もう目が離せない。
「はじめまして、柿崎 尚です。よろしくお願いします」
発した第一声が、静かな室内に響いた。
一定のトーン。淀みなくすらすら、自己紹介する。
転校生の声は予想に反して、想定外に低くかった。
丁寧にお辞儀したあと、ゆっくり顔をあげた。その、瞬間。
「はぁー?!男かよ!!」
がたっがたっと、盛大な音を立てながら、美羽は飛び跳ねるように、椅子から立ち上がった。