31、輪廻⑥
【★作中用語説明★】
不死。
不死=正確には病いでは命を落とさない。
という意味。
神域の内部はとても深い。
宗家の者は、央宮の外へと、一度でも出てしまえば不死でなくなる。
否、正しくは神域内の加護から外れることを意味する。
そして、……。
── それは、輪廻の始まり。
◆◇◆◇
夢中で走り着いた所は、先人の霊を祀る廟だった。
此処に歴代の本管らが眠っている。
「こちらがわ」において、人を統べるために存在する一族の総称が宗家であり、その中心の者を本管と呼ぶ。
本来は、1人のみが選ばれてきた。
柊と、青祭のように双子として産まれるのは、本当に珍しいことだった。
「……つ、着きましたか?」
息を切らしながらも、辺りをキョロキョロと注意深く見回した青祭がどこか、ほっとしたように呟いた。
「兄様、先人様へお参りをするために、此処へ?」
こちらを振り返り、問いかける表情には、先ほどまでの憂いはない。
「……あぁ、そうだよ。なにせ今日は千年に一度、先人様がお戻りになる、と言われる日だからね」
「?お戻りに、ですか?」
訝しげに小首を傾げた弟に思わず笑ってしまう。己れとは違って、青祭の表情は、くるくるとよく変化する。
その、可愛らしさをずっと眺めていたいな、と思ってしまう。
「そうだね。ただし、戻ると言っても現に、先人様の霊がやって来るのではない。
千年に一度、先人様を想い、我らを導いてくださることに、感謝を捧げる日ということだよ」
そう教えてやれば、「……ほぉぅ」とため息のような感嘆の音をあげる。
弟に尊敬の眼差しで見つめられて、兄の決心は、鈍ってしまいそうだった。
「……さぁ、青祭。其方が先に挨拶をしなさい」
両の手で、弟の細い肩を押す。ゆっくり、前方にある霊廟へと歩ませた。
「……兄様、やっぱり大きくて立派ですね。わたくし、此処へ来るの恐らく二度目です」
廟のなかは、静まり返っている。厳かな雰囲気に合わせて、青祭は囁いた。
同意を求められたけれど、いかんせん柊はただ頷くことすら出来なかった。
いまから、この大事な弟を送り出してやらなければならないから……
── 不死とは、正確に言えば病いでは命を落とさない。ということ。
よって、物理的に力をぶつけられ、傷つき血を流せば、宗家の者だろうが簡単に、死ぬ。
そんな当たり前のことを、忘れてはいけない。
人は、神にはなれないのだ。
廟がある場所は静かに先人らを弔うため、央宮のなかで、もっとも奥だった。
こんな遠い所なぞ、滅多に人影は通らない。
安心していたのも束の間、入り口の外でパチリ、と炎が爆ぜる音がした。




