13、昔むかしの、出逢い
【─ 鴉天狗】
とは、烏のような嘴をした顔を持ち、自らの羽で自在に飛翔をすることが可能だとされている、伝説上の生き物。
『御弓 美羽』は、鴉天狗である。
故に、性別の区別はない。
鴉天狗は、空想の或いは、伝説の中だけにある生き物ではない。
ただし、「あちらがわ」と「こちらがわ」どちらの世界においても絶滅危惧種の位置にあり、長い長い年月において、ほとんど姿を確認されることはなかった。
あの日、彼女が見つけたのは偶然ではなく、必然に似た奇跡だった。
7年前、呉林のの香は、1人で林の中を歩いていた。
自身の姉の代わりに、ある場所へと行くように言われ向かっている途中だった。
暫く奥へと進んだ後、奇妙な物体が目に入った。
(……真っ黒。何だろう?)
のの香は、それを優しい手つきで拾い上げた。眼前へ近づけ、しげしげと見つめる。
その物体は、鳥の卵にとてもよく似ていた。
彼女の小さな手のひらに乗せれば、とくとく温かな鼓動が伝わる。
(生きてる?)
のの香は、小首を傾げた。
なぜだろう? 心のなかが、暖かくなった気がした。のの香は一度、キョロキョロ辺りを見回す。
もしかすると、卵を落とした親鳥が近くにいるかもしれない。彼女はそう考えたのだ。
鬱蒼と生い茂る木々の間、のの香の小さな息遣いと、幼い両掌にある生きものの気配だけ。それ以外は何もなかった。
その日、こっそり林から、のの香が連れ出した卵は約1週間の後、彼女の丁寧な世話により無事に孵った。
鴉天狗が何百年ぶりに「こちらがわ」の世に生まれた。
── 偶然に似た、奇跡の始まり。その瞬間であった。




