島本(仮
日常の崩壊を願っていても、それはあくまで妄想の話。
実際に崩壊したら絶対苦労する。ましてや異世界なんて絶望的、、、
平凡な日々、朝起きては夜眠る。もちろん人によっては逆転したり例外もあるだろう。
まぁ、自分は概ね外れていないだろうさ。朝食を味わう余裕もなく仕事へ向かい、帰っては眠る生活。
行きる為に仕事をしているはずが、仕事の為に生きているのでは?と思いつくにはそう時間もかからなかった。。。
帰りの電車の薄ら暗い照明がなんとも、生きている実感を鈍らせるような感覚にさせる。
ふぅ。と声とも息とも境目の無いものを吐き出し、夜に写された自分と目が合う。
周りに視野を広げると、大きな口を開けた中年男性や、うつむき、頭が重みで揺れている女性。
たくさんの人にそれぞれの生活があり、生きている。
そう考えられるだけ「自分にはまだ余裕があるのかもなぁ」と少し改める。
こうして日々を過ごして、時には妄想的に非現実を願う、しがない男である。。。
たまに時間があれば、流行りのアニメやサブカルに何となく飛びついてた歳を跨ぎ始めたと想起する頃には
半ば諦めのように忙しなく日々を過ごし、最早ルーティンワークここに極まれりと言わんばかりの業務をこなしていた。
トントン。
ふと呼び止められる。
「おーい、今日の夜は暇か?飯でも行こうぜ、やってられん」
こんな時ぐらいが日々の刺激であり、変化である。
別にいいけど、とやれやれ顔しながらも、満更ではないな、と。内心をわざわざ同僚に教える必要は今はないだろう。
「何か面白いことはないかぁ?」
話題が途切れる度に口を開けばこのワードを出すのがこの男である。
無いという返事に対するレパートリーも、あらかた出し尽くしてしまって、最早相槌を打つ事が精一杯の自分は、空になりかけのグラスを飲み干し、氷のカランとした音を響かせる。
「ところで最近多いらしいな、例の病気。」
みたいだな、と半ば投げ槍な返事。
「どっかの国が極秘裏に開発した新種のウィルスだって話らしいぜ?
なんでも元は軍事目的にするつもりが、何らかのトラブルかアクシデントによって漏れたのが原因だとかで」
極秘裏の情報が嘘か真かのネットニュースに流れるか、と野暮な事は言わない。お酒の力も借りて湾曲してるであろう話を勝手気ままに解釈し始める。
「夢遊病みたいに、何かブツブツ呟いたり、突拍子もない言動や行動をとるようになる病気なんて自然発生するわけないだろ。陰謀だよ。インボー。」
この酔っ払いの陰謀論は置いてといて、意外と的を射ている発言のような気もした。
仮に作られたウィルスだ病気だとして、一体誰が得するんだ?と投けかける。
「そこなんだよなー。国のトップ連中を失脚させるにしてももっと他に手はあるだろうしなー。なんせ世界的にどんどん増加してるもんで、いよいよ他人事では無くなってきてんじゃないのー?」
自分には関係ないとは言い切れないが、そんな言い方されてもただ困るだけではある。
「ま、なったらなったで国はちゃんとその患者?感染者?にはちゃんと手厚くフォロー入れるみたいな事らしいから俺達が気にする必要はあんまり無いんじゃないかー?」
何一つ安心できる要素は今の発言からして見当たらないが、結局のところ、酒のつまみの話は仕事の愚痴か身近なニュースぐらいなものである。数回のお代わりを注文し、互いにもういいかと察しはじめる。
「もうそろそろあがるか。帰ろうぜ。島本、いつものアレやるか。」
どっちが今日の会計を払うかのゲームである。
この一瞬のギャンブル的スリルの為に長々と飲んでいたと言って過言ではない。もちろん目の前のこの男なんか尚更だ。
「ほらよ、同時な。イカサマも出来ねえけど条件は同じ方が盛り上がるだろ?」
そう言ってカードを取り出す。見た目は黒の半透明のカードだが、二人の人間が触れるとどちらかに矢印が現れる。その矢印に差された人物が支払うという単純なシステムだ。
こんなパーティーグッズもどきをこいつは常備している。ニッチな奴だ。それをテーブルに置いた。
「せーのでいくぞ?せーの、、、っ!」
互いに同時だと言えるタイミングで触れる。カードを中心に一瞬世界が暗転する。その後矢印が現れる。自分だ。
「おお、ご馳走さーん!」
こんな事ならもっと頼んでおけばなどと呟く奴を、尻目に会計を済ます。逆の立場なら自分もよぎってしまう考えだ。本当にフェアかを確認した事は無いが、今のところ五分五分か、やや自分が勝ち越してるかな?と言った具合なので気にしない。
二人で他愛のない話をしながら帰路へつく、明日は休日のせいか夜遅くとも人通りは特別減ることはないようだ。寧ろ雑踏の影響か多く感じてしまうほどだ。
「こんな時間でもここらは人が多いなー。もう一軒いく?いや、久々に勝ったんだから大事に取っておこうかな。」
人の多さに当てられてか少し元気になっている。羨ましい限りだ。彼の美点かもしれない。
「そしたら俺はこっちなんで。今日はありがとうさん!」
そう言ってさらっと別れる。男同士はこれだから楽でいい。
そそくさと立ち去る彼は軽い足取りで歩き始める。壁を歩く足つきもアルコールを感じさせない。
相変わらずタフな男だな。なんて
壁 歩く?酔いのせいか思考がまとまらない。
見送った彼をもう一度見ようと振り返った瞬間にバツッ!っと頭に衝撃が走る。
頭の中、視界がテレビの砂嵐のノイズによって埋めつくされる。
意識が勝手に自分の元から離れていった。