新しい物語の前章
「どうですか?このプログラムの完成度は」
大きな研究所の一室、いわゆるコンピューター室に入ってきた木護さんがボクに聞いてくる。研究所内にはボクと木護さん、小松先輩、それから元二年生がいる。
ここはとある島。木護さん達家族の所有している観光地として有名だったところだ。そこに木護さんがボクのために研究所を建ててくれたのだ。
「大丈夫だよ、ちゃんと使えるようになっている。……ただ、一つ心配なことがあって」
「心配なこと?」
ボクの言葉に木護さんは怪訝そうな顔を浮かべた。
「うん。……どうやら奴が入っているみたい」
「奴って……もしかして……?」
彼女の言葉にボクは頷く。
「多分、このプログラムにウイルスとして入っている」
そう言うと、木護さんは考え込んだ後、
「……確か、森田さんはプログラマーであると同時にハッカーでもありましたからね。多分、知らない内に操られて「彼女」の人工知能を作っていたのでしょう。それで、このプログラムに侵入したんでしょう」
今は亡き同級生を思い浮かべているのか、彼女は少し悲しそうな表情を浮かべる。
小松先輩も彼女も被害者だ。でも、彼女達は同級生や元二年生を責めず、むしろ救おうとしていた。絶望や悪意と戦った。
「……ボクは、これを起動しようと思っている」
ボクの告白に一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに微笑んだ。
「あなたならそう言うと思いました。大丈夫、何かあったら私達がすぐ対処しますから。だから、あなたは自分の役目を全うしてください」
ボクは頷く。
元々このプログラムも完全ではないと思っていたのだ。だから、いろいろな仕掛けを作っておいた。それを知っているのはボクと木護さん、そして小松先輩だけだ。
――ボクは二年生を守る。
その役目を木護さんから託された。だから、三年生が学園内で共同生活をしている時からこれを作っていた。
「……だいじょうぶ、ボクは、皆を救う」
世界にはびこる、この悪の手から。
その誓いを胸に、ボクは天井を見上げた。