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暗殺司祭、サウナを視察する ②

 5年前、フィン王国と魔族支配地域の国境付近にある、ガダラ平原。人間の一団が、見通しの良い道を歩いている。

「なあユージーン、お前この戦が終わったら何したい?」

 小柄な女が、大柄な騎士――ユージーンに尋ねた。

「……特にないな。強いて言うなら帰って寝たい」

 ユージーンは女に一瞥もくれずに、仏頂面で答える。女は大げさに肩をすくめながら、隣を歩いていた少年にまとわりついた。

「つまんねーなーお前。クラウスはあんな大人になっちゃダメだぞ」

「はあ……」

 絡まれたほうの少年は、笑いながらあいまいに答える。

「クラウスは手先が器用だし、身のこなしが良いから、腕のいい盗賊になれるよ!」

「盗賊って、人に勧める職業ですか……」

 彼らが話しながらむかっていく先は、平原一帯を牛耳る魔族の本陣である。平原を奪還しようとする国王軍の騎士たちと、挟み撃ちの形になっている。

「いーんだよ、魔族とか悪い金持ちとかから盗めば。家族のために金がいるんだろ?こんなとこで傭兵まがいのことをやってるより、バカスカ稼げるぞ!」

「もうやめとけ。そろそろ待機地点につくぞ」

「へいへい。それじゃ、今日も世のため人のためにがんばりますか」

 女はふてくされた様子で、クラウスから離れた。男二人は視線でコンタクトをとり、揃って苦笑する。

「……そういえば、お前はどうなんだ。モーガン」

「何が?」

「さっきお前が言っていたことだ。この戦が終わったら――」

「ああ、そうだね」

 女は得物の槍を手に、振り返って笑った。

「まずは、ゆっくり風呂に入りたいかな」


――


 時は戻り現在。クラウスは短剣を手に何度もユージーンに切りかかり、ユージーンはそれをなんとかいなしている。

「クラウスっ、なぜこんなっ」

 ユージーンは致命傷にならないように、斧で短剣をはじき、刃の背で体を押し返す。

「あなたこそ、なぜ魔族と関わるのですか」

「受けた恩がある」

「私も同じだ。教会は私を救ってくれた。戦う場を与えてくれた。家族を殺した魔族どもを、好きなだけ殺せる理由も」

 クラウスが再び飛びかかり、ユージーンの急所を狙う。

「まさか言うまいな、復讐は何も産まないなどと」

 短剣を斧で受けようと構えるユージーン。しかし、刃に当たったのは肉の感触だった。クラウスの片手が斧の刃に突き刺さっていたのだ。

「なっ!?」

 もう片方の手の短剣がユージーンの首元に襲いかかる。襲撃者の両目が獣のようにぎらつくのが、ユージーンにも見えた。咄嗟に全力を込め、突き刺さった斧ごとクラウスを投げ捨てる。

「さすがは元『英雄』か……次は、殺すっ…ググウッッ!!」

 クラウスは不気味に笑いながら、なおもユージーンに迫る。切り裂かれた左腕が再生していく。魔術――教会が言うところの奇跡――の力だ。かつてガダラ平原の戦いでも見た、治癒の力。以前は他人を癒やしていた魔術で、自らの肉を再生しながら、突っ込んでくる。

「やめろクラウス!」

 短剣を突き出す腕をなんとか捕らえ、クラウスと組み合うユージーン。かつて『生きる防衛線』とも呼ばれたユージーンの膂力は人間離れしたものだったが、クラウスはそれと互角に渡り合っている。体格からしてもあり得ぬことだったが、人間の限界を超える筋力を発揮させ、ちぎれていく筋繊維を端から再生しているのであれば道理だと、ユージーンにもわかった。

「これで終わりだアアア”ッ!!」

 クラウスの目が充血し、血涙が流れる。獣のごとき唸り声とともに、ユージーンの腕を押し返す力はどんどん強くなっていく。バチバチと弾けるような音は、骨や筋が壊れては再生していく音だ。

「くそっ、お前までっ……」

 クラウスの力は、すでに完全にユージーンを上回っていた。短剣の切っ先が首に迫る。

「やめろおおおおッッ!!」

 ユージーンも雄叫びをあげる。がくん、と体が傾いた。

「ア”ア”ッ?!」

 押され始めたのは、クラウスのほうだった。クラウスの膂力は、完全にユージーンを上回ったにもかかわらず。

「何故っ?!どこからそんな力がアッ?!」

「止まれええッッ!!」

 襲撃者の表情に驚きの色が混ざったその瞬間、きん、と澄んだ音が響いて、クラウスの動きは止まった。巨大な氷塊が彼の頭に直撃したのだ。ウ族の魔術師、ハラウラの魔術だった。

「気づくのが遅れてごめん……魔術の気配がしたものだから、あわてて飛び出してきたんだ」

「いや、いい……魔族のお前が最初から割って入ったら、余計に面倒なことになっていたからな」

 幸い、ハラウラが介入したことは気づかれてはいないだろう。治癒魔術の行使と全力でのせめぎあい、他に意識を向ける余裕はない。ハラウラの魔術は一瞬だった。

「主人、この人は……?」

「……昔の仲間だ。こんな戦い方をしてほしくはなかったんだがな……」

「……そう……」

 ハラウラもそれ以上は聞かなかった。ユージーンの表情を見て、そうすべきでないと悟ったのだろう。

「それで、どうする?意識はしばらく戻らないだろうけど……街の近くにでも」

 ユージーンは首を横に振った。

「まがりなりにも『審問』に来たんだ。サウナに入って、実情を知ってもらう……話したいこともあるしな」


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