第二章 ハルマー繁華街
こんにちわ。
春も近づいておりますが、わたしは頑張っていきたいと思います。
まだスマホのフリックが苦手です。皆様はいかがでしょうか?
第二章 ハルマー繁華街
「……」
「……」
ハルマー市街に入った途端、二人は無言になった。
アリアはフラフラとよろめき、そのたびにノリスが外套を掴む。
「らっしゃいらっしゃい! トリ串焼き立て旨いよーっ!」
ふらり。
がしっ!
「焼き魚どうだい! 新鮮釣りたてだから最高に旨いよ!」
ふらり。
がしっ!
「パンのハチミツかけどうだーい。甘くてほっぺたがとろけちまうよぉーっ!」
ふらり。
がしっ!
「もーっ!」
たまらずアリアが怒鳴った。口をとがらせた彼女は、外套を掴むノリスの手をぺしっと払い除けた。
「もうすぐ宿だ」
「甘いものは別腹だっておばあちゃんも言ってました、言ってましたっ!」
「二度言う必要はあるのか」
ぷんぷんと怒るアリアに、ノリスは淡々と答えた。
「あります! あーりーまーすーっ!」
機嫌を完全にこじらせたアリアに、ノリスはため息をついた。
「一つだけだぞ」
銀貨二枚をアリアにかざすと、ノリスは渋々といった表情を強調させながら言った。
ぺしっと銀貨をノリスの指から奪うと、アリアはパアッと明るい笑顔を向けた。
「ありがと!」
嬉しそうに屋台に向かうアリアに、ノリスは苦笑した。
別段怒らせるつもりはなかったのだが、たまにはあんな顔も見たくなった。彼はそう思いながら、ハチミツがたっぷりと掛けられたパンを齧るアリアをじっと見つめた。
「うっぷ……」
アリアが口元を押さえた。
辛うじて空いていた宿に部屋を取ると、二人は一階にある食堂にむかった。
食堂は宿泊客や街の住人で賑わっており、歓声や罵声が飛び交っている。アリアは上機嫌で空いた卓に腰掛けると、女給に注文をした。
アリアが足をぶらぶらとしながら待っていると、先ほどの女給が料理を運んできた。
二人が頼んだのは、芋と鳥肉をチーズで煮込んだものと、米をスープで炊いたご飯である。アリアはチーズ増量で頼んだのはご愛嬌であろう。
飲み物は異なり、アリアはリンゴを絞ったジュースで、ノリスはエールを注文した。
「かんぱーい!」
杯を掲げ、夕食が始まったのだが……。
最初はパクパクと食べていたのだが、徐々に匙の動きが鈍くなり、七割ほど食べた時点でこうなってしまった。
「だから一つだけだと言ったんだぞ」
そう。
アリアは、はちみつ掛けパンを一つでは満足しなかった。渋るノリスを説き伏せ、なんと三つも平らげていた。
「も、もったいない……たべゆ」
モゾモゾと匙を動かすアリアを見つめていると、ノリスは黙ったまま器を引ったくった。
そして、目を丸くする彼女を無視したまま煮込み料理を一気にかき込んだ。
「……もう」
口をとがらせたアリアだったが、すぐに笑みが浮かぶ。
幼馴染の心遣いが嬉しかった。
「はっ!」
部屋に戻ると、アリアはベッドにドカッと飛び込んだ。それなりのグレードの部屋なので、ベッドは彼女の体をしっかりと受け止めた。
「疲れたあ……」
眼鏡をベッドの上に置くと、アリアは大きく背を伸ばした。
「そうか?」
間仕切りの布の向こうから、ノリスの声が聞こえた。
規則的な息が聞こえるのは、彼が腕を組みながらしゃがんだり立ったりを繰り返しているからだ。
ノリスは日々の鍛錬を欠かさない。
それが宿屋であろうと、森の中での野宿であろうともだ。
「飽きないね」
夜着に着替えながら、アリアは声を掛けた。
「俺の日課だ」
会話をしている間も、ノリスは体を動かし続けている。いわゆるスクワットを終えると、腕立て伏せを始めた。
終わる前に寝てしまうので、どれだけ繰り返しているのかはアリアは知らない。
もしも知ってしまったなら、彼女は卒倒してしまうかもしれなかった。
「栄養が偏ってないか?」
「問題ないわ」
「俺の保存食……」
「いらない」
「師匠はおっしゃられた。これらを食べていれば何の病気も心配ないとな」
親指だけで腕立て伏せをしていたノリスは、片手を荷物に伸ばそうとした。
「それだけはイヤ」
「む……」
「おやすみ!」
布団を頭からかぶると、アリアは目をつむった。
「……」
取り出した瓶から虫にしか見えないモノをつまみ出し、彼はボリボリとかじった。
「うまいんだがな」
残念そうな顔をしたノリスは、鍛錬を再開した。
「……おはよう」
目を覚ますと、既に日は登っていた。
「ああ」
布越しに、ノリスの淡々とした返事が返ってきた。隣のベッドが音を立てているのは、彼がベッドの上で腹筋を鍛えているからだ。
(まただ)
アリアが目を覚ますと、必ずノリスは起きていた。どんなに早起きしても起きているので、彼女は声を掛けた。
「ちゃんと寝たの?」
「問題ない」
「……」
間仕切りの布を引き剥がすと、アリアはノリスの顔をじっと見た。
じー。
じー。
じー。
じー。
じー。
「すまん」
耐えきれなくなったノリスは、視線を反らしながら謝った。
「よろしい。でも、目を合わせないのは減点」
「……自覚しろ」
「は?」
要領を得ない言葉に、アリアは目をパチクリと瞬かせた。
すると、視線を反らしたままノリスの指が下を指した。なんだろうと視線を下げたアリアは、薄ぼんやりとした視界に桃色の世界が御開帳していた事に気が付いた。
「んにゃあああああああーーーっ!」
顔を真っ赤にすると、アリアは絶叫した。同時に布で全身を包み込み、何か奇妙な存在へと姿を変えた。
寝ぼけていたとはいえ、オトメの羞恥心は並大抵ではない。窓から飛び降りたい気分になりつつも、アリアはこの場に幼馴染しかいなかった事に感謝した。
「ああ……」
布から手だけを出し、アリアは服を掴み取った。
「いつもの事だ」
汗一つかかずに朝の鍛錬を終えたノリスは、ベッドに腰掛けながら言った。
「っさいっ!」
小声で叫びながらアリアは身支度を済ませ、眼鏡を掛けた。
服がおかしくなっていないかを確かめると、アリアは布を外した。乱れた髪を取り出した櫛で整えると、彼女はノリスの方を向いた。
「どう?」
「問題ない」
うなずくノリスに、アリアは満足そうにうなずき返し、微笑んだ。
「じゃあ、朝を食べたら街に出ましょう!」
二話目でございます。
呼んでいただきありがとうございます。