第一章 二人の旅路
旅を続ける二人、アリアとノリスは長い旅路の途中にとある街へとたどり着く。
一章 二人の旅路
それは、遠い日の約束から始まった。
少女からすれば、些細なものでしかなかったのかもしれないが、少年は違った。
それは、何よりも大切な思い出であり、全てが始まった日なのだから。
ザイアス連合王国の街道を、二人の旅人が歩みを勧めていた。すれ違った隊商の御者が二人を物珍しそうに視線を向けた。
一人は斑の馬に跨った少女。
地味なフード付きの外套に身を包み、使う人の少ない眼鏡を掛けている。だからと言う訳ではないが、どことなく知的な印象を与えた。
もう一人は、革鎧に身を包んだ青年だ。
馬にはほとんど荷が積まれていないにも関わらず、彼は大きな背嚢と盾を背負い、腰には長剣や短剣など、様々な物が着けられている。
体躯は細めに見えるのだが、足取りには全く弱々しいところなどなく、少女の方が疲れの色が垣間見えるぐらいだ。
「やっと街が見えたよ」
アリア・ウェンズワースが街道の先に見えた尖塔を指差した。
「まだ先に行ける」
ノリス・マッカートは、涼しい顔で告げた。
しかし、少女は彼の言葉に承服できないのか、薄桃色の唇を可愛らしく尖らせた。
「ノリスはいいでしょうけど、私がつかれたんだってば!」
アリアが文句を言うのも無理はなかった。なにせ、朝から休憩も挟まずに街道を二人は進んでいた。
途中には立ち寄れそうな村があったが、ノリスは足を止めることなく先を進んでしまった。
「そろそろ門が閉まる頃だし、野宿は嫌だよ」
「問題ない」
「大問題だよっ!!」
何度繰り返した言葉の応酬なのか、アリアは忘れてしまった。
大荷物を背負っているにも関わらず、ノリスに疲れた様子はない。昔はちょっとしたことでも投げ出すような正確だったはずなのに、今ではまるっきり正反対だ。
(ちょっと以上に理不尽)
自分の感覚のほうが正しいのだとは確信していたが、平気な顔を見ていると自分が間違っているかのような錯覚に陥ってしまう。
そんな時にできることは一つしかない。
じー。
じー。
じー。
「……」
アリアは無言でノリスを見つめた。
ノリスの顔に穴が開きそうなほど見つめ続けると、彼はわずかに眉を動かした。
「わかった」
どうにか説得に成功すると、アリアはほっと胸を撫で下ろした。
放って置くと、ノリスはどんどん先へと進んでしまう。初めて旅に出た時など、丸々一昼夜歩き続けたにも関わらず、彼は涼しい顔をしていた。
どんよりとした視線をノリスに向けたアリアは、意識を街に向けた。
「さ、門が閉まる前に着いちゃいましょう!」
気力を振り絞ったアリアは、馬の腹を軽く蹴った。
ハルマーは典型的な宿場街である。
人口は千人程度だが、大半が旅人相手の商売に就いている。
街は城壁に囲まれ、外敵からの攻撃に備えている。時間までに入れなければ、壁外の安宿に止まるしかない。
壁外は街の法の目が届かないため、胡乱な連中が集まっている。娼館やスラムもあるため、治安はかなり悪い。真っ当な旅人であれば、門が閉まる前に入るのは当然のことだった。
「よし、通れ」
衛兵に鑑札を見せると、二人は門をくぐった。
夕方ということもあり、人通りは多い。
「はあ……やっと休めるよ」
「一番安い宿でも……」
「普通の宿でお願いします!」
アリアは叫んだ。
ノリスに宿を探させると、たいてい一番安い宿になる。それどころか、馬小屋にしようとのたまったことすらある。
確かに、宿代の節約は重要ではある。しかし、乙女としてはどうしても譲れないものだってある。
「せめて、お湯がもらえる宿で!」
読んでいただきありがとうございます。
これから二人に様々な苦難と冒険が繰り広げられます。
こんな登場人物がいたらいいなとかありましたら、どうぞご提案下さいませ。