第6話:はじめてのおつかいなのです
─カラン─
「いらっしゃい。……あら、タイチ君じゃない! 今日も《大狼頭》のおつかい?」
「はい〜、そうなんですよ。今日はなにかありますかぁ?」
本日、日本からの転移者である上野 泰知がいるのは冒険者ギルドである。居候させてもらっている宿屋《大狼頭》のお使いでやってきたのだ。というのも、冒険者はどこにいても必ずギルドと連絡がつくようにしていないといけないらしく、冒険者達が一緒に仕事が出来ない現状を《大狼頭》の大将であるライアンが憂いて連絡代行を請け負っているのだ。泰知はその手伝いだった。
泰知が冒険者ギルドに1人で来るのは初めてだった。この前まではライアンが一緒についてきてくれていたのだ。だからこういうことがあったのかもしれない。
「よぉ、坊主。お前みてぇなひよっちぃのがこんなとこに何しにきたんだ? お前が行くべきなのはこっちのカウンターじゃねぇよ。あっちだあっち。ヒヒッ」
そう。いわゆるガラの悪い冒険者に絡まれてしまったのだ。周りには仲間もいるらしく、薄ら笑いを浮かべている人が何人もいる。
しかしこの状況の中で泰知はちょっとワクワクしていた。『異世界転移話・オブ・ギルドランキング』なんてものがあったら絶対にぶっちぎりで1番を取っていそうなシチュエーションなのである。現代日本男子である泰知にとっては(聞いてはいたけど、これが例のアレかぁ〜)状態であった。
…………なお、彼は今自分が巻き込まれているということを全く自覚してない。
「あぁん!? お前なに笑ってやがるんだ。なぁおい、この俺様がかの《獅子頭》サマの配下だと知ってるのか? ……フッまぁお前じゃあ知らないだろうなぁ。なにせひよっこのモヤシだから? 頼むから『ごめんなさい。あなたが《獅子頭》のお仲間でいらしたんですね。ご無礼をいたしたしました』なんて言うんじゃねーぞ。俺たちは今からお前を教育してやんなきゃいけねーからなぁ。なぁみんな?」
「「あぁ、逃げんじゃねー(ぞ)!!」」
どうやら怒らせてしまったらしい。しかし、
「おい、お前らあの小僧やっちま……ひ、ひぃぃぃ!!」
─バタバタ
なんか逃げていった。
「ん? なんか言われた気がしたけど………。まぁ、誰も僕に話しかけているような人いないし〜。気のせいだよねぇ。──そうだった。受付のお姉さん、今日はみんな出てるんですけど、なにか連絡することありますか?」
これには受付嬢も苦笑するしかない。この場にいる人は全員こう思った。(お前、自分が絡まれている時にすっげぇ能天気だな?! 警戒心どこいったーーー!!)と。受付嬢は自分がしっかり泰知に注意しなければと思ったのだろう。
「ね、ねぇタイチ君。あなたがあの《大狼頭》の使いだってことはここにいる冒険者は結構知ってるけど、時々変なやつもいるから気をつけなきゃダメよ。まあアタシ達も注意するけど、何かあってからじゃ遅いから、ね?」
と、しごく当たり前のことを言ってきた。しかし泰知は自分が今危なかったということを気づいていなかった。だから首をこてんと傾げてこう言ったのだ。
「………え? 僕全然危ないことしてないですよねぇ。だから大丈夫ですよ〜。あ、忘れてた……お姉さん、これ《鷹の王者》から昨日の報告書みたいですよ〜」
…………………いや、その無神経さが大変問題なのですが
その後、大変精神的疲労を抱えた冒険者達によって泰智は《大狼頭》に連れて帰られ、連絡を受けたライアンの胃を痛めるのであった。
しかし、このことで精神的ストレスを受けた面々は皆、これからあのSS級冒険者グループ《獅子頭》のメンバーからリアル土下座で謝罪されるのを、まだ、知らない。
【おまけ:あの時の冒険者A】
完全に本編と関係ないので、それでもいーよー、という方だけどうぞ!!
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え? 俺があの時ギルドに居たかったって?
お前俺がそこに居たって誰に聞いたんだよ。……ジルから? ハァ、ったくあいつは。で、聞きたいのはあそこで何があったか? ………だよなぁ、アレはみんな話したがらないよな。まあいいぜ。話してやるよ。
初めはな、またか、って思ってたんだよ。だってアイツらだぜ。《獅子頭》の名前使っときゃあ何とかなる、ていう連中じゃねえか。今度のカモはあの坊主かって。注意したくても、相手は仮にも《獅子頭》の名をしょってんだ。報復が怖くて誰も声をかけてやれんかった。
だかなぁ、あの坊主、タイチと言ったか。そのタイチがなぁー、また呑気なやつで。自分にゃ全然関係ないって思ってんだ。それをアイツらも怒っちまってよう。これはヤバいか? って時だったんだ。アレが襲って来たのは。
………え? そこまではもう聞いたって? で、お前が聞きたいのはそこからぁ? みんな震えて話してくれない?
まあそうだろうな。俺もあんま話したくねえよ。ただなぁ、俺が喋んなかったらお前、他の人んとこ行くだろう? そしたらそいつが可哀想だから言ってやるよ。ただ、誰にも言うなよ。
突然部屋に殺気が充満したんだよ。それでアイツらは悲鳴を上げて出てったが、あれは多分あそこにいたほとんどの奴がビビったんじゃねーか?
………それによぅ、俺は見ちまったんだよ。あの殺気飛ばしてたの《大狼頭》のライアンさんだ。 さすがにあんなスゴい人に俺は睨まれたくねぇ。それにあの人に睨まれたら俺たちあそこでメシがくえなくなるじゃねえか。俺はそんなのごめんだぜ。だからお前も絶対喋んなよ。
それにしてもあのタイチって奴、ライアンさんがあんなに殺気が飛ばしてたのに気づかないなんて、見かけによらず実は凄い奴だったのか……?
おまけでちょっと他の人のことを書きたくなってしまいました
いかがだったでしょうか?
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