第2話
ライアンさんはきっと苦労性だと思うのです
「じゃあ、ライアンさんはジネヴィラっていう街でお宿をやっているんですね」
「そうだぞタイチ。うちは《大狼頭》ていう名前の宿屋でな。俺は大将だ。どちらかというと冒険者向けだな。拠点として使ってくれる奴らも結構いるんだ」
結果的に2人は馬車での移動中という短い間のうちに、かなり打ち解けていた。
泰知少年はもともと警戒心皆無である。
人としていかがなものか?と思う人、あなたは間違っていません。泰知が特殊なのです。
ライアンの方も泰知少年の無警戒ぶりに、こちらもほとんど泰知のことを警戒していなかった。
そんなだから、世間話のついでにジョブの話も出るのだ。当然である。この世界では、ジョブの話はよっぽど珍しいジョブ以外世間話の延長上にあった。しかし、泰知少年にとってこの話は……
「おいタイチ。お前もう15歳は超えたって言ってたよな、ジョブはなんなんだ?」
「…………え???」
全く分からない話であった。まあ、当然だ。彼は異世界から転移してきたのだから。
それに驚いたのが宿屋の大将:ライアンさんだ。
「……え?! お前自分のジョブ知らんのか?! どこの田舎者だよ」
この反応も当然といえば当然である。15歳になると教会から身分証を交付され、そこにジョブなどが書いてあるのだ。ライアンからしてみると、ジョブを知らないなんて教会もないド田舎出身の者しか考えられなかった。
「……あ」
そしてライアンさんはもう一つ問題を見つけてしまった。
「なにかありましたかぁ〜?」
……泰知は状況を分かっているのだろうか。ライアンと対照的な程の声である。
「お前、ジョブ分からんってことは身分証持ってないだろ。どうやってジネヴィラに入るつもりだ?」
「あぁ〜、身分証ありませんねえ。困りました」
泰知少年よ。全く困っていなさそうな返事である。なお、一応高校の学生証は持っているが(それは見せちゃダメだよね)と思っている泰知である。一応、そこは分かってはいるのだ。
「ーったく、しゃーないな。街に入るとき、身分証がないと普段の2倍通行料がかかるんだが、今回は俺が払ってやろう。どうせお前お金持ってないだろ」
「……うぅ。 すいません、ありがとうございます」
何も言えない泰知少年。確かに彼は今一文無しである。それをライアンには言ってないが、そこはまあ、ライアンが察した、ということである。それくらいは、もう出会ったばかりのライアンさんでも理解できた。
「ははっ、いいってことよ。でもまあ、いつかはこの金返せよ?」
「当然ですねえ」
そこは日本人、上野泰知であった。金銭感覚はきっちりしているのだ。そこがライアンは気に入ったらしい。
「タイチ、お前どーせ行くとこないんだろう?だったらうちに来ないか?」
ライアンが営む宿屋《大狼頭》に来ないかと誘ってきたのだ。
「いいんですか?! でも、僕はなんにも持ってないですよ」
「いいんだ」
「でも〜」
「じゃあお前うちで働いてくれないか?丁度人手を募集しようと思ってたとこだ。お前なら文句ないさ」
宿に置いてもらえるなんて……、と恐縮する泰知少年。そこは16歳の日本人らしい。
しかし、働かないか? と誘われた途端、
「ありがとうございますー。お世話になります」
となる、安定の無警戒ぶりである。ライアンさんがため息をついているのは泰知少年の性格を多少は知ったからだろう。
しかし、泰知少年は(良かったぁ。これで生活場所が確保できたぁ)と思うだけであった。