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第7話 シュトルの街 復讐の爪痕

 シュトルの街はごった返していた。

 正確には人相の悪い傭兵や、食い詰め者のような者が道に溢れていた。

 それらを目当てにした食べ物屋や酒屋が店を広げ、街娼のような派手な服をまとった女たちも広場の隅に堂々と立っている。


 逆に普段の住民たちは鎧戸を閉め、家にこもっているようだった。

 そこかしこで傭兵の勧誘が行われている。


 女騎士レジーナが言っていた聖堂はすぐに見つかった。

 もともと使っていた司祭たちはとっくにいなくなっているようで信者たちの座る長椅子は撤去され、かわりに、これまた怪しい風体の呪い師やその擬き(もどき)たちがたむろしていた。


 どうみてもまともな魔法使いなどはおらず、ほとんどチンピラ紛いだ。

 挙句の果てに道化師のような派手な格好をした者までいる。その人物は道化師の衣装の上から小柄で深いフードつきマントをかぶっている。流れの手品師か何かだろうか。


 ロークも適当に壁際に座った。

 とりあえずエドマンドに会うにしてもこの街で宿をとるなりしなければならない。

 傭いの呪い師ですと偽って入ってきた以上は、まずは無料で宿泊できそうなこの聖堂にいるのが良さそうだった。


 だんだんと陽が落ち始めたころ、木のバケツを抱えた衛兵が数人入ってきた。

 ガンガンと剣の平でバケツを叩いて注目を集める。


「法執行官のレジーナ様よりメシの配給だ。欲しいものは皿を持って一列に並べ!」

 ぞろぞろと呪い師や何かの呪文使いのような連中が立ち上がって並ぶ。

 木のバケツから盛られているのはどうやら芋か何かのスープのようだった。まずくはなさそうだがロークは皿を持っていなかったので黙って様子を見ていた。


「てめぇわざと足をひっかけやがったな!」

 罵声が聞こえてきた。

 

 そちらを見ると、何やら革の胴着にじゃらじゃらと護符の類をつけた悪党風と、道化師らしき人物がもめているようだった。悪党風が道化師の足にひっかかってスープをぶちまけたようだ。


「ちょっとお姉ちゃん、とりあえず謝ろうよ」

 道化師の隣にいた少女が、道化師の肩をゆすりながら言う。

 彼女は薄緑色の髪を短めにそろえ、剣士風の格好をして異国風の曲刀をさげている。「お姉ちゃん」と呼ばれた道化師はすっと立ち上がってマントを外した。


 道化師は赤っぽい長い髪の毛をさっとまとめた少女だった。

 よくみると道化師のような服装をしているが、路上でのパフォーマンスか何かの際に目を引くためだろうか、やや胸元が開き、スカートのような形状にアレンジされているのがわかる。


 道化師の少女はじっと悪党の目をみて行った。

「私は謝らない、悪くないからだ」

「な、何だとてめぇ……俺の呪いで黒焦げにされてぇのか」

 悪党が胸の護符に触れる。

 ロークがそれを見る限りは、あまり力の強くない炎の力を持った札のようだった。しかし素人相手に使えば確かに火傷くらいは負わせてしまうだろう。


「もう一度言うぞ、私は謝らない」

「てめぇ……」

 悪党の目が真剣になる。

 いざというときは術を封じてやろうと思いロークも立った。


 しかし姉を止めていたほうの少女が諦めたように首を振った。

「あーあ……だから謝ろうっていったのに。あなた黒焦げになるわよ」

 じろっと悪党の方を見る。

「もうゆるさねぇ……」

 悪党が胸の護符をちぎり取って投げつけようとする。護符が瞬時に炎に包まれた。

 ロークは杖を振ってその護符を無効にしようとした。その寸前。

 

「ぐわ!?」

 炎に包まれていたのは悪党のほうだった。

 ロークは呆気にとられて2人の少女を見る。

 

 道化師は何か、小さな金属のカケラのようなものを掲げている。

 何やら禍々しい匂いがする。

 その匂いはどこか懐かしいものだった。禍々しいが強力な術の気配。


――魔王クロノスの遺物の1つだ――


 「復讐の爪痕」その魔族の爪を模した金属のカケラはそう呼ばれていた。

 その能力は相手の術を100%返す。事実、悪党の炎の護符は本人を焼いた。


 道化師の少女は無表情に、聖堂の床の上に倒れた悪党を見つめていた。

 



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