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第4話 勇者エリスの追憶

 勇者……すなわち一定の実績を持つか特定の武器を使いこなすことで得られる名誉職だ。

 血筋も地位もないしがない冒険者にとっては望みうる最高の職だろう。

 

 その勇者に当時17歳の少女がなった。

 聖剣フラガナッハ(答える者)を使いこなし、どんな重装甲の敵も魔物も易々と切り裂いた。

 もともと剣も弓も特異な赤毛の少女エリスは異民族出身だったがすぐに有名になった。

 

 勇者エリスに付き従った付き従った冒険者で主だった者は傭兵エドマンド、司祭のリンナ、聖騎士フェビウス、そして「禁術の賢者」と呼ばれたローク自身だった。そんな彼はかつて大国ダストランシアのお抱えだった。

 しかし禁術に手を出し追放、行き着いた先が勇者のパーティに入ることだったのだ。


「まぁ勇者のパーティに入ったところで……」

 ロークは古びた革袋をかかえて道端の岩に腰をおろしていた。

 

「俺は所詮ははぐれ者だからな」

 ロークは皮肉っぽい微笑を浮かべた。

 

 この大陸では禁術を使うことへの抵抗感は強く、何なら魔王の手下とまで考えられている。

 ロークは地味で目立たない風貌のおかげで悪評こそ少なかったが、禁術はあまりに強力で忌避され、勇者のパーティであってもどこか隔意を感じていた。表面的には戦友といっても差し支えない間柄だったが。


 しかしながら事実としてロークの使う大釜の魔術(ネクロマンシー)や古代龍の魔術がしばしば味方の危機を救ってきたのもまた事実だった。しかし最終的に勇者エリスは魔王クロノスと刺し違えこの世界から消え去ったのだ。


 仲間たちは人間たちから悲しみと喜びの入り混じった大歓迎を受けた。

 聖騎士フェビウスは何やら異国の黒髪の娘と故国に帰り、傭兵エドマンドは国を作ったという。

 リンナは枢機卿になったと風の噂で聞いた。

 

 ロークは魔王城を監視するためと禁術の研究を続けるためにロッテンブルクに移り住み、酒場の娘をからかって暮らしていたのだった。ほとんどの装備品は質に入れてしまっていて残っていなかったのもあり、ロークはふらっとそのへんに出かけるような軽装に灰色のフードがついた麻のマントを羽織り、吐きなれた南方風のサンダルでロッテンブルクを後にしていた。腰の長くも短くもない短剣は鍛冶屋で安く買ったものだ。値段と状態からしてどこかの戦場跡から拾ってきたものと思われた。


「ま、また魔物たちがあふれ出てきているなら何らかの原因があるはずなんだ」

 ロークが監視していた魔王クロノスの居城跡に変化はなかった。


 しかし元々臆病だったり洞窟の奥などでしか出てこない魔物たちが軍勢として押し寄せてくるという現象は明らかに誰かの統率がなければならない。そうした事に秀でた者を魔王と呼ぶ。

 ということは何か新しい魔王が現れたのだ。


「どんな魔王か分からねぇと対策の立てようもないからな」

 ロークはロッテンブルクを襲った魔物の気配の後を追跡しながらのんびりと旅をしていた。

 たいした路銀もないが倒した魔物からいくつか金に換えられる角や鱗をはぎとってきていた。


 そして酒場のサーシャがくれた焼しめたパン。

 彼女は助けた夜に悲鳴をあげたが、ロークが机や書物を売ったりしているのを聞きつけてわざわざ旅のための保存食を焼いてきてくれたのだった。


「かわいいところあるよなぁサーシャも……まぁ目も合わせてくれなかったけど」

 彼女からみれば突然現れた魔物たちで混乱し、しかも酒場で管を巻いていたおっさんが魔物を蘇らせて戦わせていたのだ。それこそ何も知らない彼女からみればロークこそ魔王そのものだっただろう。


「さて……さしあたってどこに行くかな。近くの町まで行ってもしょうがないしな……」

 ロッテンブルクは小さな騎士領だ。

 領土内には小さな市場のある町が2~3あるくらいだ。

 

「どうせなら昔の仲間の顔でも見ながら情報収集でもするか」

 ロークはちらりと標識をながめた。

 簡素な木杭に木の板でおおよその方向と町の名前が記されているだけだ。

 

 ロークはその中のバスバラ伯国という名称に目をつけた。

 バスバラ伯国。名家で10年前の魔王の戦でも協力的だった貴族だ。

 しかし後継ぎがない老伯爵の治めていた国だ。

 かつての仲間である傭兵エドマンドが魔王を倒した後に養子となり、老伯爵が亡くなって以降はエドマンドがバスバラ伯爵として統治している。


「たしかバスバラ伯は魔王の遺物のひとつを持っていたな……」

 魔王の遺物。


 魔王クロノスが残した武器や防具、アイテムなどの数々だ。

 それらはかつての仲間たちで分けて持ち帰った。

 ロークは一冊の本だけ受け取って今現在も、まさに抱えている麻袋に入っている。


「まずはバスバラ伯国にいってみるか」

 急に自分が現れたらエドマンドはどんな顔をするだろうか。

 ロークはにわりと笑い、そしてバスバラ伯国の方角へ向けて森の中の道を歩き始めた。



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