49話目
分割した三つ目。
これで分割したやつは全部!
とりあえず今は用がないので、椎の木トレント君は《ルーナ・ノヴァ》に帰還させておく。
メニューから帰還を選択すると、椎の木トレント君はスゥ…っと透明になるようにして消えていった。あ、名前とかそういうのは後でゆっくりと決定と確認をします、はい。
だっていつ次の七不思議が現れるか……。
と、そこまで考えたところで後ろから、人によっては恐ろしいと感じてしまうようなそんな声が聞こえてきた。
『置いていけ……置いていけ……』
「あ、次は置行堀なんだ」
六の怪、《置行堀》
元ネタは江戸時代、本所は水路が多く魚がよく釣れたことから始まる。
ある男が水路に釣り針を垂らすと、魚がよく食い付き帰る頃には大漁に獲れていた。そして気をよくしながら帰ろうとしたとき、どこからか『置いていけ』と恐ろしい声が聞こえてきて、それに恐怖した男は走って逃げた。
そのあと恐る恐る釣った魚を確認してみると、あれほど大漁だった魚が一匹もいなかったという話だ。
多分今置いていけと言っているのは、椎の木トレント君のことだろう。
なに? 仲間を助けに来たってこと? でも椎の木トレント君が自分で望んだことなんだけど、見てなかったのかな?
いやゲーム的に言っちゃうと、この屋敷外のフィールドになにかを持ち出そうとすると現れるって設定なんだろうけど。
でもそれよりも、だ。
あたしの元ネタみたいなものであるメリーさんが、後ろを取られてよしとするか? いや、しない! それにどのみち戦うことになるだろうし、先手必勝だよ! ということで振り向き様に、ナイフを投げつける。
見た目はなんか昔の幽霊って感じの見た目だね、置行堀は。しかし投げつけたナイフは、置行堀の体をすり抜けていく。
物理無効かな? でもこのナイフは物理無効にも効くんだから大丈夫! 物理無効は物理ダメージをステータスの数値で計算した後で無効にするからねー。このナイフはその計算後のダメージを魔法ダメージにしてくれる優れものなのだ!
あ、これはスキルの説明が分かりにくいって運営に言ったら教えてくれました。教えるんじゃなくて、スキル説明を変更すればいいのに……。
閑話休題。
そんなわけで絶対ダメージが通るはずなんだけど、見えるようになった体力のゲージはまったく減っていなかった。えっ!? なんで!?
そんなことはお構いなしなのか、置行堀は再度口を開いた。
『置いていけ……置いていけ……』
「えぇ、両者打つ手なしなの?」
あっちも攻撃してこないし、こっちの攻撃は通らないという悲しい現実。いや、これVRなんだけどね。それより急に攻撃をしてきたその行動が怖かったのか、置行堀は置いていけコールに少し恐怖を滲ませていた。
いや、なんであたしが怖がられてるの? 怖がらせる役目って、そっちじゃなかったっけ?
そんなことどうでもいいから、攻略法を考えなきゃ。あたしはいつもの体勢─腕を組んで首をかしげる体勢─で、考える。
ブツブツと口に出して頭の中を整理しつつ、考える。
「置行堀ってまずなんだっけ? あ、いや都市伝説通りならたしか……」
そうやってブツブツ言い始めたあたしが怖いのか、置行堀の置いていけコールはさらに恐怖を滲ませる。それもお構いなしにあたしは考えていると、ある考えに至った。
「あっ! 置行堀の正体ってカッパかタヌキって言われてたんだ!」
この置行堀が作られた幻影かなにかだとすると、ダメージが通らなかったのも納得が行く。
それに本所七不思議は、そのほとんどがタヌキが原因とされているからこいつの本体はタヌキのはず。周りを見てみると、その答えを裏付けるようにタヌキが隠れていた。いや、隠れきっていないんだけど……。
タヌキは庭の草花の背が高いところに隠れようとしていた。でもいくら背が高かろうとただの草花、タヌキが隠れきるほどの高さではなかったらしく、ただ鎮座しているようにしか見えないのだからお笑いものだ。
あたしはそのタヌキに向かって、無慈悲にもナイフを投擲する。だってこいつ、あたしのこと殺そうとしたし。
自分の力で倒せないから仲間の力を借りるっていうわけで、狸囃子であたしを誘き出したんだろうね。でも仲間の力でも倒せなかったというまさかの結末があったと。
あたしが頭の中でタヌキの一生を勝手に描いている間に、タヌキはナイフに刺されて死んでいった。タヌキよ、安らかに眠って。
そう思い自分が殺ったという事実を棚にあげて合唱してると、屋内の方でバキバキッ! という大きな音が鳴った。




