38話目
百合注意、百合注意、百合注意!
あ、R15だからね?
R18はないから。当たり前だけど。
「ハッ!?」
「あ、起きた?」
目を覚ますと、そこはあたしの部屋だった。
シングルベッドが置いてあり、勉強机にはさっきまでやっていた宿題がそのままになっている。
ぬいぐるみの類いはなく、本棚には心霊関連の本や怪異系に都市伝説系の本などが置いてある。窓を見てみると太陽の高さ的に、まだそんなに時間は経っていないように見える。
そしてあたしはベッドに横になっていて、彩がなぜか添い寝をしていてあたしの方を見て微笑みながら問いかけてきた。
とりあえず聞きたいことが1つ。
「ねぇ…彩」
「ん? なぁに?」
「なんであたしたち……裸なの?」
時間が止まったかのように、部屋の中から音が消える。しかし、すぐに観念したかのように彩は首を振って答えた。
「大変美味しゅうございました」
その答えを聞いたあたしは最初意味が理解できずにポカンとしたあと、すぐに答えにたどり着いた。
それって、それってつまり……。
顔に血が集まって、湯気が出そうなほど熱くなっているのが分かった。絶対赤くなってる。
それを見た彩は、あたしの頬に手を当ててあたしを優しげな目で見るとこちらに顔を近づけてくる。
それを見て、あたしはか細く声を出す。
「いや、待って、ダメ」
「なんで? 私じゃ嫌?」
「い、嫌じゃないけど……ダメだからぁ」
「なんでダメなの? 私が嫌いだから?」
「嫌いじゃないよ……好きだけど、こういう好きじゃなくて」
あたしはちょっぴり恥ずかしくなって、体をモジモジとさせる。だ、だってこういうのってなんというか、うまく言えないけどダメな気がしちゃって……それに彩が相手だって考えると嬉しすぎてダメになっちゃいそうだし。
彩はそんなあたしを真剣な眼差しで見て、これまた真剣な声でそれも耳元で囁くように言った。
「私は芽里のこと、こういう意味で好きだよ」
「うぅ……」
「芽里は私のこと嫌い?」
「う、うぅ……」
「……嫌いなの?」
彩は、あたしが彩の質問に答えなかったのが想像以上にきたのか、目に涙を溜めてこちらを見てくる。……そんな目で見られたら、本当のことを言うしかなくなるのだからやめてほしい。
あたしはそれでも恥ずかしくて、消え入りそうな声で呟いた。
「……す、好きだよ。彩のこと」
「えへへ、ならいいでしょ?」
「う、うん」
彩の心底嬉しそうな声と笑顔を見てしまったら、とても拒否なんてできなかった。
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「って、やっぱり女の子同士なんてだめー!」
「あ、起きた。どうしたの? 変な夢でも見た?」
「へ? あれ?」
「え、本当に大丈夫?」
ベッドから起き上がると、そこはさっきと同じあたしの部屋だった。まああたしも彩も服は着てたし彩は床に座ってたし、窓から見た太陽はかなり高いところまで登っていたけど。
もしかして今のって……夢?
ってことはつまりあたしは彩をそういう目で見てたってことで……とそこまで考えたところで彩がこちらを覗きこんでくるようにして、心配そうに見つめてくる。って顔が近いってばっ!?
あたしはさっきまでの夢を思い出して顔が赤くなってしまい、顔をそらした。
「え、芽里なにその反応」
「う、ううん。なんでもない。それよりあたしどれくらい寝てた?」
「私が治療し終えてからだから一時間くらいかな」
「そんなに!?」
どうやら結構な間寝ていたらしい。それにしてもなんであたし殴られたの?
なんかしたっけ? やっぱり夢の内容がダメだった? いや、でもあれは殴られたあとだし、彩が分かるわけないし。
うーん、と腕を組んで首をかしげて考えた結果彩に聞くのが一番早いという結論に。というわけで聞いてみたら……。
「はぁ……」
「な、なんでそんな呆れたような溜め息を出すの?」
「いや、うん分かってた。忘れてそうだなとは思ってたから」
「なんかバカにされてない? 確かに忘れているんだけどさ」
「まあ、覚えてるわけないよねー。最後になったのって小学校の入学式だし」
小学校の入学式ですと? なんかあったっけ?普通に入学式して終わった記憶しかないんだけど。
彩はあたしの思考などお構い無しに話しだした。
「小学校の入学式の時に来ていた上級生の子たちを、恐怖のどん底に陥れてたんだけどなぁ。それも芽里にとっては普通の入学式になるのかー」
「えっ、あたしいつ普通に入学式して終わったって言ったっけ?」
「顔に出てたわ、アホ」
「アホとは失礼な! それで? なんでそんなことになったの?」
「上級生の子が先に手を出したらしいんだけど、そこまで詳しくは知らないわ。ただ」
「ただ?」
「上級生の子たちの中には目の光が失われていて、未だに意識が戻らない子もいるみたい」
えっ、うそー。それは忘れちゃマズイやつなんじゃないの? でも今の今まで忘れてたしなぁ。
「まあ今はそれはどうでもいいの」
「どうでもいいんだ……」
「うん、重要なのはその後」
「その後?」
「うん、芽里は子どもの頃から今の感じだったでしょ?それでたまに人を恐怖のどん底まで陥れた後の芽里が変になることがあって……」
彩の説明をまとめると、あたしは人の恐怖を見てある一定を越えてしまうと変なモード─彩命名《テラーモード》─になるらしい。
そのときのあたしは言葉が間延びしており狂ったような笑みを浮かべているとのこと。それであたしと面と向かって話した人は、皆恐怖を滲ませていたんだね。
それでこのモードはなぜか気絶するくらいの力で殴れば、元に戻るらしい。その話をするとき彩の目が泳いでいたけど、よく分からなかったのでとりあえずスルーしておいた。
「それから《テラーモード》になった時は大抵何人か意識が戻らなくなるくらいの恐怖を味わっちゃうんだけど、昨日のアレを聞いて《テラーモード》になったのが分かったから私は来たの」
「アレ?」
「あの害悪プレイヤーが目の光を失っていたって掲示板で聞いたの」
「へー、そうなんだー」
あたしが感心しながら聞いていると、いつも通り溜め息をはいた彩はあたしの方をジト目で見ると言った。
「大体昨日はヤバそうな雰囲気の掲示板を見つけちゃって、そこで芽里の話が出たから忠告しとこうと思ってた矢先にだったからね」
「あ、忠告してくれようとしてたんだ。ありがとっ!」
「グハァッ!?」
あたしはジト目をされてるのは分かっていたけど、なんでジト目をされているのか分からなかったのでスルーして満面の笑みを浮かべながら、忠告してくれようとしていた彩に感謝の言葉を言った。
そしたらなぜか彩がティッシュを鼻に詰めだした。なんで? 彩はこのままここにいてはマズイと思ったのか、帰る準備を始めた。
そして部屋の扉を開けて、出ていく前にこちらを向いて一言。
「その顔、私以外にしちゃダメだからね!」
「えっ? うん、分かった!」
最初はなんで? と思ったけど、彩が言うならそうしておこう。代わりに分かったと返事をするときに、同じように満面の笑みを浮かべて言った。
彩はそのまま恥ずかしそうにして、帰っていった。
それにしても、あの夢は結局なんだったんだろう?やっぱりあたし、彩のことそういう目で見てるのかなー?
いや、好きなんだけど……よく分からないや。
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一方彩はさっきの満面の笑みで第2ラウンドを始めそうになったのを必死で抑えながら、芽里の家を出ていった。
そして嬉しそうにスキップしながら、恍惚とした決して他人には見せられないような表情をして悦に入った声を出す。
「あのときの芽里。いつもと違った可愛さがあったなぁ。えへへ……」




