1話目
セミがミンミンとうるさく鳴き、太陽が燦々と輝く夏。
あたし──賀島芽里は中学校の制服を着て、通学路を歩いていた。
夏特有の暑さにウンザリしながら歩いていたけど、その目がある影を捉えた瞬間暑さなんて忘れて、ニヤリと笑った。
できるだけ物音を立てないようにそっと近づく。
抜き足、差し足、忍び足っと。
すぐ後ろにつくとあたしは携帯を持ち、家族以外だと唯一入っている番号に電話を掛ける。そして電話の主が出た。
『もしもし?』
「もしもし? あたしメリー。今あなたの後ろに居るの」
『えっ……?』
驚いたように、勢いよく後ろを向く影。
それはあたしの友だちの仲島彩だった。腰の上までの長さの黒い髪と黒く大きな目を持ち、整った顔の、綺麗な女の子。最近成長期なのか胸が大きくなってきていて、未だに成長期が来ないあたしへの当てつけかと思ってしまう。もちろんそうじゃないってことは分かっているけどね。
すぐさま通話を終了すると、飛び付いてハグする。
「彩ー! おはよー!」
「はいはい、おはよう芽里。あんたまたこんなことで電話使って、そのうち怒られても知らないよ?」
「いいもーん。どうせ彩と家族しか電話する人居ないしー。あれ? なんか自分で言ってて涙が……」
「なんで自分で傷をえぐるかな……。とりあえず一緒に学校まで行こっか」
「うん!」
ここまでがいつもの流れだ。
彩はなんだかんだと言いつつも、いつも驚いてくれるしあたしの友だちで居てくれる。
まあ、この頃は彩だけじゃ物足りなくなりつつあるんだけどね。
あたしは恐怖や驚愕といった感情が好きだ。別にあたし自身が体験したいわけじゃない。
人の顔が恐怖や驚愕に染まっているのを見るのが好きだ。驚愕の顔はドッキリで見ることはできる。でも恐怖の顔は見ることができない。
本当の恐怖は見ようとしたら犯罪を犯さなきゃいけないから。それはできない。
いくらあたしでもやっていいこととダメなことの区別はつく。
「そういえば芽里」
そこで声を掛けられ、思考を1度停止させる。無意識に学校に向けて歩いていて、隣を歩く彩の方を見ると彩もこちらを見ていた。
「なに?」
「明日から夏休みに入るじゃない?」
「そうだね」
そう、今日は中学2年の夏休み前日──終業式の日である。もちろん予定なんて一切入っていない。
「じゃあさ、予定ってある?」
「え? ないよ?」
「ならゲームしない?」
「ゲーム? どんな?」
「メイク・スキル・オンラインっていうVRMMOなんだけど……」
メイク・スキル・オンライン。
最新の技術を用いたゲームで、『現実とほとんど変わらない世界をあなたに!』がキャッチフレーズのゲームである。
その特徴は名前の通りスキルを作ることにある。限度はあるし、作らなくともスキルはゲーム内にあるけど、ポイントを使って作ることができるらしい。
詳しくはまた今度で。
「あたしそれ買うお金ないんだけど? 本体も買わなきゃじゃない」
「大丈夫! 私が懸賞で当てたやつがあるから!」
「それ大丈夫なの? どっちも結構高いやつだよね?」
「いいの。私はたまに芽里とゲームできるだけで十分だから」
「そう? それならいいけど……」
その後学校まで手を繋いでいくと、最近髪が薄くなっている校長先生の長くありがたーいお話を聞いて、ホームルームで担任のこれまたありがたーいお話を聞いて、大量の夏休みの宿題をカバンに詰めて帰宅した。
そのときに彩の家に寄ると、プレゼントしてくれたゲームを受け取ってから帰った。
そして夏休み初日、あたしは雑事を終わらせてメイク・スキル・オンラインを起動した。