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捨てられ薬師の再就職

作者: 石動なつめ
掲載日:2018/07/09


「この町で、回復魔法が使える子を仲間に誘ったんだ。だから悪いんだけど、君は抜けてくれないかい」


 魔王討伐の旅の最中の立ち寄った町で、薬師のカディオはパーティのリーダーである勇者から、そんな事を言われた。

 言葉通りの解雇通告である。

 普段は呑気なカディオも、この時ばかりは青くなった。


 カディオは勇者パーティの中では古株だ。

 まだまだ勇者が駆け出しで、仲間が一人しかいなかった時に誘われて、旅をするようになった。

 その頃は、パーティのお財布事情も心もとなく、カディオが旅の最中に薬草や毒草を見つけては、売って旅の費用の足しにしていた。

 戦いの際も傷を負った仲間たちを、作った薬で治療しながら旅をしていた。

 戦闘で役に立てたかというとその位だが、それでも仲間たちが死なないようにと日々必死であった。


――――のだが。


 悲しいかな、勇者パーティが強くなるにつれて、だんだんとカディオの役目も減って行った。

 勇者たちも相手の力量を測れるようになって、無茶な戦いは挑まなくなったし、お金にも余裕が出来て遊びに行けるほどにもなってきた。

 最初の頃から辛い旅をしてきた勇者たちだ。

 カディオはずっとそれを見て来たからこそ、自分のやることが減ったのは良い事なのだろう、と納得させていた。


 だがその結果は、これである。

 言葉ではっきりと「君はいらない」と言われると、なかなかどうして、寂しいものがあるなとカディオは思った。

 そして実際にカディオ自信も「いらないな」とは思っていたのだ。

 それでも、最初の頃から一緒だったのだ。出来れば最後まで、この旅の結末を見てみたかった。

 そう思いながら、


「うん、分かったよ。それじゃあ勇者、どうか無事に良い旅を」


 なんて笑って、後腐れない素振りでパーティを抜けた。

 勇者たちは、あからさまにホッとした顔をしていた。カディオがもっとごねると思っていたのだろう。


(ああ、そんな顔されちゃうんだなぁ……)


 それを見てカディオは何だか悲しくなった。

 だが、ここで泣くのは意地もあったので堪えて、笑顔でその場を後する。

 笑って、笑って、貼り付けたような笑顔が消えたのは、そこからだいぶ離れた路地裏だった。


 人気のない路地裏まで来ると、カディオの目からボロボロと涙の粒が零れた。

 二十も半分越えた男が、こんな事で泣くのはおかしいと思われるかもしれない。

 だがカディオには堪えられなかった。

 悔しいとか、悲しいとか、色々な感情が思い出と共に競り上がってきて、目から落ちて行く。

 

(必要されないってのは……思ったよりもクるなぁ……)


 仲間だと思っていたし、仲間でいたかった。

 戦力不足を感じていながら、それでもしがみつくように残っていたのは、勇者たちの無事な姿を見ていたかったからだ。

 血の繋がりはないけれど、親のような、兄のような――いうなれば家族に近い感情をカディオは抱いていた。

 だがそれはカディオだけだったようだ。それがカディオには無性に悲しかった。

 一方的に思っていただけだったとしても――戦力不足であっさり別れを告げられるくらいの間からだった事が、たまらなく悲しかったのだ。


 そうしてカディオがしばらく声もなく泣いていると、


「おいこら、そこの。そのような場所で何故泣いておる」


 と、幼い子供の声が聞こえた。

 見れば直ぐ近くに、カディオの膝までしかない身長の少女がいて、怪訝そうにカディオの顔を見上げている。

 艶やかな黒髪を後ろで縛った、勝気そうな顔立ちの少女だ。豪奢な服を着ている所をみると、どこかの貴族の子供だろうか。

 そんな事を思いながら、カディオはハッとして、慌てて袖で目をこすると、


「あ、ああー、いや、その、何でもないよっ」


 と、明るく答えた。だが少女は、


「その形で何でもない、はないだろう。ほれ、使うが良い」


 と、妙に尊大な態度で、高そうなハンカチを差し出してくれた。

 カディオは少し迷ったが、お言葉に甘えてハンカチを受け取って、顔を拭く。

 鼻もずるずるしていたが、さすがにこのハンカチでそれは出来ないなと、カディオは踏みとどまった。


「それで、何を泣いておったのだ」

「い、いやぁ、お嬢ちゃんに聞かせるような話じゃ……」

「聞かせるような話でなければ、別に聞かせても構わんだろう」


 少女は腕を組み、半眼になってそう言った。

 言っている事はめちゃくちゃなのだが、要約すると「良いから話せ」という事なのだろう。

 カディオはどうしたものかと悩んだ。だって、こんな事を話しても、情けなさを露見させるだけだからだ。

 

 だが、そこまで言うのなら、聞いてもらったら少しは気が楽になるかもしれない。

 そんな事をカディオは思ったので、


「ホント情けない話だから、笑わないでね」


 と前置きして、指で顔をかきながら話始めた。

 旅の始まりから、今まで。思い出補正のせいで、若干大げさになってしまった部分もあるが、ほぼそのままだ。

 話終えた頃には、言葉に出したおかげで、カディオの中で渦巻いていた悲しい感情は少し和らいだ。

 そして少女もまた最後まで笑わずに聞いてくれていた。

 ありがたかったと、カディオは素直に思った。なので礼を言わねばと口を開いた時、


「うおおおおお、ひどい、何だそれはー!」


 少女が叫ぶように号泣し始めた。


「え、え、あの、だ、大丈夫!?」

「うおおおおおおおおお! お前、大変だったなぁ! 大変だったなぁ!」


 少女は泣きながら、その小さな手でカディオの背中をバンバン叩く。

 見た目の割に力が強く、カディオは咽た。


「よし分かった、お前、名前は!」

「えっ、えっと、カディオだよ」


 少女はカディオの名前を聞くと「そうか!」と力強く頷いた。

 何が分かったのだろうかとカディオが首を傾げていると、


「お前、うちに来い!」


 と、少女は胸を叩いた。


「うち?」

「うむ。お前、今は無職だろう! ちょうど今、私も従業員を何人か探しておってな!」


 少女のストレートな言葉は、カディオの胸にぐさりと刺さった。

 無職というと少し違う気もするが、だが、今まで所属していた場所から解雇されたという事は事実だ。


(そうか、僕、無職かぁ……)


 そう思ったら、無性にやるせない気持ちになって来た。

 少女の家がどういった場所なのかはカディオは知らない。だが、彼女が着ている服装から見て、そんなに悪い場所ではなさそうだな、と判断する。

 環境が悪くなければ、一度お世話になってみるのもありかもしれない。

 何より、このまま故郷に帰って「解雇されたよ!」なんて言いたくない。

 なのでカディオは、


「無職なのでお願いします!」


 と少女に頭を下げた。少女はニカッと笑って、


「ああ、まかせておくがよいぞ!」


 と、相変わらず尊大な態度で受け入れてくれた。








――――なのだが。


 そんなカディオが連れて行かれたのは、彼の予想の斜め上の場所だった。


「いや、まさかお嬢ちゃんが魔王なんて聞いてないんですけど」


 カディオはそんな事を言いながら、真新しい仕事着を着て、薬研をゴリゴリしていた。

 その向いでは、カディオの雇い主である少女が、椅子の上に座ってプラプラと足を揺らしている。

 

「そうか? まぁ、別に良いではないか。うちは給料は良いぞ」


 少女、改め魔王は、そんな事を言いながらフフンと胸を張った。

 魔王の言う通り、給料も待遇もかなり良い。王都の城仕えでもここまで良いかとどうかだろう。

 給料だけでも、カディオが薬師として普通に働いた場合の給料の、およそ三倍は貰えている。そこに衣食住までついているとなると、破格の待遇である。

 カディオは正直戸惑った。ここまで良くして貰う理由がないからだ。

 それを正直に魔王に聞くと、


「頑張った奴は頑張った分だけ報われるべきだろう?」


 と、当たり前のように返って来た。

 だがしかし、解雇の一件があって、カディオは少々卑屈になっていた。

 なので「僕なんて大した事出来ないですよ」と言うと、


「良く分からんが、お前は薬師として生きてきたのだろう。ならば十分、大した事ではないか。私だって魔王以外の事はできんぞ」


 と、相変わらずの尊大な態度でそう言ってくれた。

 正直、そんな風に言われるとは思わなかったので、カディオは何だか泣きそうになった。

 そんな風に言って貰った上に、待遇まで良いのだ。これは全力で頑張らねばなるまい、とカディオは決意する。


「……あ」

「どうした?」

「そう言えば、僕、勇者の仲間だったんですよ」

「ああ、そんな事を言っていたな」

「魔王討伐に来る……と思うんですけど」

「ああ、勇者ならそうだろうな」


 魔王は特に気にした風でもなく、こくりと頷く。


「良く分からんが、襲って来たなら追い返せば良いのだろう?」


 何て、アッサリとした調子で魔王は言う。

 確かに言葉だけならそうなのだが。

 勇者たちの成長を間近で見て来たカディオは、本当に大丈夫なのか心配になった。

 だって、見た目は小さな女の子なのである。仮に魔王が勇者に負けないくらい強かったとしても、心配は心配だ。

 どうしようとカディオが内心ハラハラしていると、


「それに、ずっと一緒だったお前を簡単に解雇した連中だろう。多少痛い目を見て貰わねば気が済まぬ」


 魔王はそんな事を言ってくれた。むう、と口も尖らせている。どうやら怒ってくれているようだ。

 出会ったばかりの自分を、ここまで気にしてくれる雇い主などいただろうか。

 カディオは胸が暖かくなるのを感じた。


(僕が守らねば……!)


 そして、そんな使命感が湧いてきた。

 正直なところ、解雇されたとは言えど、ずっと仲間だった勇者と敵対する事に躊躇う気持ちはある。

 実際に対峙した時にも、全く躊躇わないという事もないだろう。

 だが、良くしてくれた優しい魔王を、危ない目には合わせたくない。カディオの心の中の天秤は、一気に傾いた。

 

「魔王様!」

「む?」

「頑張って死なない程度の毒薬作りますね!」

「いや、普通の薬で構わんぞ?」


 物騒な宣言をするカディオに、魔王は首を傾げる。

 死なない程度に、とつけたのは魔王の言葉から、命を奪うという意志を感じなかったからである。

 ならば、雇い主の意向は尊重すべきだろう。そう考えたカディオだったが、魔王にはあまり伝わらないようだった。


「あ、出来れば、そのう……私が飲むのは甘い薬が良い」


 だが代わりに、そんな可愛いお願いをされたカディオが、全ての薬を甘い味へと変えて≪甘党≫なんて二つ名がついたのは、それから程なくしてのことだった。

 魔王には大喜びされたが、一部の辛党からはとても嘆かれたと言う。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 是非とも魔王関係なく勇者にざまぁを! 例えば…… ・カディオのポーションは回復魔法よりも治りが速い ・MPを消費する分にはタダだが、MPポーションはメチャ高い。カディオはMP回復薬…
[良い点] 再就職先が全くの想定外でした。もちろん雇用主の正体も。 追放・魔王・勇者パーティー、というタグのついた作品が多くなり、復讐・ざまぁが過激なものが好まれる傾向も見られます。 この作品ではベク…
[良い点] 可愛い魔王だなあ。 ハードな世界と思いきや、実はほのぼの。 ほっこりして面白かったです。
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