Route.ティム(1)
こんばんは、遊月です。
eclipse codeでは、複数のルートを同時進行で更新していくという試みをしてみようかと思います。イメージで言うと、格闘ゲームのような感じ……?
ティムさんのシナリオへようこそ!
本編スタートです!
……街は、とても静かだ。
そんな感想が、ティムが店を出てまず思ったことだった。
ティムは、繁華街で営まれる性風俗店の常連客だった。昼間は外を歩くわけにはいかない身である彼にとって、この不夜城はまさにありがたい存在である。それに、この不夜城に集まる者のほぼ全員が何かしらの事情を抱えているから、干渉されることも少ない。
そんな心地よさに溺れるように、ティムは日々獲得した金銭のほとんどをこの街のサービス店で消費していた。恐らく日中に出歩いても問題はないだろうが、たまたま外からの来訪者がいた日にはたまったものではない。
あのときは、どうにか黙ってもらわなくてはならなかったから大変だった……。
思い返すだけでその日の苦労が蘇るようだ。ティムは首を振ってその記憶を頭から追い払う。
そして今日も、ティムはまたサービスを享受しようとしていた。期待と欲情を胸に、待合室で深夜バラエティを眺め、常備されている爪切りで少し伸びていた爪の手入れをする。セルフサービスのドリンクも何杯飲んだだろうか。
店の人気嬢とあって、待ち時間も常とは異なる。彼よりも後に入った客が先に呼ばれて待合室を出て行くのも、数人見送った。そして店のボーイが「もうそろそろ準備できますので」と申し訳なさそうに断りの言葉を入れてきたために、期待して待っていたが。
それから数十分経っても、呼ばれない。
そればかりか、準備が滞っている・先客が延長しているようだ、などの報告も来ない。いよいよ何事か物申した方がいいだろうか、そう考えたとき、気付いた。
誰もいないかのように店の中が静かなことに。
案の定、店の中には誰もいなかった。
全部屋のドアを開けて回ったが、誰ひとりいなかった。脱ぎ捨てられた衣服は目に着いたのに、まるで人間だけが消えてなくなったかのようで。
ならば、仕方ない。
気持ちを落ち着けてから、まず受付用レジスターを開けて、中の現金を拝借した。先立つものは多くあるに越したことない。
次に、女を探すことにした。
せっかくここまで昂っているのだ、この欲望をどうにか発散しなくてはなるまい。
「探さなくては」
その一言だけ呟いて、ティムは夜道を歩く。
揺らめくような陽炎をその身に纏ったまま。