Route.雄馬(1)
こんばんは、遊月です。
本作eclipse codeは、どのルートから読んでもお楽しみいただける仕様を目指して執筆しております……一応は。雄馬くんのシナリオへようこそ!
本編スタートです!
「ったく、どうなってやがる、これは?」
ひと仕事を終えて、疲れた体を休ませる前に少しくらいの褒美と心に癒しを。
そう思いながら訪れた繁華街は、雄馬の予想に反してあまりに静かだった。華やかな街の明かりはそのままに、人だけが消えてしまったように。
「まさかとは思うが……、大規模な一斉摘発でも入ったか?」
自分でも笑えない冗談に、思わず苦笑する。
この繁華街はほぼ無法地帯だ。特殊サービス店の営業は午前0時までしか認められてはいないが、そんなものはこの街には関係ないだろう。半端な力しか持たない法律や規範程度では太刀打ちできないようなモノが牛耳っている街なのだから。
本来ならこの街の支配者も雄馬の仕事の対象なのだが、彼自身にその意志はない。
何たって、敵わない。
彼我の実力差が著しい仕事はしない――それが雄馬の信条だった。彼にとってこの仕事は生き甲斐のようなものになっているし、その為に大抵のものは犠牲にしてこられたが、その為に命まで捧げてやる気はない。
「それにまぁ、この街のそんなところにはだいぶお世話になってるしねぇ」
先日の仕事終わりに味わったものを思い出し、雄馬の顔には笑みが浮かぶ。浴場にまみれた笑みの中でもその顔が醜い印象にならないのは、並外れた容姿の恩恵か、はたまた緩めながらも鋭さを一切失わない瞳の輝きによるものか。
それにしても、静かだ。
「んじゃま、この異変の原因を片付けて、ひとつ奴さんに恩でも売っとくかね。俺に目を付けられたのが、アンタの不運だったな――――」
どこかにいるであろう、この異変の「原因」に向かって微笑みかけてから。
得物の短刀を鞘から抜いて、雄馬は悠々と静寂の街を歩き始めた。