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ELEMENT2017秋号  作者: ELEMENTメンバー
想像の翼
10/12

水と油(作:SIN)

 今日は朝からダルイ気がした。

 熱でもあるのだろうか?と額に触れると酷く熱い。

 確実に熱があると思って計ってみた体温は、35.1℃だった。体温計の不調を疑って何度も計ってみるが、それでもやっぱり35℃のまま変わる事がない。

 普段よりも低い体温だというのに額が熱く感じた理由は、単純に手が冷たいから。寝起きで、布団から出たばかりの手が35℃の体温を酷く熱いと感じるほどに冷え切っている。

 普通にあり得るのか、あり得ないのかは良く分からないが、俺にとってはありえる事だし、ダルイと言うのにゆっくりと寝ている場合じゃない位の事件でもある。

 「さぁて、行こか」

 声に出して自分に気合を入れ、出かける準備に取り掛かると玄関前では散歩に行く事を察知したイヌが大人しく座って待っていた。

 吠えもせずにジィっと俺の準備が整うのを待っているイヌの名前はナツメ。イヌとは言ったが、正確にはイヌ科のナニカ。

 ギュッと靴紐を結んで玄関を開けたら、後は直感で歩き続けるのみ。

 あの交差点をどっちに向かう?

 あの角は曲がる?

 信号は渡る?

 歩くか、走るか、それとも立ち止まってみる?

 全ては直感で決めて進み、時々後ろを向いてイヌが着いて来ているのか確認する。

 リードも何もしてないから誰かに襲い掛かるかも知れない。だけど、それでもリードをつけようとは思っていない。そもそも、そんな物でナツメが如何にか出来るとは到底思えないから。

 俺の2倍は大きいし、全力で走られたら一瞬で見失うし、力も強いから、リードなんかつけたら引っ張られるのは俺の方になる……ナツメが軽くジャンプしただけで俺の体は宙に放り投げられ……はしないか。

 まぁ、苦情が入ればつけるさ。

 入ればな。

 前に出す足先がピリピリとしてくると、目的地が近くにある証拠。

 一旦立ち止まり、その場でクルリと回って見て、より痛みを感じた方向に体を向けると、自ずとソレは俺の目に入ってくる。

 見付けた、アソコだ。

 小さなタバコ屋にある自動販売機の横。猫しか出入り出来そうにない細い路地の1メートル程先に落ちているのは……ガラス?フレームが近くに落ちているって事はメガネのレンズか?

 とにかく、ナニカが割れた欠片が散らばっていた。

 いちいちこんな所に捨てに来たのだろうか?それとも隠していたのか……どっちにしろ割れてるんだから壊れてる。

 後ろを見ると少し離れた場所でナツメが伏せているから、チョイチョイと手招きして呼んで俺の後ろを指し示した。何も言わずとも示した場所に座るナツメ。

 「さぁて、いつでも来い」

 破片を前に張り込む事しばし、彼方此方に散らばる破片の1つ1つから白いモヤのようなモノが出て来て、徐々に一塊になって形を成した。それは禍々しい気配には似合わない儚げな桜色の魚。ひれが長くて4つ尾になっている。大きさは20センチ位かな。

 このメガネにどんな特殊効果があったのかは分からないが、その効果のせいで悪用されてしまった。

 恨みを持った人間が誰かを攻撃しようとして物を使うと、その力が物にも宿る。恨みの力を蓄えた物は「呪いの道具」と呼ばれている。

 道具が壊れれば、蓄えられていた呪いの力が行き場をなくして彷徨い出て……無差別に人を呪い歩く。だから即座に鎮めなければならない。

 魚から目を離さず、ゆっくりと手を差し出すとユラリユラリと優雅に、ゆっくりと宙を泳ぐように上昇していくので、手が届かなくなる前に桜色の長いひれを掴んだ。途端にパシパシパシと攻撃してくる魚。だけど微笑ましいだけで痛みは全くない。

 弱ってる?

 それとも元々強くはなかった?

 もしくは、このメガネにはマイナスとなる力が溜まり難かったのか……。

 「ほんのちょっと大人しくしてくれるだけでえぇからな」

 魚を挟むように両手で掴むと、魚の姿は半透明の球体に変化した。魚が観念して俺に従ってくれた訳ではなくて、これが俺の特殊能力。

 そこにいて、いないモノを捕まえる力……この魚のように呪いの力が具現化したモノを捕まえる能力。

 世の中には色んな人間がいて、能力を持っている人もかなりいる。それに気付かないまま生きる人が大半なんだけど、たまに自分の能力をコントロール出来てしまえる人がいる。

 力ある所に力は集まるもので、能力者の傍には呪いの力を蓄えた道具があったりする。例えばこのメガネ。

 呪いの道具なんかない方が世の為だ。とか見当違いの正義感を振りかざして、道具を片っ端から破壊して回る奴らがいるが、道具はなくてはならない物であって破壊して良い物ではない。

 ヤツラとは一生分かり合えないのだろうな……本当に面倒臭い連中だよ、全く……。

 「さぁて、帰ろか」

 ナツメを先頭にして家に戻り、球体の魚……と言うよりも呪いの塊を机の上に置いて手持ちの「呪いの道具」であるお猪口を引き出しから取り出した。

 元は割れ物についていた呪いだから、同じ割れ物であるガラス製の道具を選んだんだけど、相性はどうだろう?

 しばらく様子を見ていると、お猪口から小さな手が出て来て塊を掴んだ。すると塊が急に魚の形に戻り、手を丸呑みにしようとしたんだけど……お猪口から出てきたのは呪いの一部分でしかないから、まぁ、魚の方が飲み込まれてしまった。

 こうして魚を飲み込んだお猪口の力は更に強くなり、近付く者すら不幸に落としかねないほどの強い道具に成長した。

 「さぁて、ちょっと使っとくか」

 冷蔵庫の中から麦茶ポットを取り出し、お猪口に注いでグビッと飲む。

 この道具の能力は、使用した者の目に普段ならば絶対に見る事など出来ない寿命を映す事。

 見え方は飲む量や「見たい」という思いの強さによって変わり、特になんとも思わずに使った時には、何歳まで生きるのかって年齢だけが見える。見たい、知りたいと思いながらガブ飲みすれば秒単位まで細かく見る事も可能!

 特に使い所もないし、害もないから呪いを集めるのに最適な道具。これがもっと……ナイフ形とかだったら物凄く厄介になる。

 人を傷つける為の形状なのだから、何をどう使ってもマイナスの力が道具に溜まってしまう。だけど、呪いの力を弱めるにはプラスのイメージを持ちながら道具を使うしかないから、武器の形をした道具は一生かかっても呪いの力が減る事はないのだ。

 そういう武器はコレクターと呼ばれる人達が集めて保管してくれているが、そこでもまた「呪いの道具を集めるなんて!」とか言いながら邪魔してくる道具破壊派の連中。

 俺達が集めてるのは道具じゃなくて呪いの力。世に放つ訳にはいかないから集めて少しずつでも鎮めてるってのに……。

 あー、駄目だ。こんな事思いながらじゃあマイナスの力が溜まってしまう。

 注いでいた2杯目の麦茶をシンクに捨て、色んな人の寿命を見る為に外に出ると、何も言ってないのにナツメもついてきた。

 手の温度も戻ってるのについて来るなんて珍しいな……何か、厄介な事が起きなければ良いが……。

 大通り沿いを歩き、色んな人の寿命を見ながら散歩する。

 あぁ、あの人は後10年位かな?あの人は長生きするなぁ。なんて人間観察しながらノンビリとアテもなくフラフラし、交差点の信号待ちをした時、信号機の上にいたナツメが唸り声をあげた。

 何を言ってるんだろうか?と見上げると、道路を挟んだ向こう側を威嚇している。

 普段温厚なナツメがどうしたんだろう?

 不思議に思って、俺は向こう側にいる人間を注意深く見てみたんだ。そしたら、1人だけ明らかに可笑しな奴がいた。

 外見は普通の高校生か大学生にしか見えないが、頭上に浮かび上がっている数字が回りにいるどの人間よりも多いんだ。ケタが、1つ……。

 今俺が見えているのは、何歳まで生きるのかって年齢。ちなみに、今隣にいるじぃさんの頭上には85と出ているし、じぃさんの隣のばぁさんは70と出てる。それなのに、ソイツの頭上にある数字は1000を超えている。

 アイツの数字だけバグが起きたとも考えにくいし……いや、能力にバグもクソもあるか。だったらアレは?

 不老不死という能力者と考えるのが自然だろうか?それとも呪いの道具の影響か……どちらにしたって俺にとっては無関係ではない。

 しかしだ、戦うつもりで出てきた訳じゃないから道具なんか持ち合わせてないし、出来る事なら接触は控えたい。

 ボンヤリとこっちを見ているが俺を警戒している感じではないから、能力者がいるとは気付いていないようだ。だったら信号が青に変わる前に来た道を引き返せば逃げられる。

 「グルルルル……」

 「……ナツメ、帰るで」

 信号機を見上げ、小声で声をかけてから回れ右。来た道を足早に戻り、角を曲がった所で走った。

 目も合わなかったのだから追いかけて来る事はないと思っていても、丸腰の今は用心に越した事は……。

 「ちょっと、えぇかな?」

 突然肩を掴まれ、足を止められた。

 聞いた覚えのない男の声に恐る恐る振り返ってみれば、やっぱりさっきの1000年男が立っている。

 俺は走ってたんだぞ?そりゃ全力疾走ではなかったかも知れないけど、それでも信号待ちをしていて、しかも向こう側にいたコイツがどうして追い着けた?いくつも角を曲がったんだ。それなのに何故俺に辿り着いた?

 「急いでるから。離して」

 肩に置かれた手を振り払い、物凄い不振人物を見るような表情で眺めてやると、男は少しだけ視線を泳がせてフッと目を閉じた。

 何してんだろう?

 良く分からないけど、警戒してた方が良いんだよな?

 それとも今のうちに逃げる?

 そうだよ、折角相手が目を閉じてくれてるんだから逃げれば良いんじゃないか!

 1歩、2歩離れ、そして一気に走り出そうとした時、さっきまでは塀の上にいたナツメが俺の隣にワフリと降りてきた。その、瞬間。

 「そこ、獣がおるやろ?ナツメ、やっけ?」

 と、ナツメのいる方に向かって指を差した。

 こいつ、ナツメが見えてる?いや、何故名前を知ってる?

 「……何の事?」

 「足音が聞こえる。それにお前逃げる時“ナツメ帰るで”って言うたやろ?」

 道路向こうにいたお前に、あの小声が聞こえたってのか!?それと、足音が聞こえるって何だ?あり得ないだろ、だってナツメは呪いの力が具現化したモノだぞ。普通の人間にも、能力者にも姿は見えない。捕まえた俺にしか見えない筈なんだ。なのに足音?

 「お前には、何が聞こえてる?」

 「物が動くと風が起きる。その振動が耳に届くってだけ」

 うん、良く分からん。

 用は全部聞こえたって事なんだろう。じゃあコイツの能力は聞く力が凄いって事?じゃあその寿命の異常さは何だ?

 「道具持ちの能力者、やな?」

 その異常な寿命が能力なのか、呪いの道具の効果なのか、話してもらおうか。

 「やっぱお前もか。で、道具はあってもえぇと思う?ない方がえぇと思う?」

 お前もかって事は、道具持ちで能力者なんだろう。で、この質問……丸腰の時に会いたくない人物だったようだ。けど、今更逃げられないだろうし、どうする?適当に話をあわせて仲間だって思わせるか?

 いや、コイツの耳はかなり良い。もし、心に思った事すら聞き取れるのなら……正確には、嘘を付いた時に上がる鼓動が聞き取られてしまったら?

 どの道戦わなければならなくなるのなら、堂々としててやる。

 「道具は必要。なくてはならない」

 今日がこうしてあるのは、道具があるお陰だとすら思える。

 「道具があるせいで呪いが生まれてるのに、なくてはならない?可笑しいやろ」

 可笑しいのはお前の寿命だけで充分だ。

 「呪いを集めて浄化させる。それが出来るのは道具だけや」

 呪いを生むのが道具なら、浄化出来るのも道具。だから集めてマイナスの力が溜まらない様に使う。

 武器の形をしている道具は、使わないでいるのが最も効果的な浄化方法。だから集めて使えないように飾る。

 「道具を壊して、呪いを解き放って、浄化させる方が確実やん」

 解き放ったまま放置させる事が浄化だとでも思ってるのか?彷徨い出た呪いの力が人間にどんな影響を与えるのか、知らない訳じゃないんだよな?

 駄目だ、コイツの考えが理解出来ない。

 「呪いを解き放ったら彼方此方で不幸が起きる。それでえぇんか?」

 元々なんの為に道具を破壊しようと思った?呪いのせいで不幸になる人間を1人でも減らそうと考えたからじゃないのか?だったらやり方を間違ってる。個人が個人に向けてかける呪いが、不特定多数の人間に向かう事になるだけ。そりゃ多くの人間に呪いの力がばら撒かれる訳だから、1人1人にかかる呪いの効果は薄くはなるが……。

 「やから、道具があるから呪いが生まれる。そこを絶たん限りなんも変わらんやろ」

 そこがまず間違ってるんだ。

 「浄化の為に不幸を起すんが最善か?ちゃんと考えろや」

 道具を壊すばかりで後始末もしないお前らに、俺達がしている事の何が分かる?

 「道具を残そうと考えてるお前らが理解出来ん」

 はぁ?

 そんな事を言う癖に、道具持ちと戦う為の道具を持ってるんだよな?そんなにも道具を壊したいのなら、まずは自分の武器から壊せっての!

 「お前らのやってる事は迷惑でしかない。理解出来んのならせめて邪魔すんな」

 と言っても、お前はこの言葉にすら理解を示さないのだろうが……何処まで行っても分かり合えないのだろうか?折角……そんなに多くない能力者が集まって、呪いの道具を何とかしようって思ってんのに。目的は同じ筈なのに、どうして争いが起きるんだろう。

 能力者同士が争って、それでまた新しく呪いの力を生む今の状況が可笑しいって、きっと誰もが思ってる筈なのに。

 だけど、なにをどう考えたって道具を破壊する方法は間違ってるんだ。

 「……この争いはまだ終わらんな。俺らだけでも平行線や」

 あぁ……今、初めてコイツと意見が一致した。だったら、これは?

 「今、俺に戦う意思はないし、そろそろ帰りたいんやけど」

 本当は戦う道具がないんだけど。

 「あ~、今初めて同意出来たわ」

 息を吐くように静かに笑った男は、俺の肩に置いていた手を離すと、その手をひらひらと振って、背中を向けて歩き出した。

 敵に背中を向けるのか?

 呼び止めようとして、止めた。

 そろそろ帰りたいって言ったのは俺だし、呼び止めた所で言えるような言葉なんか持ち合わせてない。ただ、少しだけ思ったんだ。

 「道具の事がなかったら、友達になれたかな」

 って。

 「ぶっ!」

 見送っていた姿がクルッと振り返り、今度は大きく手を振ってくる。

 なんだろうか?と思いながら手を振り返して思い出した。

 アイツ、聴覚が凄いんだった!

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