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戦略家の資質

 決意を新たにした俺は慎重にそのフロアを探索した。レベルもしっかりと上げ、アイテムも一つ残らず回収しておく。その中には眠り除けの首飾りという名のアイテムもあり、早速身に着けた。

 これで催眠への耐性が付いたわけだが、楽観するわけにはいかない。先程のような失態をして、ユキを困らせてはダメだ。


 階段を下り、次のフロアでも同じように慎重な対応を心がける。モンスターが三体以上いる時は通路におびき寄せて戦い、部屋内を移動する時も罠にかかった時に奇襲を受ける危険性がないか確認してからにする。

 だが、丁寧なプレイングというのはそれだけ時間もかかる。そうなると一つ気がかりなことがあり、それはこの手のゲームによく設定されている満腹度というパラメータだ。この試験でもそれは例外ではないらしく、マップと同様に脳内へ表示できるパラメータにしっかりその文字が刻まれている。現在その数値は63パーセントと一見余裕そうに思えるが、まだ地下三階を調べ終わった段階でこれだけ減少していると少し不安になってくる。


 そういった問題も抱えつつ敵を倒していると、討伐後に何かがその場に残った。それは白い器のようなもので、蓋を開けてみると中には卵が入っていた。システムメッセージを確認してみると、ゆで卵と表示されている。効果を表示してみると、満腹度を20パーセント回復すると同時に回避率が一時的に上がるらしい。

 それを手に取り、先程ユキに身を挺して守ってもらったことを思い出す。俺も、自分のことよりまずはユキに確認しないと……。


「ユキ、おなかすいてないか?」

「私は大丈夫です。私たち仲間モンスターはおなかがすかないように設定されていますので」


 その言葉を聞いて、少し悲しくなった。これだけ感情に溢れているのに、やっぱりユキはただのデータでしかないのだろうか。ユキの言動や俺に見せる表情……そこに愛というものはないのだろうか。


「キリノ様?」

「ああ、うん。何でもない」


 悲しいことを想像するのはやめておこう。きっと、ユキだって俺と同じように外部から誰かが操作しているんだ。今見えているユキ自体は単なるデータであっても、プレイヤーには心があるし血が通っている。そう考えておこう。


 さて、このゆで卵は温存しておき、先へと進もう。丁度階段も目の前にあることだし、満腹度の都合もあるからいつまでもここでレベルを上げるわけにはいかない。

 そう思って地下四階へと下りると、辿り着いた小部屋にいきなり敵が待ち構えていた。それは巨大な熊のモンスターで、まともに戦って大丈夫なのかという不安と恐怖が込み上げてくる。


「キリノ様! どうしましょう!?」

「ユキは援護を頼む! アイテムは使っていいから!」

「了解しました!」


 ユキにリュックを渡し、なるべく部屋の遠くへと向かわせる。そうしている間にも熊は戦闘態勢に入っており、結構なスピードでこちらへと近寄ってきた!

 俺も剣と盾を構え、それに応じる。

 そして、その突進を何とか避けつつ剣を思いっきり突き刺した。俺の攻撃はしっかりと熊を捉えたはずなのに、剣はその皮膚に浅く刺さっただけだ。


「キリノ様! アイテムを使わせていただきます!」


 そう叫び、ユキは熊へと薬瓶を投げた。その衝撃により割れて中身の液体が飛び出し、熊へとかかる。すると、急に熊は動きが鈍くなった。先程俺が拾った、鈍足の薬だ。


「ユキ、よくやった!」


 俺は熊の攻撃を軽々とかわしながら、攻撃を繰り返す。

 かなりタフなモンスターだが、しばらくしてようやく倒しきった。ワイルドベアーを倒したというメッセージの直後、俺とユキのレベルが上がったことを確認する。


「キリノ様、お怪我はありませんか?」

「ああ、大丈夫だ。それにしても、怖かったな……」

「はい。ここから先は厳しい戦いになりそうですね」

「そうだな……。迂闊うかつに動いては危険だから、また一階の時と同じくしばらくここを拠点にしよう」


 俺とユキはその小部屋でレベルを上げ続けた。

 先程のワイルドベアーという強いモンスターは、それ程多く生息しているわけではないようで、ほとんどはレッサーイーグルばかりだ。それでも時々ワイルドベアーがこの部屋へと来ることがあり、その都度緊張が走った。

 そうしてしばらく経った頃、ワイルドベアーとも充分に渡り合える程のレベルへと到達していた。そこで初めて俺とユキはその部屋を出る。

 その後、罠などを警戒しつつフロア内を探索し、地下四階も全て見て回った。そして今、俺の目の前には地下五階へと続く階段がある。


「……どうなさいます? キリノ様」

「もう少しここでレベルを上げるべきか、進むべきか……」


 楽観や油断はしないと誓ったが、満腹度のことも考慮に入れなければならない。

 ここは思い切って進むべきだ。


「少し怖いけど、下りよう」

「了解しました」


 地下五階へ下りると、広い部屋へと着いた。敵は遠くに三体いるだけだ。その体が小さいせいもあって、どんな敵かを把握しにくい。

 だが、一つだけはっきり見えたものがあった。


「ユキ! 右へ避けろ!」

「は、はい!」


 戸惑うような反応を見せつつも、理由を聞かずにユキは従ってくれた。

 俺も左へと避けながら、ユキがしっかり避けられたかを確認する。その時、ユキと俺の間をものすごい速さで三本の矢が飛び去った!

 そう、俺は見たんだ。敵が三体とも、弓矢をこちらへ構えているその様子を。


「ユキ! あいつらの狙いと直線上に立たないように気をつけろ! 常に横へ移動するんだ!」

「はい!」


 俺も真っ直ぐではなく、斜めに向かって走り寄る。近距離戦に持ち込むために接近し、なおかつ狙いを定められないようにするため横への移動を駆使する。

 そして、時間はかかったがようやく敵の近くへと辿り着いた。

 敵は小人のようなモンスターだったようで、依然として攻撃態勢を崩そうとしない。

 俺は矢を撃たれる前にそいつらを倒しきった。すると、アーチャーを倒したというメッセージと共に、俺とユキのレベルが上がった。

 部屋にいるモンスターは他にいないようなので、俺はユキのもとへと戻る。


「大丈夫か?」

「はい。キリノ様のおかげです」


 いち早く気付くことができてよかった。

 今後はこうした危険なモンスターも増えてくるのだろう。それぞれに対して、しっかりと対策を練らないといけない。

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