古戦場のダンジョン
休憩を終え、試験会場へと戻った。
ドアをノックし、返事を聞いてから部屋へと入る。そして一礼の後に両手でドアを閉める……っと。今朝来た時も自然とできたことだが、こうした部分でマイナス評価をされては困るからな。
そして席へと戻り、機器を再び目に取り付ける。一瞬の後に俺はゲームの世界へと戻っていた。
「キリノ様、お帰りなさいませ」
「ただいま、ユキ」
戻ってきて最初に出迎えてくれるのがこの優しい笑顔だ。それを見るだけで何だか少し安心する。
「さて、それじゃ向かおうか」
「はい」
装備品以外を預けてから階段を上がる。そして玉座の間に着くと、カミヤの姿が目に入った。
「……うん? お前たちも来たか」
カミヤが俺に気付き、話しかけてきた。隣にいるアズールもこちらへ振り向く。
「悪いが、一足先に向かわせてもらう。じゃあな」
そう告げると、カミヤたちは手前から二番目の魔法陣へと乗って姿を消した。
「俺たちも行こう」
「はい」
ユキを連れ魔法陣へと乗る。眩い光に包まれた後、気が付くと第二のダンジョンへと着いていた。
ここは『古戦場のダンジョン』と名付けられているらしく、以前と同じで石造りのようだ。ただし、前回とは違ってその石の壁や床にはところどころに文字や模様が刻まれている。
そして、コロシアムの時との違いもある。それはユキの位置だ。『始まりのダンジョン』の時と同じく俺のすぐ隣にユキは転送されている。通常のダンジョンはそういうルールなのだろう。
探索を開始するにあたり、まずはマップを確認する。俺たちがいる部屋は南東に位置し、少し狭い。アイテムも敵もまだ視界には存在しないようだ。
「ユキ、ここからはおそらくゲーム本番だ。慎重に戦おうと思う」
「はい、わかりました。ですが、どうしたらよろしいのでしょう?」
「この部屋を基点として戦おう。あまりいろんな場所へ移動すると、敵に囲まれてしまうかもしれない」
「なるほど、いい作戦ですね。さすがです、キリノ様」
俺にとっては当たり前の戦術なんだけど、こうして女の子からほめられると少し照れる。調子に乗らないように気をつけよう。
「キリノ様! あちらからモンスターが!」
ユキの声にハッとし、前方を見る。通路から甲冑型のモンスターがゆっくり近づいてきている。その手には剣も持っており、今までのモンスターより強そうなその見た目に少しだけ緊張してきた。
「ユキはいつも通り、俺の後ろに隠れていてくれ」
「はい!」
なるべく静かに、穏やかに指示することによって気持ちを落ち着かせる。そうしている間にも、甲冑のモンスターは一歩、また一歩と進んできている。
俺もそれに応じ身構える。そして、目の前まできたそいつへと剣を突き出すと、甲冑は見た目程硬くないようで少しひびが入った。
しかし、敵は怯まずに反撃してきた! その剣を盾で受け止めたが、衝撃で腕に痛みが走る。
「キリノ様!」
「心配いらない」
そう言いつつ、再び敵へと攻撃を放つ。その胴体を貫いてやると、敵は膝から崩れ落ちた。それと同時にレッサーアーマーを倒したというメッセージが頭に流れ込んだ。
「あ、あの……腕……」
「大丈夫。少し衝撃を受けただけで、骨折したわけじゃないから」
そもそも、実際にけがを負ったわけじゃないから、骨折なんてするはずがない。痛みを感じるようにシステムが組まれているだけで、そういった危険は伴わないはずだ。
でも、確かにダメージを受けたわけだし、やっぱりこの部屋で戦おうという作戦は正解のようだ。現段階であの敵に囲まれては危ない。
「キリノ様のお怪我を、私が治せたら……」
ユキが背後でそう呟いた。
その途端、俺を白い光が包んだ。振り返ると、ユキの手も白く輝いている。
「……これは?」
「わ、私……魔法を!?」
腕の痛みが和らいでいく。それと同時に、ユキがヒールを使用したとのメッセージが脳内に流れ込んだ。
「ユキ、ありがとう」
「い、いえ。そんな……」
「魔法、使えたじゃないか」
「はい……。今覚えたようです」
「やっぱりユキは落ちこぼれなんかじゃない。やればできる子だ」
そう言って頭をそっと撫でた。ユキは頬を赤く染めながらもうれしそうな笑顔を見せている。
「キリノ様、回復は私にお任せください」
「ああ、頼んだ」
俺は接近戦、ユキは援護と役割を分担しながらその部屋で戦った。侵入してくる敵の大半はスライムとケイブバットだったので、それ程苦戦はしていない。
そうして戦い続けてどれくらい経っただろうか。何体も敵を倒し、俺とユキのレベルは二つ程上がっていた。
「さて、そろそろ戦えるようになってきたし、この階を探索しよう」
「了解です」
ユキを連れて西に続く通路を進むと、その先は南北に広がる巨大な部屋だった。敵も同じ部屋に数体いるようで、俺が部屋に入ったことにより向こうもこちらに気付いたらしい。
四方につながる通路から新たに敵が侵入してくるかもしれないので、戦いに自信がなければここで待ち構える方が得策だろう。しかし、今はもう充分レベルが上がったし、少しでも先を急ぎたい。
「待ってるだけじゃなく、こちらからも倒しに向かおう。ユキは敵が来ないか見ていてくれ」
「はい」
後方は今俺たちが来た南東の通路以外には南西から続くのが一本だけだが、一応不意打ちへの対策は怠らないようにしないといけない。
と言っても、挟み撃ちになってはユキにとって負担になる。だからこそ手早く敵を倒すことを意識し、近い敵から順に次々と俺は撃退してゆく。
しばらくしてその部屋の敵を殲滅し、アイテムの回収作業へと移る。そのほとんどが回復薬や爆薬だったが、一つだけ気になるものがあった。それはスリープという魔法書で、使用すると部屋のモンスターを全て眠らせることができるようだ。一冊につき一度しか使えず、なおかつ確実に効くわけではないようだが、これは強力な切り札となるだろう。
その後も順調に各部屋を探索していると、木製の弓矢なども落ちていた。
それらを温存しつつ、少しずつ最下層を目指す準備が整い出すのを感じる。
そうしてこのフロアを全て見回り、階段を下りて次の階層へと移動した。