束の間の休憩
階段を上ると、バザーの奥の方が賑わっているのが見えた。
そういえば初ダンジョンで手に入ったアイテムも、まだ整理してなかったな……。
「ユキ、ちょっとバザーを見てからにしよう」
「はい。……あ、キリノ様」
「うん?」
ユキの視線を追って後ろを振り向くと、見たくない顔がそこにはあった。
「よう、また会ったな」
カミヤとアズールが不敵な笑みを浮かべる。
「お前たちもルーキークラスをクリアしたんだってな。ま、おめでとう」
嫌味な態度でカミヤはそう言った。その表情からは、あんなものクリアできて当然だという皮肉がはっきりと伝わってくる。
「そりゃあどうも。で、何でまだここにいるんだ? さっさと次のダンジョンに行けばいいものを。それとも自分たちがどれ程余裕なのか見せ付けたいのか?」
そう言ってやると、カミヤは笑い出した。
「何がおかしいんだ?」
「先を急ぎたいのはやまやまなんだけどね。そろそろお昼休憩だからダンジョンに入れないんだよ。そう説明されていただろう? もう忘れたのか?」
「……悪かったな。俺は遅刻したせいで、その説明は受けていない」
「なるほど、そういうことか。俺は最初の面接の結果から、一番最初に仲間モンスターを選ぶことができた。だからこそ一番強いこいつを選んだわけだが……」
カミヤが視線を移した先で、アズールがケケケと不気味な笑い声を上げている。
「お前は選ぶ権利すらもなく、そんな弱そうなのしかパートナーにできなかったわけか」
「黙れ! 俺のことはいくら悪く言ってもいい! だけど、ユキのことを侮辱することは絶対に許さないからな!」
その猛烈な嫌悪感に、気付いたら俺はそいつらを怒鳴りつけていた。
「キリノ様……」
「へー、よかったじゃん。マスターがお前のこと愛してるってさ」
「なっ!? お、お前!」
「まあ、記念受験に来たんだろうし、存分に楽しみたまえ」
嫌味を言い残すなりカミヤは去っていった。
「あの……キリノ様」
「え? あ、ユキ。さっきのは、その……」
「ありがとうございます」
ユキは満面の笑みを俺に向けてきた。先程はつい頭に血が上ってしまったが、落ち着いた今、とても恥ずかしい。
「キリノ様?」
「な、何でもない!」
俺は下を向きながらバザー奥へ向かった。何も余計なことを考えないようにと意識するが、そう思えば思う程に思い返してしまう。
そして、恥ずかしさを抑えるように必死に足を動かしている内に、大勢の受験者の列へと着いた。
「おう、お疲れさん。さっきの試合見させてもらったぜ」
俺に気付いて話しかけてきたのは、先程コロシアムについて教えてくれた人だ。
「今度はみんな何をしてるんです?」
「預かり所がオープンしたからどんなものかと思ってな。もっとも、本当に用があって来た人はあまりいないと思うけどな」
「預かり所か……」
リュックにいくらでも入れられるのなら、俺は利用しなくてもいいんだけれど……。
そういえば、さっき武器防具を入れた時にも何か脳内に情報が流れたような気がする。もう一度試してみるとしよう。
……ええと、流れてきたシステムメッセージによると、どうやら全部で三十個までアイテムを入れることが可能なようだ。大きさなどは関係なく個数でカウントされるらしく、なおかつ思い通りのアイテムを取り出せるみたいだ。
ダンジョンではアイテムがたくさん手に入るだろうから、持ちきれなくならないように今持っている分は預けておいた方がよさそうだな。
「……っと、後数分で強制ログアウトになるぜ。俺は先に落ちて飯食ってくるわ」
「あ、はい。いろいろとありがとう」
「いいってことよ。それじゃ、失礼」
そう言い残し、その男は忽然と姿を消していた。
不意の出来事で少々面食らったが、何のことはない。ログアウト処理を行ったのだろう。
さて、俺も一旦お昼だな。
「ユキ、俺は一回ログアウトするけど、一人で大丈夫か?」
「私たちも一緒にログアウト状態になりますので、心配いりません」
「そうか。じゃあ、ちょっと行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいませ」
俺は脳内でシステムメッセージへと呼びかけてみると、すぐさまそれは表示された。
そうして、ユキの笑顔に見送られながら俺はログアウトした。
途端に視界が切り替わり、試験会場へと戻される。いや、正確に言えば映像を見せられているだけで俺自体はずっとここにいたのだろうけど……。
まあ、そんなことは置いといて、試験官へと会釈してから昼食を買うために部屋を出た。
エレベーターで一階へと下りた後、すぐ外のコンビニに向かう。そして適当におにぎりとお茶を選び、素早く食べ終えた。
午後は何とかカミヤとの差を埋めなければな……。
よし、戻ろう。後半戦の開始だ!




