この世界の夜
それからしばらく町で休んでいた、あいつらの視線が突き刺さる中で……。まあ、あまり休まらないな。
まったく、どれもこれも自業自得だろうに。周りの人間を出し抜いてやろうなんて考えてばかりいるから、ついつい先走って見落としが発生する。
その結果、こうして俺たちが取りこぼしを得ることができた。それだけの話だ。
そんなことを考えながら、少し経った頃。
「はーい皆さん、そろそろ夜になりまーす」
フェアリーの声でアナウンスが流れた。
姿は見えなく、どこから声が届いているのかもわからない。
まあ、これもそういうシステムなのだと思えばいいか。あれもこれも、全部システムだと思っておけばいい。考えるのも面倒だし、わかるわけがないから。
「現実世界で朝を迎える時、ドリーミングオンラインでは夜を迎えます」
ほう、つまりここでは時間帯が真逆なのか。
現実世界で朝ならこっちでは夜、向こうで夜ならこっちが朝ということだな。
町の中央にある時計を見ると、間もなく午前6時を告げようとしている。
「ちなみに最初の三日間はチュートリアル期間です」
チュートリアル期間……か。何がどう違うのか、具体的なところはさっぱりわからないが、まあ、何かしらの安心設計なのだろう。
それを知る術は、おそらくないんだろうな。
「ログアウトは飽くまで個人の自由です。ただし現実世界での生活に支障を来さないようにご注意ください」
そう聞くと、現実世界でもゲーム浸りの人がいるように、このゲームのプレイヤーの中にはずっと寝たままになる人もいるのだろうか?
何とも不思議なゲーマーの誕生だな。
さて、俺はそういうわけにはいかないし、今日はここまでだな。もっとも、明日もこの夢を見るかどうかはわからないけれど……。
「そろそろ俺は起きなければならない」
「私もです」
「じゃあまた明日ここで会おうね」
明日も……か。
これがただの夢じゃなければ、な。
「ログアウトされる皆さん、夢から醒めるイメージを持ってください」
……うん。それってどんなだ?
まあ、起きればいいんだな、きっと。
――。
……夢か。
柔らかな日差しと小鳥の歌声が新しい一日を賛美する。
楽しい夢を見た。そしてその内容ははっきりと覚えている。
俺は軽やかに一階へと降りた。
「あら、おはよう」
「おはよう」
「今日は早いのね、朝ご飯できてるわよ」
「いただきます」
昨日全く同じものを食べたはずなのに、どこか新鮮さを感じる。
ジャムの甘味が俺の口を潤す。
「おはよう~って、あれ!? お兄ちゃん今日早いね」
「ああ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
学校への道のりが朝日によって輝いている。
「……あ、おはよう」
「おはよう」
「今日は早いね」
「そっちもな」
ミナちゃんを見た瞬間、夢で会ったルナちゃんを思い出した。髪の長さは大体同じ、だがその色と……後、性格が違う。
やっぱり別人……。いや、それ以前にそもそもあれは夢だ。
「あ、着いたね」
「今日も新たな世界の幕開けか……」
「あれー? いつになくポジティブだけどどうかしたの?」
「何でもない」
そう、何でもないのだ……。ちょっと楽しい夢を見た……それだけのこと。
学校に着いた俺は特に何かするでもなく、ただいつもと同じように過ごした。けど、そんなありきたりな時間でさえも、今は輝いて見える。
そして帰り道。
「あの日の約束……」
「うん?」
「あの頃の私たちに、会えた気がする……」
奇遇だな。俺と同じ夢でも見たのだろうか?
俺が昨日見た夢、そこで繰り広げられた広大な冒険。そして、そこで出会ったどこか懐かしい仲間……。
確かに、あれはあの頃の俺たちそのものなのかもしれない。あまりにも昔のことを考え過ぎて、あんな夢を見てしまったのだろうか。
そんなことを考えながらふと空を見ると、温かみのある美しいオレンジに染められていた。
「じゃあ、また明日」
「ああ、また明日」
家に着いた俺は、課題を済ませ、楽しげな夕食を終え、風呂に浸かりながら考える。昨日の夢は何だったんだ……?
……考えてもわからないか。
風呂を上がって布団に入る。いつになく充実した気がする一日だった。
そうして、今日も一日が終わる。
今夜はどんな夢を見られるのだろうか。
意識が遠のいてゆく……。
――。
「はーい、ドリーミングオンラインへようこそ!」
「……」
「どうなさいました? 絶句してますけど」
昨日と同じ、辺り一面をピンクの靄が包み、目の前にはフェアリーがいる。
「夢じゃなかったのかよ……」
「夢ですよ? 幻想ではないですけどね」
「ああ、わかったからこれ以上混乱させないでくれ……」




