最初の冒険
「はーい皆さん、注目」
「……ん?」
フェアリーの声が辺りに響いた。
他のプレイヤーも彼女に注意を向けている。
「戦闘にもなれてきたでしょうから、皆さんにはまずあの町を目指していただきます」
フェアリーが指差す方を見に移動した。
彼方へ町が霞んで見える。
「遠いね……」
「というか」
「高いな……ここが」
今気づいたことだが、ここは言ってみれば超巨大な山の頂上みたいな場所のようだ。
最初に目指すべき町は、遥か眼下にポツンと存在している……。
「山道の途中にはところどころ洞窟があります。町へ向かうために通らなければならないものもありますし、中には冒険に役立つアイテムが隠された道もあります」
「なっ!?」
「……ほう」
他のプレイヤー達が反応を見せ、お互いを睨みだした。
「早い者勝ちですので、皆さん頑張ってください」
「っしゃあああ! 俺様が一つ残らず見つけてやらあ!」
粗暴な発言をする男。なるべく関わらないようにすべく、長身でヘラヘラと笑うその男を目に焼きつけておいた。
「なお、プレイヤー同士の戦闘は禁止されてます」
「なあんだ、つまんないの」
背の低めのフードを被ったプレイヤーが言った。禁止されてなければ何をするつもりだったのか。
あいつも要注意だ。
「俺様が一番乗りだあ!」
「あ、待てっ!」
要注意人物の二人は騒がしく駆けていった。あいつらは好きにさせとくか。
「私たちも行きましょうか」
「がんばろうね!」
成り行きでパーティを組む流れとなっているが、クロウの仲間ということもあるし悪い気はしない。
「それじゃ、行くか……」
駆け込むプレイヤーたちに先を譲り、俺たちはゆっくりと山道へと入った。
洞窟内部と外とを行き来しながら、一歩ずつ着実に。
宝は荒らされ放題だが、モンスターも倒しまくっているらしく俺たちのもとにはほとんど出現しない。進みやすくて好都合か。
とは言っても、さすがにモンスター全てを狩り尽くすことはできないようで、何度か戦闘は行った。
先程とは違い、クロウは俺の意識へ介入せず大人しくしている。
そうして奥へと進むと、洞窟内に他のプレイヤーの声が反響していた。
「あっ、取られた!!」
「ぎゃはは!! 惜しかったなあ。この青銅のナイフはマモン様が頂いたあ!」
あの声はさっきの関わらないでおきたいランキング一位の奴か。
そして……。
「ちぇっ、ゴールドか」
「あっ!」
隠されていた宝箱を、先程のフードのプレイヤーが見つけ出した。
おばけちゃんは悔しそうにそれを見つめている。
「へへ~ん、遅かったね」
そう言って見せびらかし、そのまま走り去った。フードの奴は取りこぼしを狙ってるらしい。
「もうほとんど取られた後みたいですね……」
「がっかり……」
二人はさぞかし残念に思ってるのだろう、俯いて暗い顔をしている。
その時、上空に何らかの気配がした。
「伏せろっ!」
「はうっ!?」
俺の支持が間に合い、間一髪逃れたおばけちゃんの頭上を音も無く何かが飛び去った。
今のは一体何だ?
「また逃げたか……」
屈強な男が上空を見上げて呟いている。
先程の何かを探しているのか?
「あなたは誰!? 逃げたって何が!?」
おばけちゃんがその男を問いただす。
確かに気になる。
「……あんたは先を急がずに何してる?」
「俺はあのモンスターを追っている」
「それはなぜですか?」
「さあてな、それじゃ失礼」
男はゆっくりと歩き出した。
「……どうします?」
「どうせ遅れてるんだ、追ってみよう」
俺たちは謎の人物を追って洞窟の奥へと進んだ。
「町からはどんどん遠ざかってる気がする」
「だが……ほらみろ」
「あ!」
俺が宝箱を指さすと、おばけちゃんの顔がパッと明るくなった。
「正規ルートから外れてるせいで他の人が見逃してしまったのですかね」
「だろうな」
宝箱を開けると、そこには魔法書が入っていた。
「なっ!? 何これ!?」
「随分と貴重なものが入ってましたね」
「……『ヒーリング』の魔法らしい」
手に取ればわかるようにシステム化されているようだ。
「私はすでに使えますので」
「私も魔法はまだ遠慮しておくの」
「そうか……なら」
魔法書を紐解くと、瞬く間に消えてしまった。
「ほう……そういうシステムか」
自動で習得できるようになってるみたいだ。
何から何まで、好都合にでき過ぎてるな。これも夢だから、なのか?
と、その時。
「あっ! あれ見て!」
おばけちゃんの声が響いた。その指さす方を見ると、先ほどの男がモンスターと戦っている。
「大変! 助けなきゃ!」
走り寄るおばけちゃん。
だが……。
「手出しは無用!」
「なっ……」
加勢を断られてしまう。
どうやら俺たちは邪魔らしい。
「どうしよう……」
「多分、大丈夫なのだろう」
俺たちが見守る中、甲高い鳴き声と共に魔物が襲いかかる。
だが……。
「……見切った!」
その瞬間、男の鋭い一閃が魔物を捉えた。
刃物の鈍い音が響き、モンスターはその場へと倒れる。
そして……。
「……あれ見て!」
男がモンスターを手に取ると、みるみるうちにその姿は短剣へと変わった。
「皆さんにご連絡いたします。ただいま、ジャスティス様がこの洞窟の宝『ブラッディダガー』を手に入れました」
フェアリーの声だ。姿は見えず、声は洞窟に反響していない。いや、声というよりは脳内に直接届くような感触だ。
どうやら、アナウンスはどこにいても届くらしい。
そして、その直後……。
「なにいっ!?」
「何だとお!?」
「あ~あ、参ったねこりゃ」
「こうなりゃ町に一番乗りして買い占めだあ!」
「そうはさせないよ」
地面に開いてる穴から声が響く。多分話し方と内容からして奴らだろう。その声がやむと男はこちらに近づいてきた。
「ふん、悔しいか?」
「……別に」
「そうか、じゃあな」
男は不敵に笑い、歩み去った。
「……あいつ」
「どうかしましたか?」
「ああ、不自然すぎると思ってな……」
「どういうこと?」
「あいつ……まるで最初からわかってたみたいだった……」
「そういえば……あれ? 何であのモンスターのことを知ってたんだろう?」
「ジャスティス、覚えておいた方がよさそうですね」
「ああ、それと……」
俺は向こうにある宝箱を指さした。
「遠回りも悪くないということもな」
洞窟を抜ける間そこら中に取りこぼしがあった。それをひとつひとつ集めながら、気づいたら洞窟の外にいた。
すぐそこに目的の町が見える。




