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仲間

 しばらくして、光は徐々に収まっていった。

 そして、辺りの様子をうかがうと……。


「ここが……そうなのか……」


 美しく緑溢れる大地に色とりどりの花が咲き乱れ、空はあおく澄み渡り大きな虹がかかっている。

 目に飛び込んできた世界は広大で、胸が高鳴らずにはいられない。


「おや、こんにちは」

「……?」


 不意に声をかけられ振り返ると、肩までの白銀の髪をした女性がいた。その目は青く、表情はとても穏やかだ。

 その声は透き通っていて、神秘的にさえ感じる。

 夢で見た……ルナという女性に似てる?


「私、ルナと言います。初めまして」

「ああ、初めまして……」


 これは何かの偶然か?

 それとも、夢に干渉することのできるゲーム運営側の仕業か? つまり、目の前にいる女性へ俺が見たのと同種の夢を見せたのだろうかという憶測。

 あるいは、それ自体がプロローグ代わりだったのかもしれない。


「先程この世界へ参りましたのでよくわかりませんが、これは一体如何(いかが)すべきでしょう?」

「俺、いや……」


 言いかけて咄嗟に気づいた。

 せっかくだから、試しにクロウの口調を真似てみよう。

 もしかしたら、何かしらの反応があるかもしれない。


「我にもわからぬ」


 この話し方で、あるいは向こうも気づいたか。

 そう思ったが、彼女はその表情を一切変えない。というよりも、ずっと無表情だ。

 一切の感情が伝わってこない……。

 作戦は失敗に終わったことだし、大人しく普段通りの話し方に戻そう。


「あ……他にも人が来始めましたね」


 そう言って向けた彼女の視線を追うと、光の塊があちこちに現れ、中から人が出てきた。

 そして、その集団の中には先程のフェアリーもいる。


「皆さん、ノートを取り出してみてください」


 ノートなど一体どこに持っているのか。

 しかし、直後にその疑問は解決した。

 周りの人たちが手を自らの前へと差し出し、そこにどこからともなくノートが現れたのを見たからだ。


「これか……」


 手を前へと差し伸べ、ノートを思い浮かべて念じる。すると、それは淡い光を纏い手のひらにふわりと降りてきた。

 ノート……というよりもサイズ的に手帳だ。


「仲良くなった人に名前を記入してもらいましょう。お互いに名前を登録すれば、夢を共有することができます。遠くにいてもチャットが可能になりますので、どうぞご利用ください」


 目の前にいるルナと名乗った女性とノートを交換し、クロウと記入した。


「……書きました」

「俺も書いた、これで遠くにいてもチャットができる……か」


 ノートを交換し直し、その文字を見つめる。別段、変わったところはない。


「皆さん、ごゆっくりお楽しみください。ただし一つだけ注意点が……。この世界にはモンスターが住んでおり、負けてしまうと夢から覚めてしまいます。その場合、翌日までログインできません」


 このゲームにおける敗北時のペナルティということか。


「皆さんに与えたクラスを駆使して頑張ってください。それではどうぞごゆっくり」


 クラス、か……。


「ルナちゃんはクラスは何に?」

「私はプリースト、種族は人間です」

「俺はウィザード、種族は人間だ」

「何かあったときはよろしくお願いしますね」

「ああ、お互い様だけどな」


 と、その時。突如けたたましい叫び声があがった。


「ひゃあ! 助けてー!」


 見ると何者かが半透明のドロリとしたモンスターに襲われている。

 襲われているプレイヤーは勾玉のような形で全身が白い。夢で見たクロウの仲間だ!


「助けましょう」

「ああ、もちろんだ!」


 そう言ったのと同時に、体が勝手に動いた。いや、体感的な話などではなく、本当に勝手に動いている。自分の意志とは別に……。

 足が勝手に動き、襲われている幽霊へと一直線に駆け寄っている。

 と、その時。


「我の友を……許さぬ!」


 脳内に声が鳴り響いた。クロウの声……?


「貴様の意識の一部を借りよう。さあ、戦え!」


 言われるまでもなく、そのつもりだ。あの幽霊を助け出すため、戦おう!

 そのために必要な知識……使える魔法とその使用法もなぜか脳内にある。そういうシステムなのかもしれない。

 唯一の使用可能な魔法は『ダークネス』という闇属性の魔法。

 魔法を使用するには……イメージし念じるだけ。夢の中のゲームに相応ふさわしい。


「安心しろ……俺が救い出す!」


 そう言いつつ手をかざすと……。


「よくぞ申した!」


 クロウの声が響き、恐ろしい程に鮮明なイメージが沸き上がった。闇に包まれる敵が、まるで実際の映像かのように視界に広がる。

 もしかして、クロウのアシスト?


「さあ、我が力を存分に使うがよい!」


 どうやらそのようだ。

 クロウの貸してくれたイメージを頼りに強く念じると、闇の魔力が敵を包んだ。

 上手く発動できたらしく、敵もその一撃で動かなくなり徐々に薄れて消えてゆく。


「……倒した」

「大丈夫ですか? 今回復しますね」


 いつの間にか隣にいたルナちゃんが、幽霊へと手をかざす。

 すると、柔らかな光がその手を纏い、幽霊へと移って傷を癒した。


「はうん、ありがと……」

「アナウンス致します。先ほどモンスターが現れたようです。ちなみにこの場所へは最弱のモンスター『スライム』しか出ませんので、皆さん落ち着いて対処してくださいね」

「はうっ」


 幽霊は絶句している。

 冷静になった今よく考えてみると、そもそも夢から覚めるくらいで大げさな逃げっぷりだった。泣き叫びながら、まるで命でも危ないかのように……。


「あなた、お名前は?」


 ルナが幽霊と同じ高さまでかがみ、問いかけた。


「私はファントム、クラスはシーフで種族は幽霊。おばけちゃんって呼んでほしいの」

「種族は……幽霊?」


 配られた種族カードにはそんなものなかった気がする。


「どうしました? 種族カードにありましたよね?」

「そう……だったか?」


 ルナちゃんがそう言うのなら、よく確認しなかったせいで見落としただけか。


「お姉さんたちのお名前は?」

「私はルナ、プリーストの人間です」

「俺はクロウ、ウィザードで人間だ」

「ルナちゃんとクロウさん。よろしくね」


 そう言って微笑むおばけちゃん。

 だが、そんな俺たちを見て周りがひそひそと何やら話している。

 微かに聞こえてきた内容は、あのプレイヤーまるでモンスターみたい、というものだった。


「ううう……」


 おばけちゃんは悲しげな表情を浮かべ、俯く。


「可愛らしくていいと思いますよ」

「ああ。あんなの気にするな」


 そうなぐさめた途端、おばけちゃんは弾けそうな笑顔に戻り、そして……。


「わあいわあい」


 目の前で飛び跳ねながら喜んだ。


「そうだ、良かったら夢を共有したいの」

「ああ、ノートだな……」


 ノートを取り出し、それぞれに名前を書き込む。

 これで、どこにいてもチャットが可能だ。


「私たちってもしかして出だしから順調なのではないです?」


 書きながらルナちゃんが言う。二人も仲間ができたので、リードしていると思っているのだろう。


「周りをよく見ることだな……」

「あらら、皆さんモンスター退治にいそしんでますね」

「というわけで、俺たちは遅れている」

「はうん……」


 おばけちゃんがわかりやすく落胆した。

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