コロシアム挑戦!
光が収まると、そこには石造りの小部屋が広がっていた。さっき冒険した場所に似ている。
脳内に流れ込んだ情報によると、ここは『ルーキークラス闘技場』と名付けられているらしい。
システムメッセージを確認すると、俺とユキのレベルが3に設定されている。
振り返ると誰もおらず、一緒に入ったはずのユキの姿はどこにもなかった。
ユキを一人にしたままでは危ない。早く合流しないと……!
「キリノ様」
「ユキ!?」
そこにユキの姿はないが、声だけがはっきりと聞こえる。これもシステムなのか、それともユキの能力なのかはわからない。けれど、これで場所を確認することができる。
「ユキ、今どこにいる?」
「ええと……わかりません」
「いいか、最初にここへ着いた時とは真逆の方を向くんだ。そっちが北だ」
「ええ!? わ、わかりました」
さっきの『始まりのダンジョン』に着いた時も、この『ルーキークラス闘技場』に着いた今も、俺が最初に向いていた方角は南だった。俺がプレイしたことのあるゲームもそうだったし、このゲームでも同じなのだと推測できる。
そして、もう一つ確かめることによって、ユキのいる場所が大体わかるはずだ。
「ユキ、どの方角に通路がある? 全部言ってくれ」
「ええと、東に一つしかありません」
「何!?」
逃げ道が一つしかないということは、今その部屋に攻め込まれたらユキが危ない!
「ユキ! 今すぐその部屋を出ろ! どこか通路がたくさんある部屋へ向かうんだ!」
「は、はい!」
ユキを助けに向かうために、マップを見て頭をフル回転させる。
俺が今いるのは真南の部屋で、西側には通路がない。だからまず南西の部屋にいるという可能性は低くなる。
そして、真西の部屋という可能性が低い理由もちゃんとある。地形的におそらく真西の部屋は南西の部屋と繋がっているはずだからだ。ユキのいる部屋は南側への通路がないため、選択肢から外せる。
以上の情報を整理すれば、自ずと先程の結論に至る。ユキのいる部屋が東にしか通路が存在しないということも含めると、その部屋の位置として可能性が一番高いのは北西だ。
その結論に至った時には、すでに俺は無意識のまま駆け出していた。
「きゃあ!」
急ぐ俺の脳内に、ユキの悲鳴が響いた!
「どうした!? ユキ、大丈夫か!?」
「キリノ様、敵のモンスターがこちらへ……きゃああ!」
「爆薬を使え! それで凌ぎながら南へ向かって走るんだ!」
「はい!」
一刻も早く向かわなければいけないこの非常事態に、不意に殺気を感じた。
「誰だ! うおっと!」
振り向いた瞬間、飛んでくるナイフが視界に入った。咄嗟に避けることができたが、これでは迂闊に背を向けることができない。
……勝負するしかないな。
「悪いけど急いでいるんだ。本気を出させてもらうぞ!」
敵の兵士と同じようにナイフを投げてもあの鎧を貫くことはできないだろう。
だったら、近づいて張り倒す以外に方法はない!
「行くぞ!」
飛んでくるナイフを避けながら、兵士への間合いを詰める。そしてその勢いのまま突進し、押し倒すのに成功した。こちらも反動で倒れてしまったが、鎧を纏っていない分身軽な俺がいち早く体勢を立て直すことができた。
起き上がられると厄介だから、そのまま攻撃を加える。だが、いくら蹴ってもほとんど意味はなく、むしろこっちの足が痛くなる程だ。なんとか起き上がることは阻止できているが、時間の問題だ。
そうしてしばらく動きのない状態が続いたが、突如近くの部屋から爆発音が聞こえた!
「ユキ! 大丈夫か!?」
「はい、何とか無事です! ですが、鷲のモンスターが……」
「そいつは無視でいい。今すぐ南の部屋に来てくれ!」
「はい!」
その返事の後、北側の通路から足音が聞こえてくる。そして、数秒後にユキがこの部屋へと辿り着いた。
「キリノ様!」
「ユキ、よくやった!」
これであの兵士を倒すことができる。そのために、まずはこいつから離れる必要があるのでユキのいる場所へと走り寄る。
全力でダッシュし充分に間合いを取ったその時、兵士はちょうど立ち上がろうとしていた。
「ユキ! あいつに爆薬を投げてくれ!」
「え? は、はい!」
突然の指令にとまどっていたユキだが、その狙いは外さなかった。液体の入った瓶は兵士に当たった瞬間に割れ、その直後爆発を起こした!
それによって再び地面へと突っ伏した兵士は、それ以降動かなくなった。
それと同時に、俺の脳内にコロシアムクリアとの情報が流れる。どうやらモンスターまで倒さなくてもこれでクリアとなるらしい。
しばらくして光に包まれた俺は、気付いたら元いた受け付けへと戻っていた。
「ルーキークラスクリア、おめでとうございます」
「キリノ様、さすがです!」
受け付けの女性が、定型句を俺に投げかける。表情も全く変わらないし、そういう決まりだから言ったというそれだけなのだろう。
一方、ユキは心から祝ってくれているようで、満面の笑みを浮かべている。
「こちらでお預かりしておりましたアイテムをご返却いたします。コロシアムでご使用いただいた爆薬も補填しました。なお、こちらは賞品のアイアンソードです」
「ありがとうございます」
手渡された剣は、そこそこの長さがあって切れ味もまあまあ良さそうだ。
コロシアムをクリアすると、こういった特典ももらえるわけか。
「それでは、またの挑戦をお待ちしております」
さて、これで次のダンジョンへと向かうことができるわけだな。
カミヤたちはもう向かっただろうし、俺たちも後を追わないと……!
「ユキ、俺は引き続き次のダンジョンへ向かおうと思うんだが、どうする?」
「私はキリノ様のご命令に従います」
「いや、疲れてるなら休ませようと思ったんだけど、大丈夫なら行こうか」
「はい!」
ユキの返事に元気付けられながら、俺はその場を後にした。