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リスタート

 俺はその頭へと手を伸ばし、優しく撫でた。

 だが、ユキはいつものように頬を赤く染めることはなかった。


「マスター様、優勝おめでとうございます」

「……ユキ?」

「はい、マスター様。どうぞご命令を」


 凍り付く程の冷たい声が俺の頭の中でこだまする。俺を見つめるその目はどこまでも無機質で、微笑んではいるものの、その表情に温かなものは何一つ感じ取ることができない。


「こんなの……ユキじゃない。ユキはもっと自然に笑ってくれて、俺が頭を撫でたりほめたりすると頬を赤くして恥ずかしがるんだ。何よりも俺のことを優先して考えてくれて、それで……」

「マスター様。こうですか?」


 そいつは形だけの笑顔を作り、俺へと見せた。不気味な程に感情が欠落しているのが見ただけでわかる。


「違う! そんなもの、ただ俺に言われてそうしただけじゃないか! こんな血の通っていない反応、ユキなら絶対にしない! お前はユキじゃない!」


 自分でも酷いと思う程の罵声を浴びせても、ユキは顔色一つ変えなかった。


「お願いです! ユキを元に戻してください!」


 俺はそばにいた案内役の女兵士へと懇願した。


「それは無理です」

「なぜですか!?」

「データが破損していて元に戻せません。先程、原因不明の暴走を起こし、このような事態になってしまったのです」


 原因不明……?


「やっぱり、ユキは他の単なるデータとは違う何かだったんですか?」

「はい。優勝されたキリノ様へはお教えします。彼女はパートナーモンスターとしてこちらで用意させていただいたデータだったのですが、不可思議なバグを引き起こしまして……。あるはずのない感情がメーターに表示されたのです」


 思った通りだ。ユキは本物の感情を持っていたんだ。俺に注いでくれた愛情は全て本物で、俺を守ることを最優先していたのも心がそこにあったからだ。


「……どうしても戻せないんですか?」

「原因が究明できませんので、あの状態を再現することは非常に難しいかと思われます」

「……ユキ」


 俺は全身の力が抜け落ち、その場へ崩れ落ちた。

 俺の優勝を誰よりも祝ってくれたであろうユキは、喜びを分かち合うその前に消えてしまった。最後にありがとうさえ言えなかった。

 俺はユキと生きてゆく道を探すと約束したのに……。スタート地点に立った瞬間、そのパートナーであるユキがいなくなってしまった。


「っと、ここにいたのか泣き虫君」


 その嫌味な言葉に振り替える気にもならない。


「どうせ泣いているんだろう? 顔を見なくてもわかる」

「……黙れよ」

「いいや、黙らないね。お前は俺に勝ち、そして散っていった受験生たちの頂点に立ったんだ。もっと自覚を持て!」

「お前に何がわかるんだよ!」

「わかったから言ってるんだこっちは!」


 俺はカミヤに胸倉をつかまれ、立たされた。


「お前の言う通り、あのパートナーモンスターはお前には欠かせない存在だった。きっと、こんな弱虫泣き虫の屑と一緒で大変な苦労をさせられたんだろうなあ! だからこそ、今度はお前があいつを助ける番じゃねえのかよ! わかってねえのはどっちだ!」

「ユキを……助ける?」

「ああ、そうだ。このまま消滅させちゃっていいのかよ!? お前がもう一度あいつを呼び戻すんだよ!」

「……どうやって?」

「そんなの知るか! 十年でも二十年でもいい。一生かけたっていい。何としてでもあいつを取り戻そうって覚悟がお前にはねえのかよ! あいつはお前の指示がなくても助けてくれたって言ったよな? お前は俺の指示がなければ動けねえのかよ! お前はどうしたいんだ!」

「……ユキを取り戻したい。俺は約束したんだ。俺はいつもいつも迷惑ばかりかけて、溢れる程の愛を受け取っておきながら何もしてやれなくて……。でも! でも俺は……ユキに約束したんだ! 合格したら、一緒に生きる道を探すって! だから俺はユキを取り戻したい! ユキにもう一度あって、しっかりお礼を言いたい! 今度は俺が、ユキを喜ばせたい! ユキに喜んでほしい!」


 そう叫んだ時、カミヤは胸倉から手を離した。


「それでいい。お前なら出来るかもな……」


 カミヤはそう言って去ってゆこうとした。


「待ってくれ、カミヤ!」

「……何だ?」

「目を覚ましてくれてありがとう。あのさ、助けたついでと思って俺の願いを聞いてくれないか?」

「ついでって……お前なあ。それは頼む側が言う言葉じゃないだろう」

「頼む。今回の試験でお前がどれ程すごい奴かってことがひしひしと伝わった。今だって、お前がいなかったら絶望してどんな行動に出たかわからない。俺はお前みたいな有能な味方がほしい! 俺一人では、この先戦い抜く自信がない……」


 カミヤはそれを聞いて呆れたような溜め息を吐いた。


「本当に情けない奴だぜ。一人じゃ何もできないんだな。でも、正直にそれを話せるだけましか……」


 そう言ってカミヤは俺へと歩み寄った。


「頼む、じゃなくてやれ、だろう? お前は勝者で俺は敗者。俺はしたとしてお前の命令を聞く立場だろう? もっとも、それを認めてくれるかどうかは試験官たち次第だがな」


 そう言ってカミヤは不敵な笑みを見せた。隣でアズールもケケケと笑っていたが、今は不思議と不快感を覚えない。

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