悲愴の一手、プロモーション
「さあて、ここからが本番だぜ!」
カミヤはアズールと共に再び攻撃を仕掛けてきた。俺とユキは何とかそれを凌ぎ続けていたが、どんどん追い込まれてゆく。
このままではジリ貧だ。
「アズール、止まれ」
不意にカミヤがそう命じ、アズールはピタリと動きを止めた。
「何のつもりだ!?」
「最後くらい、俺が直々(じきじき)にトドメを刺してやろうと思ってな……」
そう言ってカミヤは剣を構えながらゆっくりとこちらへ歩み寄った。
このままでは負けてしまう! そう焦っていると、ユキが俺の前へと進み出た。
「ユキ……?」
「キリノ様……今までありがとうございました」
「待て……。何をする気だ!? ユキ!」
「……プロモーション」
ユキが呟いたその言葉は、とても静かだったが力強く感じた。それは微かなささやき声だったのに、耳にしっかりと焼き付いて離れない。
そして、目の前でユキは白いポーンのチェス駒に変わり、その直後粉々に砕け散ってしまった。
「……嘘だろ? なあ、ユキ!」
そうだ、嘘に決まっている。
倒れたモンスターはダンジョンを出れば元に戻るシステムだろう!? ましてやコロシアムは失ったアイテムですら補填してもらえる。
だから、この勝負が終わったらまた会えるはずなのに……。なのに……なぜ涙が止まらないんだ!? まるで、もう会えないと直感が告げているようで、悲しみで心が潰れてしまいそうだ。
「最後の希望も絶たれたか。大人しく降参し……。な、何だあれは!?」
カミヤが焦っている?
何事かと思い振り向くと、そこには倒れたはずのディアナたちがいた。
「……ユキなのか?」
その問いかけに、ディアナたちの返事はない。だが、代わりに柔らかな微笑みを返してくれた。
そして、俺が一切指示を出していないにもかかわらず、俺を守るように前方へ立ち塞がった。
今まで感じてきたのと同じ、大きな愛が伝わってくる。
「ユキ……」
俺の目から涙が零れ落ちた瞬間、ディアナたちは一斉にカミヤへ向かって攻撃を仕掛けた。
「く……!」
カミヤは一瞬怯むもすぐさま弓矢で応戦を開始する。
その横では、アズールがただ突っ立っている。
「おい、アズール! 何をしている!? 早く俺を助けろ!」
「助けろってどうやって?」
「自分で考えろ! 向こうだってそうしてたじゃないか!」
「そりゃないぜカミヤ。俺たち仲間モンスターはマスターの命令が絶対だ。勝手に行動するだなんて、三流のパートナーだぜ? お前だって今までそういうスタンスだったじゃないか」
「く……貴様!」
「ほら、どうやって助ければいいのか教えてくれよ、カミヤ」
「ああもう! 魔法でも剣でも弓矢でも何でもいい! あいつらを全員倒せ!」
カミヤの怒鳴り声を受け、アズールはケケケと不気味な笑い声を上げながらこちらへと猛スピードで接近する。
だが、ディアナがそれに応じアズールを槌で突き飛ばした。
「何やってる!」
「おいおいカミヤ。そりゃないぜ」
「お前がそいつらに負けるわけ……」
そう言いかけて、カミヤはハッとした表情を見せた。
「お前……HPがほとんど残ってないじゃないか!」
「やっと気付いてくれたか。カミヤ」
「何で言わなかったんだ!」
「聞かれてないからに決まってるじゃないか。どうしたんだよカミヤ」
そう言って不敵に笑うアズールへとティアマトが炎を吐いた。あれ程俊敏な動きを見せていたアズールは身動き一つせずその炎に焼かれてゆく。そして、直後にティアマトがアズールを倒したというシステムメッセージが流れた。
「馬鹿な!? アズールが……あんなに強かったアズールがやられた!?」
「カミヤ、お前は大きな勘違いをしていたんだ。命令に忠実に動くことがパートナーの役目じゃない。指示を出していないのに動くのは勝手だからじゃない。ユキはいつだって俺を守ろうと必死になってくれていた。そして、俺のことを第一に考えているからこそ、指示を出さなくても動いてくれるんだ。ユキは最弱なんかじゃない!」
「何っ!?」
「俺はユキのおかげでここまで戦うことができた。今だって、ユキがチャンスを与えてくれた。だから、俺の勝ちだカミヤ! チェックメイト!」
そう俺が言い放った瞬間、ディアナとジャンヌダルクがカミヤへ向かって駆け出した。そして、鋭い斬撃を浴びせるとカミヤは膝から崩れ落ちた。
その瞬間、ディアナたちは優しく白い光を放ち、弾けて消えた。
ファンファーレが鳴り響き、システムメッセージが俺の勝利を告げる。それと同時に眩い光が俺の視界に広がり、気がつけば受け付けへと戻っていた。
見回すと、ディアナたちが俺の背後に佇み、カミヤは隣で受け付けのテーブルへと両手を突いて俯いている。
ユキの姿だけがどこにも見当たらない。
「あの……ユキは?」
「パートナーモンスターの件ですね。データが破損してしまわれましたが、ご安心ください。庭園で復元中です」
「わかりました。すぐ行きます!」
俺は必死に階段を駆け上がった。バザーを駆け抜け、城を駆け抜け、そうして転びながらも楽園へと着いた。
そこで目に飛び込んできたのは見慣れた姿。
「ユキ!」
俺は叫びながら目の前へと駆け寄った。




