カミヤVSケント
決戦当日、俺はしっかりと起きることができた。
少し早めに向かい、試験官以外誰もいない会場で一人気持ちを落ち着ける。
だが、何かがおかしい。いくら待っても誰もこない。
と、その時、ようやくカミヤが入ってきた。
「おはよう、カミヤ」
「おはようさん。お前は最後まで残ったんだな」
「どういう意味だ? 他の受験生がいない理由をお前は知っているのか?」
「大体わかるさ。みんな神話のダンジョンの難易度の高さに絶望し、あきらめたんだ」
その言葉を聞き、俺は胸が苦しくなった。俺も一度敗北を喫し、その一人になりかけたのだ。
ユキのおかげで戻ってこられただけで、俺自身の心の強さじゃない。
俺はこの時点で脱落しててもおかしくはなかったんだ。
「おやあ? 随分早く来ていたんだね。早く優勝したくて待ちきれないのかなカミヤ君?」
その声の方へ向くと、受験生が一人こちらへ歩み寄ってきていた。身長は低く、眼鏡をかけている。
「誰だ?」
「これはこれは、紹介が遅れた。僕はケント」
ケントと名乗ったそいつは、カミヤの百倍ムカつく顔で不敵に笑った。
「キミは確かにすごいプレイヤーだ。だが、僕のこの天才的頭脳の前では足元にも及ばないね」
「ほう、言ってくれるじゃねえか」
「それと、そこのキミ。確かキリノ君だっけ? 初日から遅刻した無様な受験生。そのせいでろくに命令も聞かないパートナーしか残ってなかったわけだ。キミが神話のダンジョンで情けなく散る様子はモニターで見させてもらったよ。あんなダンジョン、少し頭を使えば窮地になんか立たされない。僕はきちんとアイテムを有効活用し、余裕で二体のボスを手に入れたよ」
「……お前、何て言った? 今」
「はあん? 馬鹿だから馬鹿だって言ってるのさ。苦戦したのはお前の腕がヘボヘボだったから……」
「そんなことはどうでもいい。お前の言う通り、俺はきっと馬鹿なんだろう。プレイヤーとしての腕もないし、お前より素質がないというのも、きっとその通りだ。けどな、ユキは聞き分けがないわけでも、残りものなんかでもない。こんな最低の俺に神が遣わしてくれた、最高のパートナーであり天使だ。ユキの悪口だけは絶対に許さない」
「こりゃあ参った! あまりに馬鹿だとそういう結論に至るのか。やっぱり僕にはキミたちの考えなんてわっかんないや」
そう言ってケントは自分の席へと着いた。
「まあ、お前の悔しさは俺が晴らしてやるよ」
そう言ってカミヤも席へと向かう。
それからしばらくして、試験開始の合図が鳴った。
ゲーム内へとログインすると、最悪なことにケントがすぐそばにいた。
奴も巨大な仲間モンスターを連れている。
「おやおや、奇遇だね」
「……どこか行けよ」
「まあまあそう言わず。僕のパートナーを紹介するから見てみなよ。ほら、ノワール挨拶だ」
「どうもにゃ」
ノワールと呼ばれたそいつはネコミミの付いた黒髪の少女だった。
「ノワール。まずはカミヤたちを叩きのめすけど、その後でこいつらも切り刻んでおくれよ」
「了解、ご主人様。カミヤとキリノを八つ裂きにゃ!」
「まあ、その前にゴグマゴグとヒュドラの餌食になるのが落ちだろうけどね」
そう言ってケントはモンスターへと視線を向けた。ゴグマゴグと呼ばれた黒い巨人と、ヒュドラと呼ばれた首が九つもある竜が佇んでいる。
「それとも、ネクベトによって眠ったまま殺されたい? 歴史的に名を馳せる円卓の騎士アーサーに殺されたい? ほら、キリノに顔を見せてやりなよ」
ゴグマゴグとヒュドラの背後から、黒いローブの美女と白馬の騎士が歩み出た。
「さてと、からかうのはこれくらいにして僕はそろそろ闘技場へ向かう。音声は僕からもオンにしてもらえるように頼んでみるから、冥土のみやげにしなよ」
ケントは不敵な笑みを見せ、踵を翻した。
俺は殴りたい衝動を抑え、モニターへと向かう。
しばらくして戦闘は始まり、ケントもカミヤも予想通りの立ち上がりを見せた。両者目薬を使用してからのスタート。
ケントはすぐに動き出したのに対し、カミヤはその場に佇んでいた。
「キリノには聞こえているだろうから言っておく。当然、俺も動くべきだし、それが最善だ。これは何かの策、というわけじゃない。あいつへのせめてもの情けだ」
カミヤはそう述べると不敵な笑みを画面の向こうから投げかけた。
そうこうしている内にもケントは着実に仲間と合流してゆき、カミヤのモンスターを倒していった。
一方、カミヤはアズールと合流できたが、もう他に仲間は残っていない。
そして、両者はついに対面した。
「カミヤ! お前の首はもらった!」
その叫びを合図に、ケントのモンスターたちは一斉にカミヤへと襲いかかる。
だが、その瞬間カミヤは弓矢を構え、放った。恐ろしく滑らかで無駄のない動きにより、全ての動作は一瞬にして行われていた。あまりに追求され尽くしたそのムーブに、美しさすら覚える程だ。
そして、放たれた一本の矢は、弾けながら飛んでゆき、三列に並んでいたゴグマゴグ、ヒュドラ、アーサーを一度に攻撃した。システムメッセージには、クリティカルと表示されている。
「何ぃ!?」
さらにカミヤは弓矢を連射する。瞬く間にケントのモンスターはノワール以外全滅した。
「何だその矢は!?」
「ショットガンアロー。放てば空中で爆発を起こし、散弾銃となってお前らを襲う」
「く……」
完全にかませ犬と化しているケントだが、これはケントが弱いわけじゃない。
実際、ケントの戦略は間違ってなどいなかったし、戦いぶりから仲間モンスターも強いことはわかった。
特にあのノワールというパートナー、動きも早く一撃が強力だ。
だが、カミヤとアズールが強すぎた。
あまりにも彼らが強すぎたから、ケントが弱く見えてしまうだけだ。
「おのれー! ノワール、あいつらを殺せ!」
「八つ裂きにゃ!」
ノワールはアズールへと接近戦を挑む。両者ともなかなかの身軽さで、なかなか攻撃が当たらない。
と、その時、ノワールが爪を振りかざし、アズールへと横一線に切り払った。
さすがにこれは命中したと思ったその瞬間には、もうアズールの姿はそこにはなかった。
「やれ、アズール。トドメだ」
カミヤが指示した直後、アズールは不意にノワールの背後へと現れた。そして、思いっきり殴り飛ばした。
「ギニャアアアア!」
けたたましい悲鳴と共にノワールは吹き飛び、壁に激突した。直後、その姿は瞬く間に消え去り、後に残ったのはノワールが倒れたというシステムメッセージのみ。
「馬鹿な!? ノワールが一撃で!?」
「終わりだケント」
「ひい……! やめろおお!」
ケントの叫びも虚しく、アズールの斬撃とカミヤのショットガンアローが同時に遅いかかり、試合終了となった。




