魂の叫び
ユキが倒されてしまう悲惨な未来が頭に浮かび、俺は体を貫かれる程の苦痛を感じた。
ユキだけは何としてでも守りたかったのに。ユキだけはずっとそばにいてほしかったのに。
もう終わりだ。そう思った。
だが、その時ディアナが瞬時にユキの前へと移動し、その矢を受け止めた。
「な……!? ディアナ!? どうして……」
嗚咽で声が震える中、俺はディアナへと問いかける。
「魂の命令、ユキを守れとの指示、承知した」
そう言ってディアナはジャンヌダルクを迎撃した。だが、ジャンヌダルクも重たい一撃を放ち、ディアナを退ける。
そして、再びジャンヌダルクはユキをターゲットとして駆け出した。
「やめろおお!」
俺は弓矢を放ち、ジャンヌダルクの攻撃を妨害する。だが、ジャンヌダルクはそれを盾で受け止めつつ、剣を大きく振り被った。
今度こそ終わった。そう思った時、ユキのいた位置にイシスが現れた。ジャンヌダルクの斬撃は代わりにイシスへと直撃する。
「……どうして? どうして指示を出していないのに!?」
「わらわが神よ、ご命令は確かに承った。その目がわらわに仰せられたのだ」
そうイシスが述べている間に、ジャンヌダルクは再び剣を振りかざした。
だが、ディアナが即座に起き上がり、それを受け止める。
「戦えと、我が主が仰せだ」
そう言ってディアナは鋭い斬撃をジャンヌダルクへと放つ。システムメッセージにはクリティカルと表示されている。
「わらわが神が仰せだ。わらわが役目を遂行せよと」
イシスは目を閉じ、呟き始める。
「う……!」
途端にジャンヌダルクは頭を抱え、唸り声を上げた。どうやら完全に眠り魔法が効かないわけではないらしい。大ダメージを受けて弱った今、その効果がしっかりと現れたのだろう。
「ディアナ、イシス。ありがとう」
単なるデータだと思っていた彼女たちも、俺のために戦おうと必死になってくれている。俺の声が間に合わなくても、その目を見て判断してくれた。
俺はそれに応えるためにも、この勝負は絶対に勝たなくてはならない!
「ジャンヌダルク、覚悟しろ!」
俺は剣を構え、突撃した。ユキもそれに合わせてジャンヌダルクへと駆け寄る。
そして、思いっきり剣を振り被り、ジャンヌダルクへと勢いよく突き出した。
「う……ぐ!」
システムメッセージには、俺の攻撃もユキの攻撃もクリティカルと表示されている。
そして、その斬撃を受けたジャンヌダルクは馬から崩れ落ち、霧のように消え去った。直後、ジャンヌダルクを倒したというシステムメッセージが流れる。
「……勝った。全員無事のまま勝てた!」
「お見事です、キリノ様!」
俺の歓声にユキが拍手を送ってくれた。
「みんなのおかげだ。ユキがサポートしてくれていたから、ジャンヌダルクは気を取られて上手く戦えなかったのだろう。ディアナとイシスも、ユキと俺を助けてくれた。指示を出すのが間に合わなかったというのに、俺の音のない声を聞き取って動いてくれた。本当にみんなよくやった。ありがとう」
そう告げると、ユキだけではなくディアナとイシスもほんの少しだけ笑ったように見えた。
「キリノ様……あれを!」
ユキの指し示した方を見ると、白いナイトの駒が浮かんでいる。
「歴史に名を刻む聖女、ジャンヌダルクが俺の仲間か……」
そう思うと何やらおかしい気分になるが、ゲームなのだし、壮大に作ってあっても不思議ではないのかもしれない。
「じゃあ、早速呼んでみるか」
「そうですね。味方となった今は、心強いです!」
それを手に取り使用すると、瞬く間にジャンヌダルクがその場へ現れた。
「ご命令をくださいませ、我が主」
「このダンジョンはまだ半分も残っている。俺たちを守ってくれ」
「かしこまりました」
俺がジャンヌダルクに頼もしさを感じていると、遅れながらも部屋の北に通路が出現する。
その先へ向かうと、地下へ続く階段の他に盾が落ちていた。拾って確認してみると、女神の盾・イージスという名前らしく、軽い上に丈夫そうだ。
詳細を見てみると炎や氷、雷などへの耐性もあり、回避率も上がるらしい。おまけに装備中は少しずつだがHPを回復してくれるようで、まさしく最強の盾と言うべき性能だと言える。
「ユキ、これを……」
「いいえ、キリノ様が装備してください」
「なっ!? で、でも……」
「キリノ様。私は万が一倒れてもこのダンジョンの冒険を続けることができます。ですが、キリノ様が倒れたら私たちが生き残っていてもその時点で撤退となります。私のことはお気になさらず、キリノ様が装備してください」
「ユキ……」
理屈ではわかる。けれど、俺はユキが倒れるその瞬間を目にしたくない。だから、この盾もユキに装備してほしかったのだが、ユキの目は本気で訴えかけている。
「……わかった。でも、この曲芸師の盾はユキに使ってもらう。ディアナもジャンヌダルクも強力な盾を持っているし、イシスはスリープで対処できるから。それならいいだろ?」
「わかりました」
ユキはそう言って曲芸師の盾を受け取った。
「……ええと、あの……わがままを言ってすみません」
「いや、ユキの言う通りだし、俺のことを思って言ってくれたのもわかる。ありがとうな」
俺はユキの頭を撫でた。
「さて、それじゃあ次に向かうとするか」
「はい。行きましょう!」
俺はユキたちを連れて階段を下りた。




