雪辱戦
地下四階へと下り、すぐさま目薬を使用した。
思った通り、白みを帯びた半透明の幽霊が同じ部屋にいる。前回苦しめられたレイスだ。誰もいないと思っていた部屋内で唐突に窮地へと立たされたので覚えている。
俺は即座にそいつへと弓矢を放つ。幸いにも召喚される前に矢は届き、一撃でレイスは倒れた。
「ユキ、そっちの部屋の情報をくれ」
「北と南、それから西へ続く通路があります。部屋を移動した方がよろしいでしょうか?」
「いや、確かに敵が入ってくるリスクもあるが、ディアナやイシスと合流しやすいかもしれない。俺もすぐに向かうからそれまでアイテムで凌いでくれ」
「了解です」
おそらくユキがいるのは真東の部屋だ。そして俺がいるのが北西の部屋。部屋を二つ程通ればユキのいる部屋へと着くだろう。
不意にモンスターの群れが現れた際の対抗手段としてスリープの魔法書を構えつつ移動を開始する。
東の通路を進んで次の部屋へと向かうと、そこにはフレスベルグが待ち構えていた。
先程の作戦通り正体不明の薬瓶を取り出し投げつけると、フレスベルグは地へと落ちて眠った。どうやら睡眠薬だったらしい。
その隙に俺は近づき、アイアンソードで思いっきり斬撃を浴びせた。その一撃で倒しきることができたので、地下一階で俺が立てた作戦はどうやら正しかったようだ。
真北の部屋での戦闘を終えた俺は、落ちているアイテムを後回しにして東の通路へ向かった。今はまだアイテムに困っていないし、ユキのいる部屋が近いので先に合流した方がよい。
「ユキ。俺は今北東の部屋へ向かっている。おそらくユキのいる部屋の北だ。ユキもこっちへ来てくれ」
「了解しました」
ユキへと伝えながら俺は通路を進む。そして、辿り着いた先ではヴァンパイアが待ち構えていた。
そいつが不意に南の通路へと向かって飛んでいったのを見て、俺はすぐさま弓矢を構えつつシバルリーを使用しこちらへと引き寄せる。
そして、丁度俺が一撃で倒したところでユキが部屋へ入ってきた。
「さすがです。キリノ様」
「ああ。このフロアのモンスターは一撃で倒せそうだ」
ユキと合流した俺は、安心してそのフロアの探索を進めることができた。ディアナやイシスとも合流し、アイテムを回収しながら再びレベル上げを開始する。
ここまでの流れは順調だ。スリープやサンダー、それからワープ薬を温存できているし、レベルも現在27まで上がっている。
充分な程レベルは上がっていたが、ふと前回の敵が脳裏を掠めた。
俺にトドメを刺した憎きモンスター、アサシンナイト。真っ黒な馬に乗ったそいつは重たい一撃で俺を葬った。システムメッセージによるとクリティカルヒットだったらしい。
それは果たして偶然だったのか? いや、奴の特殊能力だと疑ってかかった方がいいだろう。
「ユキ、もう少しレベルを上げようと思う。あのアサシンナイトとかいう敵に、しっかりお返ししてやらないとな」
「そうですね。キリノ様にトドメを刺したモンスターを私も許せません」
ユキは頬を膨らませた。怒り方もかわいい。
そんなユキに癒されながらも俺はさらにレベルを上げ、30に到達したところで階段を下りた。
地下五階へと到達した俺は、すぐさま目薬を使用する。レイスという驚異があるので、もう定石化した動きと言っても過言ではない。
そして、案の定部屋の隅に隠れていたそいつへと弓矢を放った。それはしっかりと命中し、一撃でレイスは倒れる。
だが、その間に通路からアサシンナイトが侵入し、猛スピードで俺へと突進してきた。
魔法書を取り出していては間に合わないと咄嗟に判断し、俺は盾でその攻撃を受け止める。しかし、その盾ごとものすごい勢いで押され、顔へとぶつかってしまった。
脳内に流れたシステムメッセージを確認すると、またしてもクリティカルと表示されている。これはもう確定的だ。
前回こいつに殺された瞬間がフラッシュバックする。トラウマとして刷り込まれるには充分な恐怖体験だった。
だが、そんなものに負けるわけにはいかない。今度こそ俺はユキに誓ったのだから、何としてでもユキを悲しませないようにしなければならない。
そう自分を奮い立たせると、恐ろしい程に感覚が冴えていった。
「……そこだ!」
俺の突き出した剣は自然とアサシンナイトの首元へと向かい、そして一撃で倒した。システムメッセージを見ると俺の攻撃はクリティカルと表示されている。
トラウマを克服したようで急に自信が湧いてきた俺は、ユキのいる場所まで一気に向かおうとフロア中を駆け回った。
そして、敵を次々と倒してゆく間にその部屋へと着いた。
「お待たせ、ユキ」
「キリノ様!? もう着いたのですね」
「ああ。アサシンナイトも克服できた。奴を倒した瞬間、さっきまでの恐怖心がうそのように晴れていったから、その勢いでここまで走って来ちゃった」
「あのモンスターへのトラウマは、きっとキリノ様をすごく苦しめたのだと思います。それが消えたのでしたら、私もうれしいです」
ユキは我が事のように喜んでいる。おそらく俺のことをずっと心配してくれていたのだろう。
「ありがとう。それから、心配かけてごめん」
「当然です。私はキリノ様のパートナーですから」
そう言って微笑みかけるユキに愛おしさを感じた。




