リベンジ
俺はユキの頭を撫で、それから改めて向かい合い真っ直ぐに視線を交わした。
「ユキは俺の大事なパートナーだ。俺がもし試験に受かったら、その時はユキと共に歩んでゆけるような道を探す。約束する」
そう告げると、ユキは微笑みながら涙を零した。
「ありがとうございます、キリノ様。私もキリノ様が試験に合格できるように精一杯お手伝いさせていただきます」
「ありがとう、ユキ」
俺はもう一度ユキの頭を撫でた。
「さて、逃げてなんていられないな。神話のダンジョンへ向かおう」
「はい!」
俺は預り所からアイテムを引き出し、決意を新たに魔法陣のある部屋へと向かった。
「今度は前みたいな失敗は繰り返さない。ユキにはこのスリープとワープ薬を渡しておくけど、なるべく温存しながら戦ってくれ」
「了解です!」
「ディアナは最初のフロアでは俺かユキへと合流することを最優先してくれ」
「承知」
「イシスも基本はディアナと同じだ。けど、敵がいたら積極的にスリープをかけて足止めすること」
「わらわが神よ、ご命令をしかと承った」
指示を出し終え、俺は再び神話のダンジョンへと一歩を踏み出した。
眩い光が収まるのと同時に俺は周囲を確認し、敵の姿が見えないので即座にアイテム回収を始める。
「ユキ、部屋の情報を教えてくれ」
「東に通路が一本のみです」
「わかった。今向かう」
ここまでのダンジョン攻略から、このゲームにおける地形の特性は把握できる。おそらくあまりややこしい作りのフロアは存在しないはず。
俺が今いるのは南西の部屋で、北と東へと通路が繋がっている。逆に言えば、真西の部屋は俺のいる南西の部屋へと向かって……つまり、南へと繋がる通路がある。このことから南西と真西の部屋を可能性から除外し、おそらくは北西の部屋にいると推測できる。
すぐにでも向かおうと駆け出したその時、北の通路からエルダーアーマーが侵入してきた。
「く……!」
焦る気持ちを落ち着け、俺は後退った。そして東の通路へと向かう。
幸いにもそちらからは敵が迫って来ておらず、俺は真南の部屋へと着いた。部屋の東側にはブラッディバッドが三体いる。
俺はそれも無視し、北の通路を通って中央の部屋へと入った。今度はストームホークが三体、部屋の北側から向かってきている。
俺は魔法書を構え、そいつらに向かって駆け出した。背後からは先程無視した合計四体のモンスターが追ってくるのをマップで確認できる。そして、全てのモンスターが部屋に入りきった瞬間を狙って俺は魔法書を開いた。
部屋中を雷が荒れ狂い、敵を薙ぎ払ってゆく。それでも倒しきれず、モンスターたちは再び俺へと向かって突撃してくる。もう一冊の魔法書を使わざるを得ないかと思ったその時、不意にモンスターがよろめいた。システムメッセージにはイシスがスリープを使用したとの情報が流れ、マップを確認すると東の入口に彼女の姿があった。
「よくやった、イシス」
モンスターを起こさないよう小声でイシスをほめる。そして、一体ずつ弓矢で倒してゆくと、レベル12にまで上がった。
そのまま北へと進んでゆき、ついに俺は北西の部屋へと着き……。
「キリノ様!」
その柔らかな笑顔と対面した。
「ユキ、お待たせ」
「ご無事で何よりです」
ユキとの合流後にディアナともすぐに合流し、全員揃ったところで俺は経験値稼ぎを開始した。今回はしっかりとレベル上げできるように食べ物を多めに持ち込んである。
次のフロアからは魔法書を温存できるように、イシスがいる今の内に順調にレベルを上げてゆく。途中発見したアラームのトラップを逆に活用したので、効率もなかなかによい。
そうして、フレスベルグたちが相手でも一撃で倒せる程のレベルに到達し、俺はようやく地下二階へと移動した。
このレベルにまでなるとユキでもエルダーアーマーたちを一撃で倒せるようなので、俺はユキにも探索をお願いした。そうすることにより、先程までの遅れを取り戻しながら攻略を進めることができる。
そうして一気に階層を進んでゆき、問題の地下四階への階段の前まで来た。
「ユキ、ニーズホッグが単体で来た時はあえて無視するんだ。奴は石化を使ってくるから、しばらくの間それでやり過ごせる。それから、姿の見えないファントムという敵もいるから、暇な時は部屋や通路に弓矢を放ち続けるんだ」
「他のモンスターの場合はどうしましょう?」
「フレスベルグが来た時は落ちているアイテムの中で正体の判明していないものを使ってくれ。それがもし敵を助けるアイテムだったとしても立て直せる。薬瓶ならば回復薬や能力値を上げる薬がそれに該当するが、フレスベルグは基本的に遠くから炎で攻撃してくるからあまり関係ない。魔法書で怖いのはチェスとアラームだが、前者なら使用するタイミングで俺が助けに入るから前のようにはならない。もしアラームだった時は、すぐにワープ薬で逃げてくれ」
「了解しました」
ユキに示した戦略は、当然俺も指針とする。正体不明のアイテムでも、使いどころと対象を間違えなければ怖くないはずだ。
俺が以前プレイしたゲームでも、そのようなセオリーが存在していた。毒や眠りなど悪い効果を対象に与える種類が多いものは敵へ使用する。このゲームの場合は薬瓶がそれに該当する。
そして、効果範囲が広く強力な魔法書は、その分危険度も高いため慎重に使わなくてはならない。
以上のような注意事項さえ守りタイミングを誤らなければ、それ程危険なことにはならないはずだ。
「イシスも、いきなりチェスの魔法書が発動するかもしれないから常にスリープを使用できるように構えていてくれ」
「承った」
「それじゃ、三人とも覚悟はいいな?」
「はい。今度こそ、キリノ様のご期待に応えられるようがんばります!」
「ありがとう」
俺は意識して大きく息を吐き、気持ちを落ち着かせた。
「よし、行こう!」




