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悲劇

 俺はユキの顔を見て安堵した。


「無事でよかった」

「キリノ様からいただいたアイテムがありましたので、何とか耐えきりました」


 アイテムという単語を聞き、今後の不安が頭をよぎった。


「……どうかなさいましたか?」

「すまない。ここまで来る間にアイテムはほとんど使ってしまった。どいつもこいつも強敵だらけで、切り抜けるためには仕方がなかったんだ。今残っているのはこれだけだ」


 俺は正体不明のアイテムを取り出して見せた。


「薬瓶に魔法書に首飾り。このどれもがどんな効果なのか全くわからないんだ。回復薬だと思って使ったら毒薬だったなんてこともあり得る」

「使うにはちょっと勇気がいりますね……」

「なるべく使わないようにしようと思う。まずはこのフロアで充分にレベルを上げる。イシスにスリープをかけてもらえば問題なく倒せるはずだから」

「そうですね。念入りにレベルを上げておきましょう」


 俺はユキたちを連れてフロア中を駆け巡った。

 敵が現れたらイシスにスリープをかけてもらい、ディアナに倒してもらう。そうすることにより、敵が石化やスリープを使用してくる前に倒すことができるし、複数のモンスターが相手でも難なく倒しきることができた。

 そうしてしばらくレベルを上げ続けた結果、俺も一撃で敵を倒せるまでになった。持ち込んだ食べ物の残量と比較しても、そろそろ次のフロアに向かわないとまずい。


「ユキ、ひとまずレベル上げはここまでにして次の階層へ移ろうと思う」

「了解です」


 階段へと向かいながらも出現したモンスターを倒してゆく。そして、俺は地下五階へと向かう直前、祈りを込めてアイテムを選出し、ユキへと渡した。


「どうしようもなくなった時に使ってくれ」

「わかりました」


 俺はユキの顔をしっかり目に焼き付け、階段を下りた。

 そして、下りた先ですぐさま目薬を使用し、隠れていたファントムたちを即座に弓矢で倒しきる。

 敵が他にいないのを確認し、部屋のアイテムを回収していたその時。


「キャア!」


 ユキの悲鳴が聞こえた。


「ユキ! 魔法書を使え!」

「はい!」


 直後、部屋中の壁が消滅し、床がチェス盤へと変貌へんぼうした。ユキが使用したのはチェスの魔法書だったようだ。


「イシス! スリープを……」


 言いかけた時、イシスが倒れたというシステムメッセージが届いた。慌てて見回すと、炎に包まれた彼女の姿があり、今まさに地面へと叩き付けられる瞬間だった。


「ディアナ!」


 その呼びかけもむなしく、目を向けた先でディアナは石化していた。しかも、その周辺にいたモンスターが一斉に俺へと向かって駆け出した。


「キリノ様!」

「ユキ! 俺は大丈夫だから落ち着いてディアナの石化が解けるのを……」


 そう言いかけた時、ユキはすでに魔法書を開きかけていた。


「ユキ、ダメだ!」


 その呼びかけと同時にユキは魔法書を開いてしまった。ユキがクイックを使用したというシステムメッセージが脳内に流れ、途端にモンスターの移動速度が上がった。


「そんな……。キリノ様!」


 俺は焦り、リュックに手を突っ込み魔法書を一冊つかんだ。そしてそれを開くと、天は無情にも俺を見捨てた。

 目の前に繰り広げられる悪夢。アラームを使用したというシステムメッセージと共に、俺の周囲へ新たにモンスターが召喚された。


「キリノ様ー!」


 ユキの悲鳴が頭に鳴り響き、俺はフレスベルグの炎に包まれた。刺すような痛みの中、俺は必死に剣を振り続けたが処理が間に合わない。そして、目の前に現れた真っ黒い馬に乗った騎士が俺へと剣を突き出した。


「ぐあああ!」


 一瞬激痛が走り、すぐさまそれは薄れてゆく。自分で出したはずの悲鳴が、どこか遠い場所の出来事かのように感じる。脳内に届いたシステムメッセージには、アサシンナイトのクリティカルが発動したとの情報が無機質に流れていた。そして、続けて俺自身が倒れたとの情報も流れ、気が付いたら俺は城へと戻っていた。


「……キリノ様、申し訳ございません!」


 ユキが俺の前で泣いている。

 ふと、アイテム欄を確認すると、全てのアイテムが消失していた。俺は襲い来る喪失感に耐えられず、項垂うなだれた。


「キリノ様……」

「……ごめん。俺はもう、戦えないかもしれない」

「そんな……!」


 ここまで積み上げてきたものが崩壊する感覚。せっかく得た武器を失ったというディスアドバンテージ。そこから巻き返すことなど無理だという絶望。それから、先程最後に見た死への恐怖。

 それらが重くのしかかり、俺はもう再び立ち上がる気力が失せていた。もう一度ダンジョンに挑むことがこれ程怖いだなんて……。俺にはもう戦う勇気なんて残されていない。


「……さようなら」


 不意に聞こえたその言葉に顔を上げると、走り去ってゆくユキの姿が目に映った。

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