砂漠の神官イシス
その後、強敵に苦戦しながらも順調に階層を進んでゆき、しばらくたった。
ここまでの間、エルダーアーマーやエルダーナイトといった以前見たモンスターの上位種も加わり、ゴーストやウィッチとの凶悪なコンビネーションに苦しめられた。
だが、その都度冷静に対処し、俺は最後の階段を前にしている。
「ユキ、ディアナ。この先に今回のボスがいるはずだ。準備はいいか?」
「はい! 大丈夫です」
元気よく返事してくれるユキとは対照的に、ディアナは無反応だった。
考えてみれば、ディアナは俺の指示に従うだけで、それ以外の反応は薄い。彼女はアズールたちと同様、ただのデータなのだろう。
「それじゃ、行こう」
余計な思考を振り払い、今回のダンジョン最後の戦闘へ向けて気合を入れつつ階段を下りた。
三十階へと着いて辺りを見回すと、前回冒険した『古戦場のダンジョン』と同様に南側へ魔法陣が用意されている。そして、俺たちが今いる部屋からは真っ直ぐ北へと一本の道が伸びていた。
違うのは、今回のフロアは壁が砂で造られているという点。そして、その壁は微かに青白い光を放っている。
「神秘的ですね……」
「ああ……」
まるで砂で出来た神殿のようだ。厳かな空気に満ちており、静まり返っている。
「……よし、進もう」
俺は二人を連れ、通路へと向かった。
その先へと着くと……。
「わらわの神殿を荒らすのはそなたたちか」
艶やかな声が響き、白いローブを着た黒髪の美女が現れた。
「わらわはイシス。早々に立ち去るのであれば、見逃してやろう」
「残念だが、そのつもりはない」
「ならば、裁きを受けよ」
そう告げるや否や、イシスは目を閉じ何やら呟きだした。途端に体がだるくなり、意識が遠のき始める。
「く……! それならこっちも!」
俺はスリープの魔法書を開いた。だが、イシスは僅かに呻き声を上げただけでほとんど効果がない。
「愚かな」
イシスは再び目を閉じ呟きだした。
「させるか! ……うぐっ!」
イシスへと駆け寄ろうとした俺の足が不意に動かなくなった。どうやら麻痺魔法にかかったらしい。これでは俺は動くことができない。
「ディアナ! 接近戦であいつを倒すんだ!」
俺は必死に叫んだ。だが、その返事はなく、マップで確認すると黄色いアイコンは入り口で止まっていた。
「……ディアナ?」
「キリノ……様。ディアナさんは……最初の眠り魔法で……」
「何っ!?」
その驚愕の言葉に俺は耳を疑った。それに、ユキの声も途切れ途切れだ。
「わらわに逆らう者には死を」
その言葉の直後、俺は息苦しさを覚えた。体中を何かに蝕まれているような感触。これは……おそらく毒魔法だ。
「好き勝手やりやがって……!」
あれ程強かったディアナも含め、俺たちのパーティは全員成す術なく翻弄されている。このままでは負けてしまう。
「悔いるがいい。わらわの神殿を荒らしたことを」
イシスが勝ち誇っていたその時。俺の麻痺が解けた。
この隙を最大限に生かすためには、効果の薄いスリープよりもこれの方が……。
「食らえ! イシス!」
俺は渾身の力を込めて、アイアンソードをイシスへと投げつけた。
「ぐああ!」
けたたましい悲鳴が上がり、イシスはその場へと崩れ落ちた。
俺はさらなる追撃を狙い、弓矢を構えつつアイアンソードの回収へと向かって走る。
だが、俺が辿り着くよりも前にイシスは起き上がった。
「許さぬ!」
そう告げると、イシスはその場から姿を消し、代わりにユキが現れた。
「何っ!?」
「後ろです!」
ユキのアシストにより振り向くと、元々ユキのいた場所にイシスが佇んでいた。これはチェンジの効果か。
「哀れな者どもよ」
そう告げると、イシスは再び目を閉じた。途端に俺の視界が闇へと閉ざされた。動くことは可能なようだが、これではイシスの居場所がわからない。
マップを起動することすらも不可能で、俺には魔法書で対抗する道しかない。
「効果が切れるまで耐えきってやる!」
幸いにも手にしたアイテムの詳細はわかるようで、俺はリュックからパラリシスの魔法書を三冊引っ張り出した。
「食らえ!」
「……うう!」
ダメ元でパラリシスを使用してみたが、どうやら効果があったようだ。しかし、五秒程で効果切れのメッセージが流れた。
俺はすぐさま二冊目のパラリシスを使用し、時間を稼ぐ。
俺のパラリシスの残弾がなくなるのが先か、それともイシスのかけた魔法が解けるのが先か。この勝負の行方はそれによって決まることだろう。
もし、仮に俺の復帰の方が早かったのなら、この窮地の中閃いた新たな策によって俺は勝利をもぎ取ることができる。
俺は三冊目のパラリシスを握り締めながら祈りを捧げた。




