絶体絶命
通路の先から来る敵を先制攻撃で倒しながら、俺は可能な限り思考を巡らせた。
これ程までに厄介なモンスターのオンパレードとなり、不安もそれだけ大きくなる。
通路が一つしかない部屋に陣取ってはいるが、果たしてそれだけで無条件に安全だと言えるのか? いきなり部屋にワープしてくる敵がいるかもしれない。壁をすり抜けてくる敵がいないとは言い切れない。
あらゆる危険性が頭に浮かぶが、その不安は決して心の枷とはならないはずだ。むしろ、それによって立てられる対策がある。
「ディアナとユキは部屋の内部を見張っていてくれ」
「部屋を……ですか?」
「俺が思うに、このダンジョンは特殊能力を持った敵が多いはずだ。どこから敵が湧いて出てくるかわかったもんじゃない」
「そんな恐ろしい敵が……。わかりました、しっかり見張ります」
「ありがとう。ディアナも敵が来たら教えてくれ」
「承知した」
これで不意打ちへの対策はできたが、挟み撃ちされる危険性は依然として残っている。
もし複数の敵が部屋に湧いたら通路で戦うしかなくなるわけだが、気がかりなことが一つある。壁を通過してくる敵は俺のプレイしたゲームにもいたが、そいつは壁にいる間こちらの攻撃が当たらない。
もし同じ仕様なのだとしたら、何か打開策を用意しなければ……。
「キリノ様! 敵襲です!」
「主よ、敵が参ったぞ」
別々な方向を見張っていた二人から、同時に敵の存在を知らされる。見ると白みを帯びた半透明な幽霊のモンスターが二体迫ってきていた。思ったよりまずい状況かもしれない。
「ディアナは攻撃を! ユキは俺と通路の見張りを代われ!」
「了解です!」
「承知!」
俺は構えていた弓矢の狙いを定め、真っ直ぐに放った。その一撃で敵は倒れ、ゴーストを倒したという情報が脳内に流れる。
おかしい。いくら壁をすり抜けられる能力持ちだからといっても、これではいくら何でも弱過ぎる。まだ何か能力を持っているのかもしれない。
「キリノ様! 通路に突然モンスターが!」
「ユキ、下がれ! 俺がそいつを……」
そう言って振り返った時、丁度横の壁からもゴーストが現れた。すぐに剣を構え、何もされる前に倒そうとする。だが、こちらが攻撃態勢に入っている時にはもう遅かった。剣が当たる直前にゴーストの体が淡く光り、次の瞬間、周りに敵が溢れかえっていた!
「しまった! 二人とも、通路に逃げろ!」
ディアナとユキを先に向かわせ、俺もなんとか逃げ込むことができた。だが、ここで先程の心配が現実となってしまう。召喚された中にいた別のゴーストたちが、次々と壁へ入っていくのが見える。
奴らが壁から攻撃してくるのは危険だ。俺やディアナは凌ぐことができるかもしれないが、このままではユキが危ない。ユキを守るために真ん中に配置したが、壁から攻撃してくるのでは無意味だ。
それに、他の敵も迫ってきている。しかも、俺のいる側から近寄ってきているのは、よりにもよってあのバジリスクだ。
絶望が目の前に繰り広げられている。絶体絶命という言葉がぴったりなこの状況に、俺は自分でも恐ろしいくらいに思考が落ち着いてゆくのを感じていた。
そして、リュックからアイテムをつかみ取り……。
「ユキ! 俺を信じてくれ!」
そう言って石化薬をユキへと投げた。瞬間、ユキは驚いた表情のまま身動きを止めた。
「すまない。けれど、俺は……!」
「わかっています。キリノ様は私を悲しませるようなことはしないと、信じています」
表情は驚愕を浮かべたままだが、ユキからのメッセージは俺への信頼で溢れているのがひしひしと伝わってくる。
何としても、それに応えなければ……!
「ディアナはそこで反対側から来た敵を倒してくれ! 俺は……」
返事を待たず、俺はもう一つの薬瓶と魔法書を取り出し、元いた部屋の方へと振り返った。
「こいつらを……倒す!」
丁度通路の入り口に踏み入ったバジリスクへ向かい、俺は石化薬を投げた。そして、動きを止めたバジリスクへと向かってチェンジの魔法書を開く。
場所を入れ替えた俺はすぐさま次の魔法書を手に取り、部屋へと足を踏み入れる。その瞬間、モンスターの群れの中で二体のゴーストが淡く光るのが見えた。直後、部屋にはさらなるモンスターが現れ、同時に俺の感覚も遠のき始めた。一体は召喚、もう一体はスリープを使用したようだ。
「負けてたまるかっ!」
声を張り上げることにより必死に気合を入れ直し、スリープの魔法書を開いた。モンスターたちの動きが鈍った今が反撃のチャンスだ。
「こっちだって魔法は使える!」
俺は獲得した数秒のアドバンテージをフル活用し、さらにサンダーの魔法書を二冊連続で使用した。
本来なら、これだけの隙を見せればゴーストのスリープやウィッチの瞬間移動魔法の餌食となるだろう。だが、その厄介な敵たちは俺が使用したスリープの魔法書により、意識を失っている。
そして、部屋中を荒れ狂う雷が止んだ時、そこに残っているのはもうバジリスクが三体のみとなっていた。
近づいて倒すことも可能に見えるが、失敗して石化を受けてはまずい。なので、俺は弓矢を構え即座にそいつらを処理しきった。
そして、再び通路側へと振り向くと、ゴーストたちがユキの周囲の壁に留まっていた。
「お前らの相手は俺だ!」
俺はシバルリーを使用し、部屋へとそいつらをおびき寄せた。そして、壁から出てきたところを剣で仕留めてゆく。
そうして、ようやく一連の非常事態が去った。




