新たなる決意
そうして考え込んでいる内に寝てしまったらしく、けたたましく鳴り響く目覚ましの音で目が覚めた。
……今日はしっかり起きることができたので、昨日のように遅刻しなくて済む。
朝食をとる間や試験会場へ向かうまでの間、俺は考え事の続きをしていた。どうすればカミヤに追いつくことができるのか、昨日のことを思い起こしてみる。
最初のダンジョンはチュートリアルのような難易度だったが、次に挑んだ古戦場のダンジョンは窮地に立たされた瞬間が何度もあった。罠にかかったり、サマナーに敵を呼び寄せられたり、チェス盤のフロアで大群を相手にしたり……。
二番目のダンジョンでこれだけ苦戦を強いられたのだから、今日新たに挑むダンジョンではどれ程の危機が待っているのか。
コロシアムで相手したヒュプノスやバジリスクといった強力なモンスターも、今後おそらくダンジョンで遭遇することになるだろう。
これから先はさらに難易度が上がるはず。気を引き締めて戦わないといけないな……。
さて、思考を巡らしている間に会場へと着いた。ノックをして部屋へと入り、一礼してドアを閉める。そして辺りを見回してみると、カミヤがすでに席へと着いていた。俺に気付いたようで、相変わらずの不敵な笑みを見せている。
俺も空いてる席へと座り、試験開始を待った。すでに机の上へと置かれている機器を見つめながら、心をなるべく落ち着かせる。そうでもしないと、この緊張に満ちた空間にいるのが辛くなるからだ。
そうしてなるべく余計なことを考えないようにしていると、会場の前の方にいる試験官が動きを見せた。
「それでは、試験を開始します。各自、ログインしてください」
その試験官の声は、会場にはっきりと響き渡った。そして、受験者が次々に機器を手に取り始める。
俺も目を閉じて深呼吸をした後、それを装着する。その一瞬で俺はゲームの世界へと戻っていた。
「お帰りなさいませ、キリノ様」
ユキが微笑みかけ、ディアナも無言でこちらへと顔を向けた。
「二人とも、お待たせ。今日もがんばろう」
「はい。がんばりましょう!」
さて、まずはカミヤを探してみるか。今いるバザーには……いないようだ。
そういえば、中庭はどうなったのだろうか? ユキと最初に会った場所、あそこでモンスターは管理されているはずだ。
カミヤも何体かモンスターを仲間にしているだろうし、そこにいるかもしれない。
それに、もう一つ気がかりなことがあった。俺が仲間にしたワイルドベアーがどうなったのかについてだ。
「ユキ、中庭に行ってみよう」
「はい。パーティの編成は大事ですからね」
「いや、それはこのままでいいんだけど……。ちょっと用があってな」
「用……ですか?」
疑問符を頭に浮かべそうな顔をしているユキと依然として無言のディアナを連れ、俺は中庭へと向かった。
そこには、思った通りカミヤがいた。その側にはアズールとヘラクレス、そしてもう一体モンスターがいる。
「……おはよう、カミヤ」
「お? 珍しく和やかだな。おはよう」
「お前も他のモンスターの様子が気になってここにきたのか?」
「……まあな。単なるデータだとわかっていても、一度こうして仲間になった奴らだから」
そう言うと、カミヤは目の前のアーチャーへと視線を移した。彼の仲間モンスターなのだろう。
そこへ最初に案内してくれた女性兵士がやってきた。
「カミヤ様、ご決断を」
「決断……? おい、どういうことだよカミヤ」
「こいつをダンジョンに帰せばゴールドが手に入るんだ。まあ、それはいらないんだが、こうしてここに縛り付けておくのが何だかかわいそうに思えてきてな……。というわけで、お願いします兵士さん」
カミヤのその言葉に兵士は頷いた。その直後、アーチャーは青白く光り、そのまま消えてしまった。
「さてと、これで全部だ。俺は用が済んだから、先に次のダンジョンへ向かうぜ」
「……待てよ」
「……どうした?」
「お前、一人でゲームしていてつまらないだろ? すぐに楽しませてやるよ、待ってろ」
「へえ、お前が俺をねえ……」
カミヤにあの不敵な笑みが戻った。最初は腹立たしいとしか思わなかったが、今こうして見るとこちらの方が彼らしさがある。
「まあ、楽しみにしておくよ。それじゃ、失礼」
カミヤはアズールとヘラクレスを連れ、歩み去った。
「ちゃんと伝わっただろうか……」
「大丈夫ですよ、きっと」
「そうだといいな。おっと、ここに来たもう一つの目的を忘れるところだった。兵士さん、俺のワイルドベアーもダンジョンに帰してください」
「よろしいのですね?」
「はい。最後に話すことさえできれば」
「かしこまりました。どうぞ」
兵士は人形型のアイテムを使用し、ワイルドベアーをその場へと召喚した。
「ディアナ戦の時、率先して立ち向かってくれてありがとうな」
俺はそう言ってから、兵士へと向き直り軽く頷いた。
兵士もその意味を理解し、ワイルドベアーをダンジョンへと帰す。
「これでよし。さて、俺たちも次のダンジョンへと向かおう」
「はい。少しでも差を縮めましょう」
「承知」
二人とも準備万端のようだ。頼もしさを感じながら、俺は魔法陣のある部屋へと向かった。
そして、決意を新たにし、俺はユキとディアナを連れて魔法陣へと飛び乗った。




