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ライバルたち

 ユキを連れて中庭を出る前に、案内してくれた女性兵士へと一礼した。しかし、案内役は仕事を終えたからなのか、銅像のように動かなくなっている。俺の動作に全く反応を示さないようだ。

 おそらく、システム上存在するだけの人物ということなのだろう。そう考えると少し悲しい。

 城を探索しようと移動する俺にぴったりついてくるユキ。この子もただのデータなのだろうか……。

 そう思い、ユキの表情をうかがう。作られたものにしては、感情がしっかり存在しているように見える。


「あの……」


 ユキが頬を赤くしながら俯く。


「どうかしたか? ユキ」

「こんなことを申し上げるとキリノ様に失礼かもしれませんが、こうして誰かと一緒に歩いているとすごく楽しいです」

「……そっか、よかった」


 ユキはこれまでどんな生活をしていたのだろう? ずっと鍛練やトレーニングみたいなことばっかりしていたのか? 俺たちプレイヤーのために……。

 それとも、今日までずっと存在すらしてなかったのだろうか? 単なるデータとして、作られただけの存在なのだとしたら……。


「キリノ様? どうかなさいましたか?」

「え? ああ、何でもない」

「そうですか? それならいいのですが……」


 こうした応対の一つ一つからも、この子がデータだなんてとても思えない。やっぱり、ユキには心があるように見える。


「バザーに着きましたね、キリノ様」

「ああ、本当だ。いつの間に」


 言われるまで気付かなかった。特にどこかへ向かおうとしてたわけじゃなく、いろいろと見て回ろうとうろついていたせいだ。

 まあ、丁度いい。ここで情報収集をしよう。

 一番近い店はすぐ目と鼻の先。薬瓶のようなものがたくさん置いてあるし、きっとアイテム屋だ。


「いらっしゃい。回復薬に毒薬、何でも揃っているわよ」


 そう声をかけてきた店主は、桃色の髪をした女性だ。声は明るく、笑顔も自然で良い印象を受ける。

 話しやすそうだし、この人に聞くとしよう。


「あの……まだこのゲームに関してよくわからないんですけど、ダンジョンってどんなところなんですか?」

「ダンジョンはね、迷路のように入り組んでいてモンスターがたくさん住み着いているのよ。でも、役に立つアイテムもたくさん落ちているから、集めてきてくれたら買い取ってあげるわ。逆に、何か必要なものがあればこのバザーに来てみるといいかもね」


 なるほど……。これは、俺が以前プレイしたことのあるゲームに似ている。そこで得た知識や戦略を使うことができそうだ。


「あ、そうそう。このバザーの中央にモニターがあって、ダンジョンの様子や冒険中のプレイヤーを映しているから見てきたらどうかしら?」

「それはわかりやすそうですね。早速見てきます、ありがとうございました」

「また来てね」


 道具屋を離れ、少し歩くとそれは見えてきた。いくつもの画面が頭上に浮かんでおり、それらが別々な映像を映している。

 ……すでに俺のライバルたちがダンジョン攻略を進めており、中でも一際目立つのが青い髪の美少年モンスターを連れた男だ。髪を茶色に染めてピアスをしているその男は、他のプレイヤーと違って堂々としている。

 普通に考えれば、こんなリアルな映像で行うゲームなのだから少しくらい怯えてもおかしくない。いや、他のプレイヤーは動きがぎこちないことからも間違いなく怯えているんだ。なのに……こいつは澄ました顔をして余裕そうに敵へと対応している。

 そして、この青い髪の仲間モンスターは……とても強い! 赤い瞳と背中に生えた黒い羽……その漂う雰囲気からも強そうな印象を受けるが、その動きの的確さが何よりもはっきりと実力を見せ付けてくる。そいつは、雷や氷の魔法によって敵が近づく前に片っ端から倒していた。


「……私は、彼みたいには戦えません。すみません、キリノ様」


 その声に振り返ると、ユキは俯いていた。

 まだ気にしていたのだろうか……。


「気にしないでくれ。俺は別に、ユキよりこの画面のモンスターがよかったなんて思ってるわけじゃない。ただ、こいつらは警戒しておかないといけないと思ってな……」

「でも、やっぱり私もキリノ様のお力になりたいです。一生懸命努力して強くなります」

「ありがとう、ユキ」


 その頭をそっと撫でると、ユキはうれしそうな表情を見せた。


「あ、キリノ様、さっきの人たちがダンジョンをクリアしたみたいです」


 ユキの指差す先を見ると、男と仲間モンスターが魔法陣に乗っているのが映っていた。そして次の瞬間、そいつらはまばゆい光に包まれ、姿を消した。

 俺はまだダンジョンに入ってすらいないのに、もう最初のノルマを達成したプレイヤーがいるんだ。のんびりしてはいられないな……。


「ユキ、俺たちもそろそろ向かおう。怖いかもしれないけど、ついてきてくれるな?」

「もちろんです、キリノ様。それが私の役目ですから、お供させていただきます」

「……そっか。じゃあ行こう」


 俺はユキを連れ、玉座の間がある階まで戻った。その階にダンジョンへ飛ぶための魔法陣があることはすでに知っている。さっきちらっと見えたからだ。

 そして、その魔法陣のある部屋へ入ろうとした時、さっき見たあいつの姿がそこにはあった。


「……お?」


 向こうも俺に気付き、反応を示した。

 ゆっくりとこちらへ歩いてくる……。


「何だ、俺が一番速いと思ってたんだが、お前たちこれから二つ目のダンジョンかい?」

「……いや、これから最初のダンジョンだ」

「それは随分のんびりしているようだね。それだけ余裕ってことかい?」


 こいつ、わざわざ随分って部分を強調して話さなくてもいいものを……。

 嫌味たっぷりな表情も腹立たしいし、嫌いなタイプだ。


「俺はカミヤだ。お前も挨拶しろ、アズール」

「どうも……!」


 アズールと呼ばれた青い髪の美少年モンスターは、ケケケと不気味な笑い声を上げながら頭を下げた。


「俺はキリノ。こっちはユキだ」


 形だけでも挨拶を返そうと思い名乗ったが、ユキは俺の袖にしがみついて前へ出ようとしない。


「おやおや、マスターの言うことも聞かないのか。外れを引かされたようだな」

「俺はそうは思っていない」

「ま、せいぜいがんばりな!」


 そう告げてカミヤが去ったのを確認し、ユキへと振り返った。


「……すみません」

「いいよ。俺もああいう奴は好きになれない。それより、俺たちもダンジョンへ行こうか」

「はい! よろしくお願いします」


 俺はユキと共に、一番手前の魔法陣へと乗った。

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