絆の力
絶望的だ……。どうやって勝てばいいのかが全くわからない。僅かな勝機を手にしたと思った途端、それは粉々に砕かれてしまう。
勝ち目なんてないのかもしれない。そういう思いが少しずつ心を埋め尽くしていくような感覚に陥る。
俺にはこのダンジョンのボスに勝つなんて無理だったんだ。カミヤたちなら倒せたのかもしれないけれど、俺にはその力がない……。
「キリノ様……」
「……ユキ?」
「私のことはお気になさらず、思いっきり戦ってください。足手まといにはなりたくありませんから、どうか私のことはお構いなく」
ユキは俺のことを考えてくれている。この状況になった今でも、俺の勝利を微塵も疑っていないんだ。
そして、そのためなら自分を見捨てろとまで言っている。そんなこと、するわけないのに……。
ユキはそこまで俺のために戦ってくれているのに、それに比べて俺はどうだ? ちょっと困難にぶつかっただけで弱気になり、ユキを守るために最後まであきらめないという信念がぐらついた。もう無理だと決め付けて、目の前の現実から逃げようとしただけじゃないか。
情けない……本当に情けない。
こんなにどうしようもない俺を、ユキはただただ信じてくれている。ユキの期待に応えなければ……。
「……汝、その目は何ぞ? まだ我に抗うと申すか」
「ディアナ、確かにお前は俺より強い。普通に戦ったら間違いなくお前が勝つだろう。だが、それは一対一での話だ。今、俺は一人じゃない」
「あの小娘に何ができると?」
「俺とユキは……お互いがいるからこそ戦えるんだ。それがわからないお前は必ず負ける」
「愚かな……」
俺は深呼吸をし、気合を入れ直した。そして、立ち上がるより先に散らばったアイテムを拾い、それをユキへと投げる。
「我ではなく仲間を攻撃するとは……」
「そんなわけあるかよ。今の受け渡しを妨害し損ねたのは、大きな判断ミスだったな」
「何……?」
そう、俺が投げたのは回復薬。その薬瓶は割れ、ユキの傷を癒してゆく。
「キリノ様、ありがとうございます」
「なぜだ……なぜ自らを回復しなかった?」
「ユキを信じているからだ」
「あのような小娘に一体何が……。む? 何事ぞ!?」
部屋中を雷が荒れ狂っている。そして、その攻撃は俺とユキを避けてディアナだけに命中した。
「うぐう! よくも……」
ディアナがユキの攻撃に気を取られている間に俺は回復薬を使用し、弓矢を取り出して放った。
「ぐああ!」
「隙だらけだぜ? ディアナ。それに、俺も回復薬でダメージが元通りだ」
「おのれ……」
ディアナは剣を高く振りかざし、今にも俺へ向かって切り払おうとしている。
だが……。
「ぐああ! おのれ、小娘ごときが!」
ユキの放った矢がディアナへと当たった。不意を突かれて焦ったらしく、慌てた様子で防戦態勢へと入っている。
「人間が我に……勝てるわけがない!」
「ディアナ、お前が今相手にしているのは人間でもモンスターでもない。俺たちの……絆の力だ!」
「そのようなものに……我が負けるわけが……」
俺も弓矢で狙いを定めているので、ディアナも防御に集中している。攻撃を仕掛けてくる様子はない。
その隙に……。
「キリノ様、お待たせしました!」
俺が先程投げつけた剣を、ユキが引きずりながら持ってきてくれた。アイアンソード、ユキにとっては重たかっただろうに……。
「迷惑かけてごめんな。ありがとう」
「いいえ。それより、キリノ様……」
「ああ、そろそろ決着だな」
俺は受け取った剣をディアナへと真っ直ぐ向けた。ユキも隣で弓矢を構えている。
「チェックメイトだ、ディアナ!」
俺は全力で走り寄り、その勢いのままディアナを切りつけた。光の盾で対抗されたが、俺の剣はその守りを粉砕して打撃を与えた。
そして、ついにディアナはその場へと倒れ込んだ。その直後、いつも通り討伐メッセージも脳内に流れた。
「勝った……。勝ったぞ、ユキ!」
「キリノ様! 私は信じていました、キリノ様なら必ず勝てると」
「ありがとう、ユキ」
あれ程までに強かった敵に勝てたのもユキのおかげだ。俺一人では絶対に負けていただろう。
「キリノ様、あちらに何かが……」
「何!? まだ敵が……!」
急いで振り返ったが、どうやらその心配はなかったようだ。モンスターではなく、白い物体が宙に浮いている。
近寄ってみると、それがルークのチェス駒だということがわかった。
「キリノ様、それは一体……」
「今説明を見ている。……どうやら、ワイルドベアーの時と同じように、使用することで仲間モンスターを召喚することができるらしい」
「それはもしかして、先程のモンスターが仲間になったということでしょうか?」
「試してみよう」
俺はそのアイテムを使用した。
すると……。
「我が主よ、お呼びか?」
目の前にディアナが現れた。
「おお……。ダンジョンのボスが俺の仲間に……」
「心強い味方が増えましたね」
「ああ。でも、俺にはやっぱりユキが一番のパートナーだけどな」
「そんな……。私は、キリノ様が勝つためにパーティから外していただいても構いません」
「俺はユキが隣にいてくれないと戦えないダメ人間なんだ。だから、一緒にいてくれないと困る」
「キリノ様、やっぱり私を……」
「ち、違う! そういう意味ではなくて……」
また勝手な勘違いをされている。何だか気まずいし、さっさと帰ろう。
「とりあえず城に戻るぞ。向こうに魔法陣があったはずだから」
「了解です」
「承知」
まあ、何はともあれこのダンジョンもクリアできたし、仲間モンスターも加わった。
この調子ならばカミヤに追いつくことができるかもしれない。




