悲痛なる最善
強烈なダメージに耐えつつ、迫り来る敵を一掃し続ける。体がふらついてきたが、そんなことを気にしてはいられない。
こうするしか道がないのだから、これが最善なのだから……。
「キリノ様……もうやめてください! こんなの……こんなの見ていられません!」
「……悪い、心配かけて。でも、大丈夫だから」
俺は無理にユキへと笑顔を見せてから、モンスターの大群へと向き直った。
ゆっくりと目を閉じ、深呼吸をしてから足元の赤いタイルを思いっきり踏み抜く。再び視界が真っ赤に染まり、灼熱の中でモンスターたちの断末魔が鳴り響いた。
それと同時に、炎は俺の体力も確実に蝕んでいく。もう叫ぶ体力すらない。
「キリノ様ー!」
猛烈な爆音と痛みの中、ユキの叫ぶ声が微かに聞こえる。でも、止めるわけにはいかない。
それにしても、この罠の威力は絶大だ。さすがにダメージが蓄積されてきて、立っているのも辛くなってきた。
だが、おかげで敵の数も減っている。このまま自爆を繰り返せば、後十回以内には殲滅できそうだ。
自分でも相当狂ったことを考えていると思う。その自覚はあるが、他にどうしようもない。
「キリノ様……もうがまんできません! 私も戦います!」
ユキ……やめろ。この大群へ立ち向かうなんて無謀だ。
何とかして止めないといけないのに、体が重くて動かない。ユキの方を振り向くことも、声を出すこともままならない。
そうしている間にも、ユキの走る足音が背後から近づいてくる。
「キリノ様、すぐに助けますから!」
すぐ隣で声が聞こえ、直後前方へと走り抜けるユキの姿が見えた。その先には三体のワイルドベアーと二体のアーチャーが待ち構えている。それだけではなく、その後方にも次の軍団がしっかりと控えているので余計に不安だ。
いつでも助け出せるようにリュックから薬瓶を取り出し、それを握り締めながら状況を見守る。
ユキの苦戦を予想してのことだが、それとは裏腹にユキは善戦していた。弓矢の狙いを定められないように移動しながら、敵には目もくれず落ちているアイテムへと向かっている。
そして、その場所まで辿り着いたユキは足元のアイテムを拾った直後、一瞬の迷いもなく即座に使用した。どうやらそれは魔法書だったようで、部屋中の敵を雷が襲った。
その攻撃が収まった後に様子を確認すると、あんなに大勢いた敵軍が一体残らず消し飛んでいる。
ユキがこれだけ多くの敵を全て倒したんだ。俺を守るために……。
「キリノ様、大丈夫ですか?」
気付くとすでにユキはこちらへ戻ってきていた。そして真っ先に俺のことを気遣い、回復魔法をかけてくれている。
「ありがとう、ユキ」
「いいえ。それより、もう二度とこんな無茶をしないでください」
そう言ってきたユキの表情は、今にも泣き出しそうなくらい悲しさに満ちていた。俺が苦しむ姿を見ているのが辛かったのだろう。
だけど、それは仕方のないことだったんだ。
「ごめん、ユキ。それは約束できない」
「どうしてですか……?」
「どうしても自らを犠牲にして戦わなければいけない時はある。さっきだってあれが最善だったから、唯一の活路だったからそうしたまでだ」
「そんな悲しい最善……嫌です!」
「ユキ……」
俺がユキを大切に思い傷ついてほしくないと願うように、ユキも俺に苦しまないでほしいと考えているのだろう。
その気持ちはうれしいけど、自らを傷つけながら戦うようなことはしないと誓うことはできない。
だが……。
「なるべく、ユキを心配させないように努力するから……それで納得してくれないか?」
「あ、えっと……その……。申し訳ございません、困りますよね……」
「いや、俺のために言ってくれてるってわかるよ。ありがとう」
「キリノ様……」
ユキが頬を赤く染めている。また例の勘違いをされている気がして、俺まで恥ずかしくなってきた。気まずい空気になるのは耐え難いので、話題を逸らそう。
「そうだ、敵も全て倒したことだしアイテムの回収をしよう」
「そ、そうですね」
ユキもなんだか慌てた様子だ。やはり、変なことを意識していたのだろう。
俺も別なことを考えようと努め、アイテムの回収に専念する。魔法書や首飾り、それから弓矢も落ちていた。
首飾りは豊穣の首飾りというものが一種のみで、満腹度の減少を抑える効果があるらしい。レベル上げの間は便利なので、早速眠り除けの首飾りと付け替えた。
残るは魔法書と弓矢だ。弓矢はブロンズ製で少し重いから俺が使うことにし、魔法書はいざという時のためにユキへ渡した。それらは二冊あり、雷で攻撃するサンダーと敵を眠らせるスリープだ。どちらもいざという時に心強い武器となるだろう。
他にも様々な効果の薬瓶が落ちていたので、それはリュックへと入れておいた。
そうして全てのアイテムを確認した後、新たにそのフロアに湧き出てくるモンスターを倒してレベルが上がるのを待った。
またこういう危険に見舞われるかもしれないから、次はしっかりと戦えるように……。




