強敵サマナー
アーチャーのように特殊能力を持った敵への対策、そのヒントを得るために過去の記憶を呼び覚ます。そうして以前プレイしたゲームの記憶を辿りつつ、部屋内のアイテムを回収した。これまでの経験から何か予測できればいいのだが……。
そういえば、敵を呼び寄せるタイプのモンスターがいたはずだ。そいつに関してはとても嫌な思い出しかない。しかも、召喚される敵がこれまた強力だから困る。
このゲームでもそんな敵が出てくるかもしれないから、今の内から警戒しておこう。ただの杞憂かもしれないが、何となく今いる敵の種類がその時の構成に似ている気がする。
「キリノ様、この部屋のアイテムは全て回収しましたよ」
「あ、ああ。すまない、少し考え事をしていた」
「何か作戦が浮かんだということでしょうか?」
「いや、作戦というより……嫌な敵を思い出してな。弓矢使いと近距離型の強力なモンスターという組み合わせから、その時のモンスター構成を思い出してしまって……」
「偶然とは思えませんね。同じタイプのモンスターが用意されているかもしれません」
「ああ、そうだな。どのモンスターがどういった能力を持っているのかわからないから、初めて見る敵は慎重に対応しよう」
「はい。気をつけます」
その部屋から移動し他の部屋の探索を開始したが、戦闘はなるべく通路で行うように心がけた。そうすれば万が一大量の敵を召喚されても、一度に相手する敵はそう多くはならないからだ。
俺が以前プレイしたゲームでもそれが定石化されていた。うっかり部屋で囲まれた場合は、アイテムで切り抜けつつ少しでも早く通路へ逃げ込むといった感じだ。
そうしてしばらく探索を続けていると、初めて見る敵に遭遇した。そいつは黒いローブに身を包んでおり、いかにも何かしてくるような雰囲気に満ちている。
「ユキ、後ろを頼んだ!」
「はい! しっかり見張っておきます!」
今のところ後方から迫ってきている敵はいないようだが、弓矢を使う敵もいるから気をつけないといけない。だから盾を一応渡しておいた。
それに、こいつがもし召喚系の技を使用するなら後ろへ敵を呼び寄せるかもしれない。そうなった時のために予め備えておかないといけないからな。
「突然敵が現れるかもしれないから、気をつけろよ」
「了解しました」
ユキに警戒を促しておいたし、これでできることは全てやった。後は戦うだけだ。
前方からゆっくりと歩み寄るその敵へ、俺は剣を振り下ろす。だが、その斬撃が届く直前、敵は手にした杖を掲げた。その途端、一瞬だが杖の先端の宝玉が赤く光り、倒れたそのモンスターの後ろから新たに同じ種類の敵がこちらへ向かってきた!
「キリノ様! 敵がいきなり……!」
「何とか耐えてくれ!」
やはり、この敵が俺の恐れていたタイプのモンスターで間違いない。脳内に流れたモンスターの討伐情報によれば、こいつの名前は……サマナー。その名前を和訳すると召喚士だ!
前方からだけなら全く問題ないのだが、後方からも襲われているというのはやはり危険な状況だ。このままではユキを守ることができない!
一刻も早く後方の撃退に回るため、俺は即座に二体目のサマナーに剣を向ける。しかし、またしても先程と同じ結果となった。その攻撃が当たる直前に、サマナーは新たにワイルドベアーを呼び寄せたのだ。
「キリノ様! 後方、アーチャーの背後にワイルドベアーがいます!」
「あえて倒さないでおけ! アーチャーをワイルドベアーからの壁にするんだ!」
「ええっ!? り、了解です!」
我ながら苦肉の策だ。一応ブロンズの盾はそれなりに大きいから、アーチャーの攻撃を防ぐことができると思うのだが、それでも隙を突かれる危険性はある。
少しでも早く倒しきるために俺はワイルドベアーとの距離を縮め、一気に攻撃を仕掛ける。何とか最速で倒すことができたが、俺にも重い一撃が入った。盾を装備せず、なおかつこの至近距離でまともに攻撃を受けたため激痛が走る。
だが、これで前方は全て片付けた。後は後方の軍団だけだ。
「ユキ、俺がそいつらの相手をする。位置を換わってくれ……」
「はい、キリノ様。……キリノ様!?」
ユキが俺を見て驚く。ふらついている俺の様子を見ての反応だろう。
「心配ないから……」
ユキと場所を換え、盾を拾い上げるのと同時に前方へと剣を突き出す。アーチャーはその一撃で沈んだらしく、その背後から今度はワイルドベアーが飛び出してくるのが見えた。俺はそれを盾で受け止めつつ、剣をその首へと突き刺す。
我ながら、淡々と行動していると思う。痛みのせいで、心の中にあった恐怖だとか気迫だとかいう代物が吹き飛んだのかもしれない。
だから、こんなにも無感情で敵へと応対したのかもしれない……。
「キリノ様! 大丈夫ですか!?」
「……ああ、心配ない。ユキが無事でよかった」
「そんな……。あ、そういえば回復魔法使えるんでした。今かけますから」
ユキの手が光り、俺はその光に包まれた。痛みが徐々に和らいでいく……。それと同時に、少しずつ気分も元に戻ってきた。
「ありがとう、ユキ」
「い、いえ。すぐに気付かなくて申し訳ございません!」
「気にしなくて大丈夫だよ。ユキのせいじゃない。ただちょっと、敵が強すぎただけだから……」
地下五階にしてすでにこの強さか……。マップに全部で何階まで続くのかが書いてあって、それによると最下層は地下二十階だ。まだまだ先は長いというのに、この時点でこれだけ苦戦するなんてな……。
ここからさらに階層を進んでいくのが怖くなってくる。
だが……。
「ユキのおかげだよ、俺がこうして戦えるのは」
「え!? ええと……?」
ユキと一緒なら、少しだけその恐怖が薄れる。俺一人だったらここまで来られなかったかもしれない。それこそ最初のダンジョンで、敵が怖くなり逃げ帰っていたかもしれない。
実際、試験会場に遅れて着いた段階ではもうあきらめようと思っていたし、それだけメンタル的に弱かった。
だけど、ユキがこうして隣にいてくれるだけで何だか勇気が湧いてくる。
「わ、私、あまりキリノ様のお役に立ててないと思いますが……」
「そんなことないよ。さあ、今度は苦戦しないように、レベル上げやアイテム回収に向かおう」
「あ……は、はい!」
少し戸惑い気味のユキを連れて、フロアの探索を進める。
そうしている内に、あれ程苦戦したサマナーにも段々慣れてきた。今では召喚される前に倒しきることができるし、もし召喚されても今のユキならアーチャーくらいは問題なく倒せるだろう。
時々ポイズンスライムという紫色の有毒モンスターが出現したが、攻撃される前に倒せるため特に問題はなかった。
順調にレベルもアイテムも整い始めたので、俺はユキと共に地下六階へと続く階段を下りた。




