本音
目が覚めると目の前には白い天井が見える。ここはどこだ?僕の部屋の天井は困難じゃなかったはずだ、とぼんやりした頭で考えるけどすぐに頭はぼーっとして考え事なんてしたくないと指示を送っている。
わかったよ、と自分に言い聞かせ寝ることにした。寝ることにしたというよりはなぜか体が全く動かないので寝るしかないといったほうが正しいのかもしれない。
「………え……えって……ば………」
何か聞こえてくるけど答えるのもめんどくさい、というか本当に体が動かない。
この人には悪いけど堂々と無視させてもらおう。
「ねえ。ねえってば!」
正直にいうと体は確かに動かないけど意識はわりとはっきりと残っていたので何を言っているのかなんて耳が痛くなるほどわかりきっている。返事なんてできるわけがない。彼女とあんなことがあって再び顔を合わせて話すなんて絶対にできないでも何かがおかしい。
今まで僕が感じたことのないぬくもりが右手を包んでいる。
まさか……
瞼は鉛のように重かったが、そんなこと気にならないぐらい僕は焦っていた。目をこじ開け、目だけを不器用に動かしみえたのは、永山さんが泣きながら僕の右手を握っているところだった。
体を無理やり急に起こし彼女のほうを見る。さびたロボットを整備せずに急に動かしたようなものなのだから体は軋み、もう一度動かしたら体がばらばらになってしまうんじゃないかと思うほどの激痛がする。
「なにをしてるんだ。僕に触れちゃだめだ。君も……」
大きな声を出したつもりだったのだが、声なんて出るはずもなくかすれてきちんと伝わったかの稼働かもわからない。
「私嘘をついた。言ってはいけない嘘をついたの。だからそれを伝えないと。だから」
慰めなのか、どうなのかはわからない。きっと彼女は僕が今この状況になったのは自分のせいだと責任を感じているのかもしれない。
だったらそんなことはないと僕が言わないと。本当に彼女のために?僕は騙されたのに?
「ごめんわかったからとりあえず手を放してくれないと君が危ないから」
「でも……」
「頼む放してくれたら、話しもするから」
そういうと渋々ながら彼女は名残惜しそうに手を放す。どのくらいの時間僕の手を握っていたのかわわからないけど彼女も僕に触れていた限り相当疲弊しているはずだ。これ以上は本当に危ない。
「ねえあの時本当の理由をまだいってなかったでしょ?」
「本当に君は僕を困らせるのが得意だね。ああ確かにそうだね。話さなかったのは確かに悪かったと思う。でも君の理由を聞いた後じゃ話す気にはならないね」
「信じてもらえないかもしれないけどあれは嘘なの」
「もう何が何やら、それにあんな大事な場面で嘘をつく理由がぼくにはわから」
「あなたの本当の理由が知りたくて」
「え?」
「ある程度は話してくれたけど全部言ってくれてないのはあなたの顔をみれば一目瞭然だった。それについて話してくれないあなたに勝手に私が腹を立ててしまった。もう何でも話してもらえると傲慢に浸って、勝手に期待を裏切られたように感じてしまった」
「………」
「わたしねある程度君の情報は知ったいたの。体に長い間触れたらいけない病気ーなんて先生が言っていてそんなのがあるのかー程度にしか思ってなかったんだけどね、2年になって同じクラスになって君を見ていると少し興味がわいてきたの。最初は本当にそのくらいの軽い好奇心だったの。でも話してみるとあんまり笑わないし変な性格をしている君と話しているとなんかその体質よりも君自身に興味がわいてきたの。私の本当の話は終わり」
「僕は………」
「無理に今言わなくてもいいし、言いたくなければ言わなくてもいい。でも私は聞きたい。君の話を聞きたい」
「僕は………幼稚園の頃………」
「友達を殺してしまった」
「え?」
彼女の顔は固まっていた。僕も額から嫌な汗がたれてくるのを重い腕を使って拭う。
「まだ自分の体質に気が付かないときに友達のゆうきくんって子がいたんだ。その子とピクニックに行ったとき僕は彼とは仲が良くて手をつないで歩いていたんだけどそのときに急にゆうきくんが倒れて、彼はそのまま亡くなった。僕が彼に長い間触れていたからだ。その事件の後に母にあなたは人に触れるといけない体質だと聞かされたんだ」
「じゃあ君が友達を作らないのは………」
「そうゆうきくんに対する罪悪感だね。僕が彼の命を奪ってしまったのに僕が友達を作って生きているのなんて許されるはずがないと思うだ。これは僕の勝手な罪滅ぼしなんだ」
「そんなのおかしいよ。確かに罪悪感は消えない。でもそれの言いなりになるのは違うと思う。君の罪悪感は自分が自分を許せないから起きてるんだと思う。だから一歩踏み出して自分を許してあげてもいいと思うんだ」
「でも」
「すごい難しいしつらいよね。前に進もうとしても何度も自分の足を止めてくるかもしれない。でもそのたびに立ち止まっていたらやがて進むことをあきらめてしまう。だから踏ん張ってもう一歩駆け出してきて、私も手伝うから」
「手伝う?」
手伝う、今まで一人でやってきた僕には不慣れな言葉。
「そう1人じゃないから」
きずいたときには目の前は水の中に入った時と同じでピントが合わなくなっている。目の頭が熱い。涙があふれていた。
完全ではないにしてもいままでの呪縛から少しは解き放たれ、自分自身で自分を許すことができたのだろう。こんなこと1人では絶対にできなかったことだろう。彼女には頭が上がらない。ほんとに救われてばっかりだ。
「永山さん本当に」
扉が開く音に遮られる。扉のほうに目を向けて目に入ってきたのは世の中に一人しかいない僕の唯一無二の母だった。