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ふれないで   作者: 内田倫
2/10

水族館1

きさらぎ駅に着くとまず目に入ってきたのは大きなタワーだった。

土曜日ということもあり人は波のようにその大小さまざまに絶えず流れていた。


時間は集合時間の30分前だった。

彼女はまだだろうと喫茶店によろうと駅から出てすぐ左手にある店のガラスの向こうに君を見つけた。


彼女はこちらに気が付いていなかったので、店の中に入り同じカウンターの隣の席にドスンと座った。


「あ、ほんとにきてくれたんだね!」


「来ないと思ったの?」


「んー言葉の綾みたいなものだし、きにしないで」


「あやとりが好きそうにはみえないけどなー」


「そういう君は一日中やってそう」


「1人でね」


「そう!」


彼女は眩しい笑顔を浮かべながら上機嫌そうに言った。

あやとりがをしなさそうというのは皮肉のつもりで言ったわけではなかった。

彼女は器用というよりは元気いっぱいでなにごとも全力な血の熱そうな子だと思ったからだ。


そんな自分の勝手な思いを膨らませてぼーっとしていると、彼女は僕の顔を覗き込んで無邪気に笑っていった。


「それじゃ、いきますかー!」


~~~


このきさらぎ駅は遊びの場としてはなかなか最適でど真ん中にきれいな貝殻で作られたような白いタワーを取り囲んで水族館や遊園地など多くの娯楽施設が並んでいた。


今日はそのうちの水族館に行くらしいが………


「ねーーージェットコースターすごいよ!」


「すごいね!こんな高いなんて」

正直に言うと友達なんかいない僕はこんな遊びの場に来る機会などなく話は親から聞いたことがあったが、見たことなんて今の今までなかった。

初めて見る光景に僕は確かに心躍らせていた。


「お、やっと君も乗り気になってきたねえ」


「ありがとう、君のおかげだよ」


「どういたしまして。それにしても君もそんな顔できるんだね~」

彼女は笑顔満開になったと思ったら、すぐにいじわるな顔を作っていった。


「君ほどじゃないけど僕だって顔で表現くらいできるよ」


「よかった、仮面と話しているんじゃないかと心配してたんだよ」

彼女はまたいじわるな笑みを浮かべて僕をからかった。


~~~


水族館は駅を出てタワーを中心に左周りに歩いていくとタワーをはさんでちょうど駅の反対側に並んでいた。

入口はトンネルのようになっており、外とは対照的にかなり暗かったので見つけるのに時間はそうかからなかった。


受付に行くとそこには彼女と比べると落ち着いていてかつ大人な感じはするのに若い女の人が対応をしてくれた。


「チケットのご購入でございますか?」


「はい。高校生2枚で」

僕が言う前に彼女は答えた。


すると彼女は一瞬こっちをみて頬を膨らませてそっぽを向いた。

ほんとに表情豊かで彼女を見ているだけでも飽きなさそうだったがこんなことを言ってしまうと彼女に怒られそうなので胸にしまっておくことにした。


受付を通ると中は薄暗く目が慣れるのに時間がかかった。

慣らした目を周りに向けると熱帯魚が泳いでいる水槽が連なっていた。


彼女の顔はなぜかまだフグのように丸くなっていた。

不思議に思い顔を凝視していると、彼女はずんずんとこちらへ歩み寄ってきた。


「なにさ、お姉さんばっかりみて。今日は魚をみにきたんだよ!」


「?はあ?」

僕には何のことを言っているがわからなかったが彼女は僕のことをジト目で見た後にため息をついてあきれ顔で


「まあいっか、いこ!」


と今度は晴れた顔である僕を誘った。


「そうだね」


「それにしても水族館なんて久しぶりにきたなー」


「なんで水族館を選んだの?」


「んー遊園地とかよりも行きやすいかなって」


「行きやすいって………遊園地すぐそこにあるよ?」


「そういうことじゃなくって………んーなんて言うんだろう」


「まあ遊園地は疲れるしね」


「そうそういうことだよ。うん」


「適当だなー」


「まあまあいいでしょ、そのくらいがちょうどいいんだよ」

ウインクをしてごまかす彼女の表情に僕はたびたび惹かれてしまう。

それがばれるのが嫌で僕は話をつづけた。


「よく考えたら不思議じゃない?話して間もないのにこうやって2人で遊びに来るなんて」


「そうかな?私は普通だと思うけどね」


「友達がいない僕には普通が分かんないんだよね」


「またそんなこと言って………そういえば友達を作らない理由をそろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」


「それは前も言ったようにひとりが…」


「そんなウソ私でもわかるよ。だってそういっているときのあなたの仮面が歪んでいるだもん」

僕は心臓をつかまれたように驚き苦しい気持ちになった。


「まあいろいろさ」

苦し紛れに言った言葉に自分で何を言っているんだと思ったが彼女は予想とは裏腹にそれ以上は追及せずに

「なるほどね」

と珍しく少し沈んだ顔をしていた


熱帯魚の地帯を抜けると道はガラスのトンネルに囲まれていてサメやマンボウなど大きい魚を筆頭に大小さまざまな魚たちが空を飛んでいるように見えた。


彼女はさっきとは裏腹に楽しそうに頭をいろんな角度に変えて魚たちを満喫していた。


「おおきいー!ねえみてみて!」


「みてるよ」


「私じゃないよ!魚たち!」


ハッとして恥ずかしくなり真横を見るとマンボウの顔が笑って僕たちを見ているように見えた。



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