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退廃した世界で、君と……

どこまで書けるかなぁ

 目を覚ました彼が初めに見たものは、空だった。雲一つない晴れ渡った空が、そこにはあった。

 身を起こし、周囲を確認する。

 壁や窓には随所にひびや割れた箇所あり、シャンデリアは落下し照明としての機能を果たしておらず、その代わりというように屋根の殆どが穴あきとなっている。当然のように、壁とか屋根だった瓦礫がそこらじゅうに落ちている。

 所謂、廃墟と呼ぶにも相応しい状態なのだが、それにしては埃や蜘蛛の巣といったものが見受けられないくらいに部屋は綺麗なのだ。

「ここ、何処だ……」

 彼には、この場所に関する記憶が無い。

「………………」

 否、彼の記憶障害はこの場所に関することに限らない。

「何も、思い出せない…………?」

 そう――――

 全ての記憶が、彼から消えていた。


 ◆


 部屋から出て長い廊下を歩く。数分間歩き続け、幾度目かの曲がり角を曲がると広間に出た。広間には下階へと通じる螺旋階段があった。

「…………崩れない、よな?」

 一段、また一段と降りるたびに足元からはイヤな音がする。

 無事に一階へと降りると、目の前には大きな扉があった。おそらく、外へと通じているものだろう。

「とりあえず、中を見てまわるか」

 廃墟は広く、彼が中を覗いた部屋は既に十数を越えていた。

「あの部屋だけ扉が…………」

 彼はある部屋に目を止めた。先程までとは違って扉の開かれた部屋。彼は其処に吸い寄せられるように中を覗いた。

 す

 其処は机と椅子、そして一つのベッドがあるだけの簡素な部屋であった。しかし、一点だけ他と明らかに違った点がある。

「女の子…………。眠ってるのか?」

 そう、この部屋には人が居るのだ。

「…………んんっ…………むぅ」

 少女は今、椅子に座りながら眠っている。

 かすかな寝息をたてながら、安らかに眠る少女。顔立ちは整っており、髪は長く肩の辺りまで伸びている。

「少し、待ってるか」

 小声で言って、彼は壁にもたれながら彼女が起きるのを待ちだした。


 ◆


「おはよ、よく眠れた?」

 少女が起き、少年が挨拶をする。

「…………っ!」

 突然の声に少女が目を見張り彼を見つめる。数秒の後、少女は立ち上がるとお辞儀をして――――

「おはようございます、御主人様」

 御主人様と、彼をそう呼んだ。

 言われ、理解が追い付かないと言う風な彼を無視して、少女は言葉を続けた。

「いつ、お目覚めに?」

 首をコクンと傾けながら、少女が問う。

「えっと、今さっき…………。それより、御主人様っていうのは……?」

 答え、彼も疑問をぶつける。突然見ず知らずの少女に御主人様と呼ばれたのだ、疑問に思うのは当然である。まぁ彼の場合は記憶が無い故、見ず知らずでないはずがないのだが。

「御主人様は御主人様です。私が仕えるべき主、それ以上でもそれ以下でもありません。それが何か?」

「えぇ…………」

 とりあえず、彼は自身の現状についてから話し始めることにした。


 ◆


「成る程、記憶喪失ですか。つまり、記憶が無い故私の事もわからないので突然御主人様と呼ばれても困る、と」

 場所を移して別の部屋。向い合わせになったソファに座りながら、二人は話す。

「まぁ、そういうことだね。こっちのこととか、何か知ってたら教えてほしい。あと、君の事も」

 少し思案した後、

「では、私がお教えできうる限りのことをお話しさせていただきますね」

 了承の返事がきた。

「助かる」

 少女が語りだす。

「まず、御主人様についてですが私がわかることは何も…………」

「何も……? 何もわからないってこと?」

「えぇ、そうです。私は御主人様に仕えろと命じられただけですので。私が御主人様と話すのも、これが始めてです」

「そう、か…………。」

 当てが外れた、そう彼は落胆した。結局、自分については解らずじまいで記憶が戻るのを待つしかないようだ。

「次に私についてですが、先程申し上げた通りに私は御主人様に仕えるために作られたオートマタ、簡単に言えば人造人間というものですね」

「オートマタ、人造人間…………」

「御説明しましょうか?」

「あぁ、いや、大丈夫。だいたいはわかる、と思う」

 言葉として理解できても、現実として受け入れがたいというのが、彼の思うところであった。記憶がないとは言え、彼の持つ常識の範疇では有り得ないもののように思えたのだ。

「では、続けますね。眠る御主人様を見守り続けること、それが私のこれまでの仕事。これからは、御主人様次第といったところでしょうか」

「じゃあ、その任を解くっていうのは……?」

 そう、提案してみると

「構いませんが、その後私はどうすれば?」

 なんて、真顔で返してくる。

「うーん、やりたいこととか? 何か無いの?」

「ありません。強いて言うなら、仕えることでしょうか」

「わかった、とりあえず保留で」

 彼女が仕えること以外何も考えていないなら仕方がない、と彼は少女を自分から解放することは諦めた。

「じゃあ、あとは世界のこととか」

「それならば、外で話しましょうか。お手を」

 立ち上がり、手を差し出される。その手をとって彼が立ち上がり――――

「えっと、名前は…………」

 礼を告げようとして、名を知らぬことに気づく。

「Myucel……。ミュセル、とお呼びください」「ありがとう、ミュセル」


 ◆


 かくして、記憶を失くした少年とオートマタの少女の物語は始まった。

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