私達の2次会
痒い所に手が届く人になりたいと思っております。
「3月になっても、まいっちの居場所だけ分からなくて、一縷の望みをかけて、篤志君に訊いて、さえっちのマンションを訪ねてみたの。」 そう云えば、さえっちの家に行った時は、いつも2人だけの時だけだったな。みんなで誰かの家に集まる時は、いつも私の当時の賃貸の一戸建てだった気がする。ここちは、さえっちの家に行ったことなかったんだ。私も、友達をあんなに家に招待したのは、他では例がない。だからか、ママもこのメンバーのことだけはよく憶えてるのだ。ま、それはさておき、
「じゃあ、2人で行ったの?」
「ううん、場所だけ聞いて、1人で行ったんだよ。インターホン押して、初め声だけの応対だったんだけど、声が若くて、お母さんの声と違うから、あれ?と思ったんよ。」
「え?」 風香ちゃんが居たってこと?
「そしたら、ミノリンの友達ですか?って云うし、さえっちには兄弟いないはずだし、いとこでも来てるのかと思って、自分のことちゃんと名乗り直したら、❝城崎さんとも、共通のお友達ですか?って云われて、流石にびっくりしたけど、❝どうして、まいっちのことを知ってるんですか?❞って訊いたら、出て来てくれて、お兄さんが高校の同じクラスが縁でって、まさかまいっちもそこに居たとはねえ。」
「ここちは、まいっちがさえっちと高校でも会ってたこと、先に知ってたんだ。」 まりねが納得の相槌を打っていた。
「しかも、彼女のお兄さんこそ、さえっちが愛して、自分の命と引き換えに生き返らせた相手だと分かって、もう2度びっくりだったよ。」
「ていうことは、まいっちは、高校でもさえっちの力を目の当たりに見たんだよね。」 まりねの言葉に、私も改めて、自分が味わった超現実に身震いした。
「そんでね、中にあげてもらって、さえっちのお母さんは留守で2人きりになって、色々経緯を教えてもらったって訳なんだ。勿論、まいっちの住所もね。」
「でも、どうして風香ちゃんがそこに居たのかな?」
「さあねえ?そこまで根掘り葉掘り訊く訳にはいかないしねえ。」 それもそうだ。
「それにしても、僅か2週間の間にピアノとか楽譜を用意してくれたんだね。」
「いやあ、それはね違うんだよ。実はまいっちには絶対来てもらうつもりで、半年前から計画しててさあ、だから、かなり焦ったんだ。」 日本のどこにいるのかも分からなかったのに?待てよ、国内とも限らないじゃない。そんなに私のことを。
「ごめんね、ずっと何の連絡もしないで。」
「いいんだよ。ちゃんとこうやって来てくれたんだし、何てったって演奏は最高だったよ。それをまりねやくっちょと一緒に聴けたからさ。ね、まりね。」
「うん、そうだよ。で、くっちょもって、どういうこと?」
「へへ、ちゃんとスマホ越しに中継したんだよお。ほら、演奏直後にくっちょから返って来たコメだよ。」と、ここちのスマホの画面には、❝ありがとう、超感動した!❞という文字と、くっちょらしい絵文字が添えられていた。それにしても、ここちの企画力というべきか、周りのみんなを盛り上げる能力は凄い!そう云えば、昔からみんなでどっか行く時は、ここちならではの四次元ポケットがあったな。ここで1枚と思った時には、既に自撮り棒をセッティングしてたし、プリクラやカラオケでの盛り上げグッズにも、自分が目立つことをせず、みんなが楽しくなる工夫をしてたのには舌を巻いたもんだ。そんなここちが一流企業に合格したことは、何か当然だと思えて来た。しかし、そんなここちでも、盛り上げることが全く出来ない時期があった。特に、さえっちの希望でクリスマスイブにクラスの15人くらいでカラオケに行った時だ。あの時ほど、ここちがさえっちの期待を裏切ったことはないだろう。おかげで、さえっちは私に最後の希望を懸けて来て、恐怖とプレッシャーですっかりガチガチになったんだ。
「ねえ、この後の2次会はどうするの?」 まりねの期待を込めた問いに、ここちは意外な計画を切り出した。それは、あるいはもっともな判断なのかもしれない。
「2次会は、2つに分けることにしてる。そんで、私の方に来るメンバーはもう決めてるんだ。後は、あかねっちと美菜ちゃんと篤志君が他のメンバーをまとめてくれることになってるし、心配ない。」
「もしかして、さえっちの?」 確か今日までお彼岸だし・・・
「流石まいっち、察しがいいね。そう、さえっちのお参りに行くんだよ。あの不甲斐ない自分のことも謝りたいんだ。」 だね。後にも先にも、あんなに取り乱したここちを見たのは、さえっちが飛び出した後のあのカラオケルームだけだ。それだけ、友達を守れなかった罪の意識に苛まれていたんだよね。そういえば、今日集まったほとんどが、あのカラオケ店にも来たメンバーにダブってることを、今更ながら気付いた。これも、さえっちの導きなのか?それにしても、運命って凄い!あの時同じカラオケ店に、これから行くお寺の跡継ぎが居たんだ。そして、本来そこに埋葬されるはずだった彼もだ。
まりねに賛同を得た後、ここちがくっちょに電話してるのを見て、私はそのお寺に住む友達にかけた。
「あ、入間君、舞です。急にごめんなさい。」 彼は、大宮学園高校の2年の時の同級生で、坂下君の親友でもある。
「よう、舞、クラス会どうだ、楽しんでるか?」
「え、どうしてそれを?」
「風香ちゃんから聞いてたんだ。びっくりさせたか?」
「へ、そうなんだ。」
「今日これから来るんだろ?だいたい4時くらいって聞いてるけど。」 何だ、もう連絡済みか。
「うん、それくらいに行けると思うけど、私の友達も何人か一緒で・・・」
「それも了解済みだから、安心して来いよ。」 先に電話を切ったここちがウィンクしてる。敵わないな。何でもお見通しなんだ。流石だよ、ここち。しかも、お供えするお花は、まもなく花屋の山本君ところから会場に届いた。
それから、もうしばらくわいわいがやがやと楽しい時間を過ごした後、みんなで記念撮影大会をして、1次会のお開きをした。会場のビルを出たところで、池袋の2次会に出るメンバーを残して、大宮に向かう私達3人と杉野さんは、池袋駅に向かった。
「杉野さんは、2次会出ないの?」 歩きながらのまりねの問いに、
「今日この後、原宿でちょっとしたイベントがあるのよ。」 そう答える杉野さんの声が後ろから聞こえる私の横で、ここちがスマホでさっとメールを送信していた。一体誰にしているんだろう?ほどなくして駅に着いた私達は、東口の改札を抜け、先の山手線ホームへ向かう杉野さんに手を振り、埼京線のホームに上がった。するとそこには、
「くっちょー!」 まりねが真っ先に抱き付いていた。小さくて太っちょの彼女は、確かに増々太っていた。
「まりねえ、久しぶりい!ねえ、あんた痩せたんじゃない。」 人の流れを少し避けながら2人はしっかり抱擁していた。
「くっちょの肉をちょっと分けなさい。」 そんな会話を横で聞きながら、
「くっちょは仕事じゃあ?」 ここちに訊いてみた。
「美菜ちゃんには1日みたいなこと云ってたらしいけど、これの為に半日の約束にしたんだって。」
「ここち、まいっち、久しぶりい!」 くっちょは、私達2人とも次々抱擁し、ここちは労っていた。
「まさか、くっちょにも会えるなんて、夢みたい。」 あの日のが正夢になったんだと思った。全くその通りに、ずるべえだけいない。ずるべえは、あの騒動からどんどん私達から離れてゆき、すっかりバドミントンに没頭する様になってた印象のままだ。ここちと1番仲良かったはずなのに、ずるべえのことは何も云わない。きっと2人の間で何かあったのだろう。
「それにしても、丁度いいとこで待ってたね。」 まりねが感心してた。
「❝いけふくろうから1番近い階段を上がってすぐの、なるべく人の流れを阻害しない場所❞という緊急指令なんだ。」 あの時のここちのメールか。
「人の流れを阻害しない場所って・・・」と云って、まりねが笑っていた。
「ねえ、ちびでもでぶだからってねえ。」と云うくっちょは満面の笑顔だ。開けっ広げなところもそのままだなあ。くっちょが本気で云ってないことはお見通しで、ここちも笑っていた。
それから私達は、まもなく入って来た電車で大宮まで乗車し、駅からはタクシーで入間君のお寺の前まで行った。その道すがらの会話で分かったことだが、まりねやくっちょも、お互い会うのは2年ぶりらしい。まりねはその後引き籠りになり、くっちょの進んだ私立の高校は、他に当時のクラスメートはいなかった様だ。ここちも、高校で色々やっていて忙しくて、大和田さんや美菜ちゃんらとばかりと接していた様だ。
「舞、久しぶり!」 そんな私達を真っ先に出迎えてくれたのは、大宮学園高校に転校して1番初めに声かけてくれた千里ちゃんだ。千里ちゃんは、高2の終わりに妊娠して退学して、入間君が卒業するのを待って結婚したんだ。色々あって、式は身内だけで簡素にして、披露宴はせずに籍だけ入れて、晴れて一緒に暮らすんだというお報せだけは聞いて知っていた。彼女は、男の子を抱っこして、お寺の門のところで待っててくれた。すっかりママしてるんだ。
「千里ちゃん、私の中3の時の友達で、左からここち、まりね、くっちょ、そんでこちらが、えっと今は入間千里さんと長男の・・・」
「かいしょう、って云うの。」 そう云えば、11月に生まれたとは聞いていたが、名前はまだ聞いていなかったな。一通り挨拶を交わした後、
「どういう字を書くの?」
「世界の界に笑うって書いて、界笑。世界を笑顔に導ける人にって、健と相談してつけたんだ。」 私のピアノに懸ける想いと一緒じゃんと、我ながら大それてることに気付いた。
「凄く立派な名前だね。」
「実はね、佐伯さんとの出会いで色々思うことあって、その思いから来た気がするんだ。そしたら、お寺のお坊さんにぴったりの名前になったんだけど。ね、界笑、おまえは生まれながらの坊主なのかな?」笑いながら云う千里ちゃんに、赤ちゃんも笑顔で応えている。
「入間君は?」
「今ちょっと、急を云われて中で用事してるの。又後で顔出すよ。じゃ、これ。又後で寄ってね。」と、千里ちゃんから水桶と柄杓を受け取ると、傍の水道で水を貯めて、家の中に入る千里ちゃんに手を振ってから、さえっちのところへ向かった。
ご愛読頂きまして、ありがとうございます。<(_ _)> お花の調達は偶然です。たまたま花屋さんがいたもんですから。




