私が知らなかったこと
色々な謎を少しづつ解き明かして行きたいと思います。
「ここち、ありがとう。」 みんなの前でとても気持ちよく演奏出来て嬉しくって、お辞儀しながら割れんばかりの拍手もらった後、ピアノの傍で立って見守り聴いてくれてた彼女に駆け寄って、手を握った。
「こちらこそ、久しぶりにめっちゃ癒されたよ。」 優しい笑顔だ。
「ほんと、凄くよかったよ。」 後ろからした声に、
「まりねもありがとう。」 振り返って、笑顔で応えた。まりねも傍で聴いててくれたんだ。
「うん。」と頷いた後、少し真剣な顔して、「さえっちと又一緒だったんだね。」そう云ってまりねは、少し伏し目がちになった。
「さえっちは、まりねのことも気にしてたよ。」 まりねの手に私の手を添えて云うと、
「でも、私・・・」 まりねらしくなく、立ったままもじもじしていた。そこへ、
「なあ、清水。良かったら席替わろう。募る話しもあるだろ。俺も柏谷や服部と話したいし。」 清水君が気を利かしてくれた。ランチもだいたい食べ終わっていたから、丁度いいタイミングだ。そんな訳で、清水姓同士チェンジして、まりねはBテーブルに来て、ここちと私の間に座った。山本君も榎戸君も、大和田さんと一緒に綾乃を励ましていて、もう4人の会話になっていたから、こっちは気兼ねなく3人の会話を始めることが出来た。
「ここちやまいっちのところにも、さえっちからの手紙来たんでしょ。」 さえっちは3学期になってから1度も学校へ来ることなく、卒業式が迫ったある日手紙をくれたのだが、私はそのことを誰にも云わないまま卒業を迎え、そのまますぐに新天地山形へ旅立っていた。他のみんなにも来てたんだ。
「うん、来たよ。」 ここちが、私達の方を向かずに、テーブルの中央の方を向いたまま頷いた。
「私ももらった。けど、返事出せなかった。」 私は、遠くを見ているここちを見ていた。
「だよね。私もそう。見殺しにした挙句、怖がって、今更何も云う資格ないと思った。みんなにお姉さんぽいって云われて、上辺だけでその気になって、『何かあったら何でも相談して、守ってあげる。』なんてさあ。笑けるよね。」 苦笑いするまりねの左頬に一筋の涙を見た。
「もういいんだよ。さえっちが望んでたことはそんなことじゃない。さっきまいっちが云ってたこと。ピアノに込められた想い。私達は笑顔でいなくちゃ駄目だよ。」 ここちがしみじみと云った後、私達の方を見て笑って見せた。
「だよね、やっぱ。」 まりねは、ここちと私を交互に見ながら笑顔を作った。そうだよ、だからこそまりねは立ち直り、そう信じたからこそ、ここへ来たんでしょ。それは、私自身への想いでもあった。
「ここちは、返事書いたの?」 恐る恐る訊いてみた。
「書いたよ、一杯。そんで、捨てて、又少しだけ書いて出した。そしたら、一言エールくれた。」
「ここちは強いね。あんな目に遭って、それでもさえっちを守ろうとしたもんね。」 あんな目?
「結局逃げて、まいっちとさえっちの2人だけにしたことに変わりないよ。」 この日初めてここちの暗い表情を見た気がする。そう云えば、中3の後半のここちは、暗い表情でいることの方が多かったな。だから、久しぶりに会った彼女の成長ぶりに圧倒されてたんだ。でも、ここに辿り着くのに、ここちも一杯色んなことを乗り越えて来たんだね。それより、
「ねえ、あんな目って、どういうこと?何があったの?」
「え、まいっち?」 まりねが首を捻りかけて、「あ、そっか、あの時まいっちは、麗香に責められていたさえっちに付きっ切りで、ここちが突き飛ばされたこと知らなかったんだ。」 凄い衝撃が走り、咄嗟に綾乃を見てしまった。
「彼女じゃないよ。瀬田さんだよ。」 私の視線に気付いたここちが、すかさず真実を明かした。瀬田葉月は、虐め4人グループの中で当時1番大きく、ここちとは大きな体格差があった。まりねの云う通り、私は目の前のさえっちを守ることに必死で、そんなことが同時に起こっていたことに気付かなかったんだ。きっとその翌日からだと思うが、その頃ここちは3日程学校を休んだ。そして、再び登校した日から、ずるべえに云われるままに、私達2人から離れた。まりねやくっちょが寄り付かなくなったのも、丁度その頃だ。きっと、ここちがやられているのを見て、怖くなってたんだね。知らなかったのは、私だけ?
「怪我は大丈夫だったの?」
「頭ぶつけて、お母さんには階段から落ちてぶつけたって云ったら、病院連れてかれて、すぐ検査して異常なしでほっとしたんだ。後は、ちょっと足くじいただけで、それもすぐ治ったよ。」 でも、心に負った傷は深かったよね。何も知らなくて、ごめんね。そう云えば、ところで、
「篤志君と話して、それまで知らなかったことが分かったって云ってたじゃない?篤志君、どんな話してたの?」
「病気になってから、学校以外のところで何度かさえっちと会ってたんだって。」 ここちが、少し席を寄せて、こっちを向いて小声で云ったので、私も席を寄せて、耳を傾けると、
「そんなこと云ってたね。病気が治らなくて不安で、さえっちに訊きに行ったって。」 まりねも、小声で対応した。
「じゃあ、私のことも、さえっちから聞いてたのかな?」
「それはないと思うよ。自分の意志とは裏腹に起こるからどうしようもないって云われて、だんだん避けられる様になって、最後に話したのは高1の秋って云ってたからね。」 ここちが即答すると、
「やっぱ、コントロール出来なかったんだね。」 まりねは、さえっちの苦悩に思いを馳せている様だ。辛かったんだよね。つい口を滑らせてあんな暴露話をしてしまった彼を、もう責めてはいないはずなのに、どうすることも出来なくて・・・ 呪いの権化みたいなレッテルを張った元クラスメートから、もう逃げたかったんだよね。だから、もう誰にも会いたくなくて、なのに私と再会したんだ。あれ?じゃあ、
「私の住所は、どうやって分かったの?」 素朴な疑問だった。それがまさか、思いもよらない名前が飛び出した。
「風香ちゃんが教えてくれたのよ。」 それは、ここちが本来知るはずのない大宮学園高校での同級生の妹の名前だった。彼女は、学年で2つ下で、よその学校へ通ってる様だった。だから、初対面は、さえっちのお通夜の時だった。それからその親友の供養とかの関係で数回会っていたが、まさかここちとも面識があるとは意外だった。
「どうして、ここちが坂下君の妹を知ってたの?」 謎の笑みを浮かべるここちに、私は大きく目を見開いて、さぞびっくりした顔をしていたことだろう。
ご愛読、ありがとうございました。<(_ _)> さて、さえっちからの手紙ですが、実は、舞に届いた手紙の内容は、❝パワー❞の26話❝秘密❞に出て参ります。




