S級戦犯のその後
自由って、いいですよね。
「食べたり喋ったりで盛り上がってるところですが、今から1人ずつ前に出て、何か一言お願いしたいと思います。」 マイク越しの声だ。乾杯から10分くらい経っただろうか?篤志君が、さっきここちが挨拶した様に、みんなの前に出ていた。
「一言って、何云えばいいの?」 篤志君側のテーブルの杉野さんが、忙しそうに食べていた手を止めて口を押えながら、如何にも口の中に物がある様な、もごもごした声で訊いていた。
「おいおい、ほうばりながら喋るなよ。」 彼女の隣の服部君が云ってるが、杉野さんにせよ、服部君にせよ随分太ったなあ。その服部君の隣のまりねの細さが際立って見えた。私のすぐ目の前にいる比留間さんも、体操部だった中学時代よりは肉付きがよくなってるみたいだけど、まりねだけは、背が伸びた割りに異様に痩せていた。そんなことを思ってるうちに、❝中学卒業してからのことや、これからの進路のことなどを報告すればいいんじゃないか。❞みたいなことを、男女数人が口々に云っていて、それをとりあえず言い出しっぺの篤志君からということになった。
「僕は、みんなも知ってる通り、中3の2学期の途中急に腎臓が悪くなって、長期入院したり、少し退院して登校したり、又入院したりを繰り返していました。その中で高校受験して都立の普通科に進みましたが、高校行ってから1,2年のうちは同じ様に入退院を繰り返しながら、友達に助けてもらったりして何とか進級して3年になりました。3年なってからは病状がますます悪くなり、4月の始業式の日には再入院して、初めは全然登校出来ないでいました。」 そこまでを彼はたんたんと続け、みんなも黙ってそれを聞いていましたが、次の瞬間、篤志君の語気が急に変わった。
「それがです。5月21日の日食が起こったのを境に、急に体が軽くなって、みるみるよくなったんです。検査しても、それまでの異常が嘘みたいに正常になってて、お医者さんも奇跡だって、びっくりしてました。それで、僕の希望ですぐ退院して学校に戻りました。それからは、勉強の遅れを必死で取り戻して、先日無事高校を卒業しました。」 かなり興奮した口調だった。
「本当に、完全に治ったの?」 篤志君のすぐ傍に座っている風間美菜ちゃんが訊いていた。
「それからも、3カ月に1度念の為の検査受けてるけど、再発することなく、健康そのものです。」と、中学時代には見たこともない、篤志君のガッツポーズまで出たあ! しかしだ、それにしてもみんなは、その意味を知っているかの様な静まり返り方だ。
「この春から、演劇関係の専門学校へ行って、将来は声優になりたいと思ってます。」
「頑張れよ。」 拍手に紛れて、服部君がエールを送っていた。
「時計回りに行くよ、いいね。」 篤志君に代わって、美菜ちゃんが立ち上がった。座っていたから気が付かなかったけど、美菜ちゃんも少しスリムになっていた。勿論、まりねほどではないが・・
美菜ちゃんは、一通り自分のことを云った後、欠席している人の情報があればそれも発表して欲しいと付け加えた上で、くっちょの近況を教えてくれた。くっちょは中学時代まりねと仲良くて、中3の時も2人セットで、こっちのグループに来たり、美菜ちゃんらとくっついたりしていた。それが、おそらくくっちょだけが進学した私立高校に行ってからも、家が近い美菜ちゃんとは時々会っていた様だ。その美菜ちゃんの話によれば、くっちょは下町の小さな町工場に就職して、今日はその職場に行ってるらしい。本当は、出席したがってたらしいが、猫の手も借りたいほど忙しいので、雑用でもいいから来て欲しいと云われて行ってるみたいだ。「みんなによろしく云っといて。」と美菜ちゃんに伝言お願いした様だ。食いしん坊で太っちょのくっちょは益々太ったらしいが、頼まれたら嫌と云えない精力的で律儀なところは、相変わらずくっちょらしいなあと思った。と同時に、そんなくっちょでさえも、さえっちが虐められていたところから逃げてしまうほど、あの頃の麗香達は酷かったことを改めて思い出しもした。
美菜ちゃんの後は、美菜ちゃんと同じ水泳部だった本宮君、体操部だった比留間さん、背の低かったくっちょを一回り大きくした様な杉野さん、確かサッカー部で当時は太ってはなかった服部君と続き、Aテーブルの最後にまりねの番が来た。立ち上がったまりねを見て、益々背が伸びているなと思った。170センチ台後半くらいありそう。当時も170くらいで、一人背が高くてお姉さんっぽかったから、麻理姉と呼んでいたのをいつの間にか縮めて❝まりね❞と呼ぶ様になったんだ。当時もスリムでかっこよかったけど、今は背が伸びたにも拘らず、どう見ても体重は減ったとはっきり分かるほど、痛々しいばかりに細い。そんなまりねが何を云うのか?と思って見守った。
「清水麻理です。高校は普通科に進み、柏谷君と同じクラスになりました。でも、学校で会ったのは2、3回です。というのも、お互いあまり学校に行かなかったり、来なかったりでした。柏谷君はちゃんとした病気でですが、私のは正直さぼりでした。何もやる気が起こらない時期がかなりあって、家に引き籠っては、ネットの友達とだべってばかりいました。2年になる時留年して、嫌になって中退しました。生きてることに虚しさ感じて、拒食症にもなりました。1番痩せてた時は50キロをかなり切ってましたが、今は大分回復して52キロあります。立ち直りのきっかけは、柏谷君と同じで、あの日食の日でした。あの日も、明け方まで起きてて、丁度日食が始まった頃寝て、そしたら夢にさえっちが出て来て、笑顔で『まりね、元気出して。』って云われました。きっと、旅立つ前に私のこと気遣ってくれたんだと思います。その時、何か吹っ切れた気がします。それからしばらくして、ここちからクラス会の話聞きました。みんなの進路が決まった3月開催にしようって云われて、それから必死で勉強して大検受かって、一流大学じゃないけど、合格して一応大学行くことになりました。」 みんな、さえっちと聞いただけでちゃんと誰のことか分っていて、まりねの告白にしーんと静まり返って聞いてたけど、話し終わると同時に大きな拍手と、たくさんの励ましの言葉が飛び交った。ちょっと姉貴肌だったまりねでもいろいろあったんだなと思うと同時に、さえっちの力を改めて感じ、複雑な思いが頭の中を巡るばかりだった。
さて、
「Aテーブルは全員回ったから、次Bテーブルの番だよ。」 美菜ちゃんの呼びかけに、
「じゃあ、清水続きで俺から行くな。」と、私の隣の清水君が立ち上がった。じゃあ、時計回りで次は私だと思い、何かどきどきして、清水君が何云ってるのか、あまり耳に入ってない。すると、
「こっちは反対回りで行くね。私は長い挨拶したし、飛ばして、次榎戸君お願いします。」 ここちが何思ってか、勝手に回りを決めてしまった。それも、私をとりににする気だ。それはそれで、プレッシャーきついなと思ってるうちに、榎戸君の番になってた。
「俺には、相変わらず野球しかなくて、高校でも3年間甲子園目指して、最高は2年の夏の東東京大会のベスト16だったけど、大学ではリベンジしたいと思ってる。」と意気込みを見せていた。その入学する大学名を聞いて、私の高2の時のクラスメートであり、友達の彼氏だった4番打者の国島君と同じで驚いていると、次に綾乃が立ち上がろうとした。
「鮫川さんは、座ったままでいいよ。榎戸君、マイク渡してあげて。」 ここちが気を配っていた。
「義足がまだ慣れなくて、ここで失礼します。」 その時初めて彼女の足元を見たが、先に来ていたみんなは既に知っていた様だ。ステッキとは反対側の足なので、云われるまで気付かなかった。どの辺からかは分からないが、まさか切断していたとは・・・
「今は、当然の天罰だと受け止めています。もし、やり直せるものならやり直したい気持ちで一杯です。あの打ち上げの事故の翌朝、まるで誰かに足を掬われるみたいに、階段の最上段の辺から真っ逆さまに落ちました。麗香さんがあんな死に方するの見た翌朝だったから、超恐怖で、咄嗟に兎に角必死で頭とか首とか庇って、そんで足を不自然に踏ん張って、折れて砕ける音がはっきり聞こえて、足に激痛が走って、恐怖と痛さで気が狂いそうでした。複雑粉砕骨折で、ずっと治りませんでした。それでも、切る勇気なくて、動かない左足を未練たらしく付けて、毎日松葉杖で女子高通ってました。私も、あの日食の日の出来事でやっと吹っ切れて、切断する決意しました。高校は、何とか卒業したけど、大学受験失敗して、今はリハビリと、浪人生活です。」 拍手と激励を受けて、マイクを大和田さんに渡す素振りをするかしないかのところで、
「瀬田や韮山は、どうしてんだ?」 榎戸君が訊いた。その問いに、綾乃は再びマイクを握り直した。
「葉月の家は保険嫌いで火災保険も入ってなかったから、、今は一家ぼろアパートで、火事の後遺症で寝たきりになったお父さんをお母さんが看病してます。そんで、葉月は高校なんてとても行けなくて、引っ越し先の栃木の中学出てすぐに働いてます。」 瀬田葉月の家は、確か麗香のお葬式の翌日に、葉月の父親が石油ストーブの灯油を入れ損なったことから家が全焼したんだ。
「瀬田さんに兄弟はなかったの?」 大和田さんが訊くと、
「葉月に2つ下の弟いるけど、弟も麗香さんの子分だったから、揃って罰受けた感じ。そいつも、去年中学卒業して、朝から夜までバイトしてます。」 そこで、1度深いため息をついた後続けて、
「蒔絵は、元々ちょっと変な子だったけど、麗香さんが死ぬの見てから、みんなも知っての通りますますおかしなこと云う様になってました。それでも、3流以下の高校に進学してたんだけど、聞いたところでは、授業中に急に発狂して奇声あげて、今は精神病院に入院してます。」 何とも哀れと思わざるを得ない現状に、みんなも言葉を失っていた。
ありがとうございました。<(_ _)>




