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笑顔でいよう

 前向いて生きて行けたらいいですね。

 さえっちと抱き締め合いながら、キスしていた。懐かしい温もりを感じていた。2人っきりの不思議な世界。周りが何色なのかも分からない。そう、これは夢なんだ。だから、ずっと覚めないでと願った。

 「舞ちゃん、ありがとう。」って、どうして、もう行っちゃうの?

 「ちょっと、待って、もう少し・・」 突然!瑠璃色?の光に包まれて、その光の中に吸い込まれて行くさえっちを必死で呼び止めようとしたけど・・

 目の前には、可愛い顔で寝息を立てているここちがいた。昨日3年ぶりに会ったばかりなのに、その寝顔に凄く愛しさを感じた。あんなに立派に成長していて、それなのに私の前でだけは、凄く可愛い一面を見せたここち。お互い、ずっと友達でいたいと願い、又そういられると確信していた。それぞれ、いずれ彼氏が出来て、もしかしたら家庭を持って、別々の人生を歩むだろう。元より別々の道を歩んで来たのに、今こんなに素直に繋がれるのだから、今更そんなことは問題じゃない。自信持ってそう思えるほど、私達の友情は最大の危機を乗り越えて、今穏やかな温もりに満ちていた。

 私は、布団が肩までかかった態勢のまま起き上がろうとせず、しばらくそのまま、ここちの寝顔を見ていた。左側に寝ている彼女は、丁度こっちに顔を向けていた。すると、その閉じた右目から涙が一筋流れ落ち、左目のそれと合流して枕元を濡らした。きっと、私と同じ様にさえっちの夢を見ているんだね。私はその枕元に落ちる直前の左目の下に伝う筋に、少し肩を上げて右手を伸ばし、皮膚に触れるか触れないかくらいにそっとその雫だけを掬い取り、その微かな温もりを感じた。そして、その手で彼女の髪を撫でたい欲望にかられたところで、はっとした。私が動いたせいで、布団が少しまくれ上がり、バスローブからはだけた、可愛い乳房が覗いていたのだ。今朝の温度は確か10度くらいしかなく、寒いので、その手を引っ込めながら、布団のまくれを直した。そして、その代わりに、たまたま目の前に近付いた顔に咄嗟にキスした。すると、突然2つの手が伸びて来たかと思うと、

 「まいっちは、ずっと友達でいること、よいな。」と抱き付いて来た。

 「あ、ごめん、起こしちゃった。」

 「よいよい、苦しゅうないぞ。」って、そういう夢を見てたのか。

 「ここちって、まじでかぐや姫みたい。」と云うと、

 「ふふん。」と、にっこり笑った。

 「かしこまりました、姫。」 半分まだ寝ぼけているのかと思いつつ、ノリに付き合ってみた。すると、寝た姿勢のまま更に得意気に笑い、

 「じゃあねえ、目覚めの1曲を所望するぞよ。」と来た。まだ8時前だけど、昨夜弾いた時に「部屋の近くまで来ないと聴こえないほど、防音がしっかりしている。」と云ったのをしっかり憶えているみたいで、おどけながらも、躊躇せずに注文して来た。だから、私もよし!と思い、ベッドから起き上がって、

パジャマのままピアノに向かい合った。

 「何か、リクエストはありますか、姫?」って、そこで自分のパジャマのボタンの上の2つが外れていて、私も胸がはだけてることに気付いた。もう、ここち、やったな。

 「では、ショパンの幻想即興曲を弾いて給う。」 昨夜弾いた中で1番気に入ったやつだなと思いながら、外れたボタンを直して、ガウンと楽譜を取り、早速演奏の準備を整えた。目覚めにガウンを羽織って弾くというのは確か初めてだが、心の穏やかさこそが、私の演奏において最大の好条件なのだ。優しさに包まれた朝だから、10本の指が自然に鍵盤の上を舞った。そこから奏でる調べは、朝のひんやりした空気に溶け込み、演奏している私自身をも酔わせ、私は更にその演奏にのめり込むことが出来た。私の演奏史上最高を更新したかも? そして、ここちも最高の賛辞をくれた。新たな始まりを感じた朝だった。


 朝ごはんを食べた後、ママの運転で大宮駅まで送ってもらった。

 「ありがとうございました。」

 「又いつでも遊びにいらっしゃいね。」

 「ありがとう、ママ。帰りは買い物してから帰るから、先に帰ってて。」 車を見送った後、駅の構内に入り、切符の自動販売機で入場券を買おうとした私に、

 「改札まででいいよ。又、東京で会えるからね。」 そう、大学は東京で、それほど離れていないんだ。

 「それでも、私は何か寂しいな。ここちは強いね。」 笑顔のここちに、少し未練があった。そんな私の手を取り、

 「まいっち達と出会えたおかげだよ。素敵な思い出が、私を強くしてくれたの。まいっちだって、そうでしょ。今朝の演奏が、まいっちの成長を物語っているよ。」 話が少し長引きそうなのを悟ったのか、ここちは私を柱の傍の、人の流れの邪魔にならないところへ誘導してから云った。

 「ありがとう。それは、ここちが最高の思い出を思い出させてくれたから。だから、ほんとにありがとう。」

 「それは、私も一緒だよ。」

 「でも、私はやっぱり、ここちほど強くはない。一人でいると、昔の写真見ては泣いてたの。どうして、ここちはそんなに強くなれたの?」

 「出会いを大切にしたいから、かな。最高の出会いをくれたさえっちが、望んでたもの。それは、私達の笑顔だよ。」

 「でも、さえっちを守れず、逃げたんだよね、私弱いから。」 そんな私の頬を、両手で優しくつまんで、笑顔を作ろうとしてくれた。

 「いいことも、悪いこともね、全てあったから今の私があると思うんだ。それは、まいっちも同じだと思うよ。大事なのは、全てを受け入れた上で、1番いいと思う道を選んで、しっかり前向いて歩いて行くこと。」

 「そうだね、」

 「それと、私達は最高の思い出を共有する親友でしょ。これかもずっとだからね。」

 「うん。」

 「笑顔でいよう。」 新社会人になる自分自身に言い聞かせている様でもあった。改札に向かって歩き始めていた。

 「仕事、頑張ってね。」

 「ありがとう。まいっちもピアノこの調子でね。」

 「うん、ありがとう。笑顔でいるね。」 改札を抜けるここちを笑顔で見送り、1度振り向いた彼女と手を振り合った。

 最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。<(_ _)>

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