過ぎし日への誘い
ピアニストを志す少女の青春の1ページです。
大宮学園高校を卒業して数日後の午後、自分の部屋でピアノの練習をしていた時だ。気持ちよく1曲弾き終わったところで、ドアがノックされた。
「なーに?」 ママは、用事がある時いつも、私が1つの曲を弾き終えて、手を止めたタイミングを待ってからノックしてくれる。
「ここちから葉書が来てるわよ。」 懐かしい名前に、私はピアノの椅子を飛び退く様に立ち上がり、数メートル先のドアまで一気に駆け、ドアを開けた。
「ありがとう、ママ。」
往復はがき? 裏の返信用には、❝出席 欠席❞と印刷してある。早速、内側を開いてみた。
「あー、ほんとだあ。」 赤い字で、❝まいっち、元気してる?久しぶりに会いたいな!ここちより❞という、懐かしいくせのある丸みの字が、真っ先に目に飛び込んで来た。
「久しぶりねえ。」とママの云う通り、中学卒業してから丁度3年ぶりだ。あれ?だけど、
「どうして、ここの住所が分かったのかな?」
「舞が教えたんじゃなかったの?」
「ううん、あれから全然連絡とってないよ。引っ越し先なんて誰にも教えてないのにな。でも、ちゃんとここの住所書いてあるね。」 裏返して宛名面を見ると、そこには確かにここちの字で書いてあった。
「それより、どうするの?」 ママに云われてもう一度裏返して印刷の文字をみると、それはクラス会開催の案内だった。
「ママ、私より先に中見たでしょ?」 いくら親子でも、郵便の中身を見るのはマナー違反なので、ちょっとふくれてママを睨んだ。
「ごめん、ごめん。つい、誰からかなっと思って・・」と云われ、ま、いいか。それより、これだとクラス会は半月後で、もう日がない。返信用の宛名は、印刷文字で❝竹林小恋行❞になっていたけど、幹事は、柏谷篤志君との連名になっていた。
篤志君は、さえっちのマンションのすぐ傍に住んでいた。生前のさえっちが、何か書置きしたのだろうか?それと、腎臓治ったのかな?入院が長引いたり、再入院したりで、3学期はほんの少ししか学校来なかったのに・・・
ママには、「スケジュールがどうだったかな?」と、行くとも行かないとも濁したまま、ドアを閉めた。それまでの演奏の調子はよかったので、もう何曲か弾くつもりだったけど、それよりも、久しぶりに思い出に浸ってみたい気分になって、ピアノをそのままにして、中3の夏休みまでの楽しかった頃の写真を取り出してみた。その何枚かを見ているうちに、満面の笑みで写っている自分達の世界に、いつの間にか心が引き込まれていた。これはいけないと思い、今度はピアノをちゃんと片付け、普通の写真とプリクラに分けて、ベッドに転がった。そして、仰向けになって、それぞれの束を頭上に持って来て、1枚づつ味わう様に、その懐かしい世界に浸り込んだ。それらを見た時がいつもそうだから、そうなることが分かってたことだけど、涙が溢れて止まらなかった。やがて腕が疲れて、いつの間にか横向けになって、過ぎた日への旅は、夢の中へと迷い込んでいた。
{--}Zzz「舞ちゃーん!」 金閣寺が浮かぶ池の向こうから、さえっちが手を振っていた。それに応えてようやく追い着くと、舞台の手摺りのところで手招きしていた。あれ?金閣寺に舞台なんてあったかなと思っていると、さえっちに手を取られて、そこから飛んだ。
「うわー!」 叫びながら、さえっちにしがみつくと、彼女は優しく笑いながらキスして来たよお。
「舞ちゃん、大好き!」 青空をバックに空中キス。不思議な刺激に酔いながら、
「私もだあ!」って、もうさえっちとラブラブになって、と思ったら、
「さえっちの浮気者!」って、ここちが割り込んできた。でも、ここちもめっちゃ笑ってる。それに何だ?さえっちは私と抱き合いながら、ここちとも抱き合ってるって、一体何本腕があるのだ?そんなに手がたくさんあったら、ピアノ弾くのにいいなあ!
「そうだ、みんな私のピアノ聴いて。」 私のコールに応えてピアノが彼方から飛んで来た。さえっちとここちが、私の手を両側からとって、ピアノの前に座らせてくれて、鍵盤を見ると手が自然と動く。その奏でるリズムに合わせて、みんなが踊る。さえっちも、ここちも。それに釣られて、くっちょやまりねまで寄って来て、舞ってる。久しぶりに6人揃ったかなと思ったら、あれ?いつもいるはずのずるべえがいないぞ。何でもちゃっかり便乗するずるべえなのに、何故いない?
「ずるべえ!」 {◎◎} ベッドの上で横向きで目が覚めた。夢っていつもそうだけど、変なの!枕元を見ると、ディズニーランドのシンデレラ城の前で6人が映っている写真が表になっていた。そう、ここちの自撮り棒で撮ったこの写真では、ミニーマウスに気を取られたのか、ずるべえだけがよそ見をしていた。
---半月後ーーー
3月終盤の吉日、クラス会の会場である、池袋のビルの3階に着いたのは、開会少し前の0時5分前だった。ドキドキワクワクしながらエレベータを降りると、10メートル程先には、おそらく会場である扉とその横の受け付けで立っている男女の姿。少し太めの篤志君と、小さくて可愛いここち。2人とも変わってないなあ。
「まいっち、待ってたよ。」 受付の前に着くか着かないかのところで、ここちが笑顔で云ってくれた。
「ごめんね、遅くなっちゃった。」 申し訳なさげに、照れ笑いした。
「埼玉からだもんね。遠いところ、ようこそ。」 本当に心から待っていてくれたんだと伝わる優しい口調で、いきなり少しうるっとなりそうだ。
「城崎さん、久しぶり。」 彼も元気そうだ。中3の2学期に急病になる前以来の笑顔?
「体、もういいの?」
「お蔭さまで、もうすっかりいいんだ。3年かかったけど、去年の日食の日以来急によくなって・・」 私の目を見ながら、一見さりげなく放たれたその言葉に、私は改めて心の底から身震いするのを覚えた。
「他のみんなはもう揃ってるよ。私達も席に着こう。」 ここちに促されて私は、その懐かしくも、怪しい思い出の匂いのする顔ぶれの待つ世界への扉を開いた。
ありがとうございました。<m(__)m> 少しづつの次話投稿になると思います。よかったら、よろしくお願いいたします。<m(__)m>




