Nacht01.exe
今でも未だ書きかけの段階ですが、そろそろ進めて参ります。
アリアさん一年以上も固まったままだった……。
「……変死?」
「……あぁ」
固まったままだったアリアがやっと口を開いた。
「……まさか、知らなかったのか?」
「えぇ、初耳だわ」
少年は続けて訊ねる。
「君はそのプレイヤーと、とあるアイテムでいざこざがあったのは聞いた。その後の『彼』について、何も知らないのか?」
「あの時は確か、アイテムの事で争うのがバカバカしくなったのか、デュエルが終わった後は去って行って、……去り際はわたしの事を恨んでいたね。仕返しに来るだろうと思っていたけど、その後は、このゲームにログインしているかすら確認も出来てないし、現実世界でも『彼』らしき人物を目にする事も無かったから……」
「本当に何も知らないのか……」
はぁ……と、少年は溜め息をつく。
「まぁ、『彼』に出会う前に、ジャージを着た不審な男性は目にしてたけど、其処まで現実世界の『彼』を知っている訳じゃないし……。わたしの情報はあくまでもゲーム内の事でしか通用しないし。『彼』に言った事の大半は、あの女の子を助ける為のハッタリなんだよねー」
アリアは、えへへと恥ずかしそうに笑う。
少年はもう一度、溜め息をついた。
「全く、聞いていると呆れる……。じゃあ、その『女の子』については?」
「女の子はずっと店に来てくれてるよ。今日も此処に来てたね」
「……現実世界では会った事はあるのか?」
「……うん、一度会ってるよ。また誰かに襲われないか、ずっと見てあげてたから……」
アリアは何処か寂しそうな、――いや、哀れむ様な表情で頷いた。
そんな表情を見て、少年は哀れみと疑いが混ざった、複雑な表情で続けた。
「……こんな事を聞くのは如何かしてると思うだろうが、彼女に不審な行動は特に無かったか?」
「大丈夫だよ。女の子 ―― 零ちゃん、 現実世界では大きな国際病院に入院していて、身体を全く動かせない状態でいるから……」
「え……」
少年の顔からはついに、驚きと哀れみが混ざった表情が大きく出た。
「CEROレーティングの違反はしてたけどね」
「……確かに彼女が『彼』を襲ったり、襲わせる様に仕向けるのには向かないが、それは聞き捨てならないな」
「まぁ、そこは見逃してあげて♪ 零ちゃん、もう少しで誕生日で迎える事だし」
アリアは何事も無かった様に明るく笑うと、少年は何度目かの溜め息をついた。
「……分かった。事情聴取に付き合ってくれて、どうもありがとう。もう君の話を聞いてても、僕の溜め息しか出ない」
「うん、ゴメンね♪」
「……その女の子がCEROレーティングに違反してた件は見逃しておく。彼女一人だけが違反しているとも限らないし、そんな人達、巨万といるだろう。そう考えれば、大人でもないただの高校生が一々注意する、というのも気が引ける」
「このゲームにログインするのも、そんなに難しい事じゃないしね?」
そうだな、と少年は適当に相槌を打つ。
「それにしても何で刑事さんの様な事を? まぁ、貴方のお父さんは刑事だけど、もしかしてご――」
「しかし、それでは色々と困る。今回起きた一件で何かが起きるかもしれない……。RG‐βを用いた大きなイベント……」
少年はアリアの言葉を打ち消す様に思っている事を述べた。
アリアは少しムッとした表情を浮かべていたが、直ぐにニンマリとした表情を作り、仕返しするかの様に話し始めた。
「近い内に、東京ゲームショウ20XXが幕張メッセで催されるでしょ? 実はRG‐βを用いた大きなブースがあって、色々なゲームの体験版をプレイするのがあるのよ」
「……何だって?」
「仮想現実の良さを更に広げる為だって。あ、この情報はついこの間出てたニュースね――」
少年は急に立ち上がり、勢い強くカウンターの机上を叩いた。
「それは一大事だろ! ……恐らく、事件の犯人も動かない筈が無いな。それっていつ行われるんだ?」
「確か再来週の土日だったかなー……。でも、あのラノベのお話の様に、ログアウト不能の危険性が無い事は証明されているんでしょ?」
「……それは理論的に語れば、確かだが。しかし、その保障は百パーセントという訳じゃない。何処かに抜け道は幾つかある筈だ。何もかも完璧に作った物のつもりでも、必ずデメリットはある。……親父にその事を伝えておかないと」
少年はそのまま、アリアに背を向ける。
「……じゃ、そろそろ寝よう。また明日。お休み」
「うん、おやす――あれ? 『彼』の変死についてのニュースとか、見せてくれないの?」
「それについては君自身で調べてくれ。……情報屋なら、どうやって情報を得ようとするか、分かるだろう? そのイベントの情報の様に」
「友達の癖に不親切だねー」
「……何とでも言ってくれても良い。これ以上は君に何話しても、僕にとって得するものが恐らく出て来ないだろうから、話し様が無い。……お休み」
アリアが納得いかない表情をするも、少年は書庫喫茶から立ち去って行った。
(To be continued......)